織田信長本人に会う
使いを出して2日後、信長との面会が行われることになった。
どうやら領内に出かけていたようで、急遽帰って来てくれたようだ。
「これはお忙しいところ急に呼び立ててしまったようで申し訳ない。それがし、一条左近にござる。気軽に左近と呼んでくれるとありがたい。」
「こちらこそ待たせてしまい恐縮でございます。織田弾正忠と申す。それがしも気軽に弾正とお呼びいただきたい。」
「先の戦では見事今川の首を取ったとのこと。まことおめでとうございます。」
「ありがたきお言葉、痛み入ります。それで、今回はどのような用件で参られたのであろうか。」
「うむ。一つはそなたにあやかって熱田で戦勝祈願をしようかと思っての。それに、これから勝ちを重ねて世を統べる傑物の尊顔を是非、拝みたいと思ってきたものじゃ。」
「それはげに大げさなことよ。それがし、今川を破ったとは言え、まだようやく尾張一国を確たるものにした者に過ぎん。」
「こう見えても麿は神懸かっておっての。そこもとこそが、次の世を作る者と見込んでおるのだ。」
「ほう?荒唐無稽ではあるが、面白いし有り難い事よ。一条家の重鎮にそう申していただくだけで、それがしの評判も上がろう。」
「何も荒唐無稽な事を言っているわけではない。まあ、にわかに信じろというのは無理があるが、これでも国元では神懸かっていると評判だ。調べてもらっても構わんぞ。」
「それで左近殿は今、いかほどの領地をお持ちか?」
「予州と土州の二カ国じゃ。つい二年前までは土佐二郡に過ぎなかったがの。」
「ほう、それはなかなか凄いことであるな。よほど戦が強いと見える。」
「それでも今川ほどの敵はおらなんだ。」
「そこまで持ち上げられると面映ゆい。もし、左近殿さえよければ、今晩一献、どうであろうか。いろいろ話を聞きたい。」
「麿も酒は好きであるぞ。是非ご相伴に預かるとしよう。」
『のうのう、結構気に入られたのではないか?』
『ああ、怒って追い出されることも考えたが、おだてには弱いみたいだな。』
『それにしても、武家の言葉は使い慣れておらぬゆえ、大変じゃったぞよ。』
『まあ、相手に合わせた方が心証が良くなるだろうし、武家の言葉なら聞き慣れているのでは無いか?』
『幡多弁と尾張言葉はかなり違うと思うぞよ。』
『まあ、相手も相当合わせてくれていたからな。』
そして、宴となり、織田家の重臣たちも居並ぶ。
恐らく歴史上の有名人も多数いるのだろうが、顔はさっぱり分からない。
「では本日、土佐から遙々お越しくださった、一条左近殿を歓迎して、乾杯じゃ!」
「おうっ!」
「そうそう、弾正殿。堺で手に入れた茶器をそなたに贈ろうと思っての。受け取ってはもらえるか。」
「それはありがたい。それがしも茶の腕前はまだまだではあるが、いずれ恥ずかしくない手前を左近殿に披露したい。」
「それでは互いに研鑽に励むとして、今日は酒の方を楽しもうぞ。」
「ではまず、客人に一献。」
「これはありがたい。して、これから美濃を平らげますかな。」
「大きな声では言えぬが、そのつもりだ。」
「良いではないか。7年もすれば新九郎(義龍)も去るでの。」
「左近殿、それはまことか?」
「うむ、間違いない。どんな人も病には勝てぬ。そなたはその後伊勢、近江を瞬く間に平らげ、覚慶殿(足利義昭)を奉じて京に入る。麿にはそれが見えるぞ。」
「それは・・・」
「言ったとおりの事は起きる。天下を統べ、戦の世を終わらせるのじゃ。」
「それがしが、天下を・・・」
「麿もできる限りの協力はするゆえ、安堵なされい。まあ、麿は四国と淡路くらいで満足だがのう。」
「そうなれば領地を接することになるな。」
「その時を楽しみにしておる。」
「そうなれば左近殿と戦うことになるかな。」
「弾正殿と麿が戦う未来はないぞよ。」
「そうか、それは良いことだな。」
「しかし、京は三好が威勢を張っている。そう簡単では無いが。」
「三好もあと数年がいいところよ。そなたが美濃を平らげる間には衰えていよう。もちろん我らも讃岐と阿波をいただくがの。」
「なるほど、それなら畿内も容易いか。」
「東は松平殿に任せたのであろう。」
「知っておったのか。」
「だから、麿の言うことは嘘では無い。」
「そうなのか・・・では、左近殿に一つ願い事を頼んで良いか。」
「麿に出来ることならするぞよ。」
「今、ここにおる家臣共が奮い立つよう、何か一言いただきたい。」
「分かった。お安いことよ。少し時間をいただくぞ。」
兼定は立ち上がる。
「ここにおられる織田家中の者よ、よく聞け。そなたらの主は日の本一の大将じゃ。これから多くの領地を平らげ、そなたらを大身に導く唯一の益荒男じゃ。これは従三位左近衛少将である麿が神仏に誓ってここに宣言する。織田弾正殿に忠義を誓い、よく励め。」
「はっ!」
何だか凄いことになりつつ、宴は終わった。




