統治体制の構築
あれから数日・・・
「先日はまこと見事な差配にございましたな。」
「上手く行って何よりじゃの。」
「それで、掟書の次なる一手があるようで。」
「その通りじゃ。ただ家臣にしただけでは勿体ないからのう。家臣は使いこなしてこそよ。」
「確かに。それにしても、御所様は次々に手を打ちなさりますなあ。」
「強くならねば生き残ることは叶わぬからのう。」
「良いお覚悟と存じ上げます。それで、いかに・・・」
「うむ。次は領内の統治体制の整備じゃ。筆頭家老、家老の下に評定衆と役職を置き、これに直臣が加わって広い領地を治めるのじゃ。」
「それは、とても画期的と言いますか、何やら幕府のようですな。」
「名誉なことでおじゃろう?」
「はい。それで、どのようになさるのでしょうか。」
「まず、評定衆の直臣の中で、内政担当の民部、軍事担当の兵部、法や刑を担当する刑部、儀礼を担当する式部、交渉担当の申次、調略担当の番頭、普請担当の作事のほか、寺社、鉄砲、兵糧の三奉行を任命するのじゃ。」
「なるほど。しかし、直臣は25家ございましたな。」
「任期を定めても良い。また、評定衆同士の互選でもよかろう。」
「そうですな。それと、番頭とはどういう意味でございましょう。名が体を表していないというか・・・」
「調略担当と大きな声では言えまい。」
「なるほど。それで、評定はどうやって行うのですかな。」
「各自が担当する策を評定衆で合議し、採用となったものを家老が確認後、筆頭家老が最終判断を下すという仕組みじゃ。」
「それでは、敢えて何も決めないといった不届きな者が出て来ないとも限りませんぞ。」
「何も統治を評定衆だけに行わせる訳では無い。麿や家老衆が発議してもよかろう。」
「確かにそうですな。」
「そして、採用された策は、家老が責任者を指名してやらせばよい。」
「なるほど。」
「それで功を積むという方法もあろう。」
「そうでございますな。」
「それに、直臣もいずれは譜代になろうて。」
「なるほど、程よい餌も用意されているのですな。」
「そうやって人心を掌握することこそ、今後の麿の主な仕事になるぞよ。」
「確かに、領地が大きくなれば、全てを御所様が見る訳にはいかなくなりますからな。」
「正直、今でも時間が足らぬぞ。」
「今は立て込んだものもございませんので、しばらくお休みになられてはいかがでしょう。」
まさか、兼定が休めと言われる日が来るなんて・・・
「それで、家老やそれがしの仕事は大分減るように思いますが。」
「一条家の蔵入地の仕事は多いと思うぞよ。それに、忙しすぎると大事な事を見逃す懸念もある。上役は少し余裕を持つべきじゃ。」
「確かにおっしゃるとおりにございますな。」
「それと、最も重要な当家の金勘定は信用ある者にしか任せられぬ。」
「それはこれまでも筆頭専権事項でございましたな。」
「よろしく頼んだぞ。」
「御意。」
『のうのう、また麿の評判が上がるのう。』
『不本意だが、そうなるな。』
『さすがの悪霊も、麿の素晴らしさに言葉を失っておるではないか。』
『少将の評判のほぼ全てが、我の知恵であることをこれほど見事に忘れられては、呆れて言葉が出ん。』
『それも麿の深慮遠謀のうちよ。』
『とても幸せそうだな。』
『麿は戦場以外ではいつも幸せぞよ。これからも頼むの。』
兼定が何だか憎めなくなってきた・・・




