破魔祈祷
翌々日、御所の前庭に木を格子に組んだ護摩壇が作られた。
大学祭で、似たようなキャンプファイヤー的なものを囲んだことはあったが、なかなか楽しみである。
これに修験道の山伏のような人が沢山来ている。何をするかというと、私を祓うのだという。ヤツの頭の中は全て分かる。
ちなみに、毎日2回、ヤツの足の小指はどこかにぶつかり続けている。
「ほほほ、どうじゃ悪霊よ。お主を祓うために祈祷を行うのじゃ。今更後悔しても遅いぞ。存分に苦しむがよかろう。」
『まあ、無駄な努力だとは思うが、精々頑張ってくれ。』
護摩壇に火が付けられ、祈祷が始まる。
見事な儀式である。火を囲み、必死に祈祷する山伏たちの姿は、自分が祓われていることを忘れてしまうくらい美しい・・・
「どうじゃ、苦しめ苦しめ!おほほほほ。」
『良い物を見せてもらったが、それ以上のものは何も無いぞ。』
「強がらずとも良いぞ。さあ、疾く立ち去った方が身のためぞ?」
そうは言われても、立ち去り方など分からない。
第一、誰が好き好んでこんなダメ人間に取り憑きたいものか。
そうして長い祈祷が終わり、私には何事も無かった。
「ま、まだおるのか・・・」
『当然だ。むしろ、あんな祈祷で何が祓えるのか知りたい。』
「な、何じゃと?おのれ、エセ山伏め!まったく効き目が出ていないではないか!監物(羽生道成)!どうなっておるのじゃ!」
「御所様、大変申し訳ございませぬ。この辺りで一番腕の立つ者を集めたのですが。」
「全く祓えておらぬわ。エセ修験者ならこの場で斬り捨ててやるぞよ。」
「お待ち下さい。」
「監物よ、これはどう責任を取るつもりでおじゃるか?」
「そ、それは・・・」
『兼定よ、鎮まれ。』
「何じゃ、悪霊。」
『山伏に神が祓える訳が無かろう。自分の不見識を他人のせいにするのは、愚者のすることよ。』
「何を・・・」
『とにかく、このようなことが無駄なことは十分分かったであろう。』
「き、今日のところはこの辺にしてやるぞよ。ただし、今に見ておるのじゃ。」
『そなたごときに、どうにかできるものではないぞ。』
兼定は自室に入り、ふて寝してしまった。
さて、本当であれば、一刻も早く起きて、契約書か辞表をを作成しないといけないんだけど、どうやっても起きられない。
この夢はゲームの世界を基準に構築されている。視界の左下に表示されているステータス表が証拠だ。こんな物、ゲーム以外にあり得ない。しかもヤツの能力は、あの有名なゲーム「ノブナガの希望」に準拠している。
しかし、ヤツと話をして見れば分かるが、多少、平均よりは下かなとは思うものの、知力7はあんまりだろう。
知力7は日常生活にも支障が出るレベルだろうし、知力7の人間に22の政治力はとても発揮できないだろう。武勇9だって、今そこを歩いている下女より弱いのではないだろうか。
いくら何でも同じ人間でそれほど能力に差が付くとは思えないが、ここはゲームの世界。
そして私は多分、プレイヤー・・・
だが、何を試してもゲームらしい操作はできない。
中には一条氏で天下を統一してしまうような猛者もいるのだろうが、実際には無理である。現実でも高知県は日本の端っこだし、私の実家のある四万十市は高知県の中でもド田舎だ。
あの有名な四万十川の畔であるが、清流なんて、人が居ないから成立するものなのである。
ここから天下統一など無理ゲーもいいとこだし、一条氏が生き残るだけでも大したモノだと思う。
そうは言っても、目覚めるまではこの夢のプレーヤーだ。何もしないのは退屈極まりない。ここは、夢から覚める方法を探すと共に、ここで何をするかを考えるべきなのではないだろうか。
ということで、現状を整理してみる。
ヤツからの情報によると、彼は齢13で、元服したばかりらしい。
確か1540年頃の産まれだったはずだから、今は1555年頃である。
現時点で土佐の最大勢力は一条氏で、石高は約3万石だったはず。
そして、土佐国内ではいくつかの勢力が割拠しており、互いに反目した状態である。
この状況に変化が生まれるのは1560年。世間一般には桶狭間の戦いが有名だが、ここでも長浜の戦いにより本山氏と長宗我部氏の対立が表面化するとともに、元親が父の急死を受けて家督を継ぐ。
これにより土佐国内が本格的に乱れていくのだが、今はその数年前、という訳だ。
ここから逆転、までは行かないまでも、生き残りはしたい。
いくらゲームとは言え、滅亡エンドは嫌である。
ただでさえ、現実ではブラック企業勤めの負け組なのに。
それに、地元出身者としての意地もある。
一応、地元では「いちじょこさん」と親しまれる存在なのである。
取り敢えず、この夢の中での役割が決まりました。