土佐国内を結束させる
軍議後、大友方面の交渉を、貴族である飛鳥井雅量に、宇都宮との交渉と伊予方面の情報収集に為松若狭守を当てた。
領内はあくまで平穏を保っているが、これは他家からの間者を欺くためであり、実質的には戦時体制である。
兼定は長宗我部国親と安芸国虎にも書状を書き、3人で合議と親睦を図ることにした。
現在、兼定は会見場所である香宗城(現:香南市野市)に向かっているところだ。
ここは香宗我部氏の居城であるとともに、長宗我部と安芸の勢力圏の境に当たる。
天下の一条家当主がわざわざ赴くのも妙な話だが、史実では、長宗我部元親が安芸国虎を岡豊城に招こうとしたところ、格下に見られたと感じた安芸氏側が戦を仕掛けたと言われている。
そんなことになっては面倒なので、ここは敢えて国司自ら出向き、彼らの顔を立てるのである。
『また揉め事など起きなければ良いのう・・・』
『そこは土佐国司としての腕の見せ所よ。』
『何より、麿はあの宮内少輔は苦手でおじゃるし、安芸備後守は初対面ぞよ。』
『何を言っている。宮内少輔は一条に大恩ある身だし、備後の妻は姉なのだろう?神懸かりの噂は、今や土佐中に広まっているし、堂々としていればよいのだ。』
『それに、闇討ちなどされたら嫌ぞよ。』
『ちゃんと乗馬の練習をしないからだ。まあ、すでに跡継ぎもいるから問題無いだろう。』
『そういう問題では無いでおじゃろう・・・』
香宗城に着くと、既に到着していた宮内少輔と安芸備後守、城主の香宗我部内記(親泰)と先代の香宗我部右衛門尉(親秀)に出迎えられた。
「これは御所様、遠路お越しいただき、誠に光栄至極でございます。」
「よいよい。そなたらと誼を深められるのであれば、このくらい、どうということはないぞよ。」
「では、中に。食事の準備をしております。」
「備後守は初めてでおじゃったのう。姉は息災か。」
「はい、お陰様で、子も二人おりまして、仲睦まじくやっております。」
「それは重畳。これからもよろしく頼むぞよ。右衛門も初めてでおじゃるな。」
「はい。これまでお会いできず、誠に申し訳ございません。」
「まあ、このような時勢じゃ。致し方なきことよ。これからはよろしく頼むぞよ。そして、そちらの若者は今の当主よの。」
「はい、宮内少輔殿のご厚情により、養子を迎えることができました。」
「そうか。内記殿は長宗我部の出であったの。」
「はい。当家も長宗我部の支援を受けて盤石にございます。」
そうこうしているうちに、宴の準備が完了する。
「して宮内少輔殿、本山を国境付近まで追い詰めたそうであるが。」
「はい。敵も長期戦を狙い、立て籠もったまま出てきませんが。」
「しかし、堅固な山城とはいえ、小さいのであろう?」
「ええ、取り囲む我が軍も千五百程度にございます。」
「それで、本山をいかがする考えにおじゃるか?」
「はい。当然茂辰の首は取りますが、親辰は御所様の曾祖父、権大納言様のご厚情により、縁を結びし娘の子にございますれば、一命は助けても良いとは考えております。」
「そうか。麿もそれが良いと思うぞ。それで、降伏勧告はしたのか?」
「はい。しかし、栄えある武門の名折れ、生き恥は晒さぬと、降伏する兆しはございません。」
「ならば是非も無いのう。分かったぞよ。存分にするがよい。」
「はい。有り難きお言葉にございます。」
「それで、本日こうして有力者に集まってもらったのは他でもない。今後、一条、長宗我部、香宗我部、安芸の四者が争いを起こさぬよう、提案に参ったのじゃ。」
「それは・・・」
そりゃ「はいそうですか」とは言えまい。
「ここで互いに名を連ねて盟約を結び、以後の私闘は麿の名において禁止し、もし、約を違えることがあった場合には、麿が裁定を下す。どうでおじゃるか?」
「はい。この安芸備後、御所様のご意向のままに従いまする。」
「宮内少輔はどうかの?」
「わ、かり申した・・・」
「さて、これで長年続いた土佐の争いについては一段落したのう。目出度いことじゃ。」
「御所様の仰せの通りにございますな。」
「それでじゃ。もう一つ、こちらはそちらに頼み事があるのじゃがな。」
「何でございましょう。」
「当家は近々、伊予に攻め込もうと考えておる。そなたらにも兵を出してもらおうと思うての。」
「安芸家はもちろん出しますぞ。」
「おお備後よ、それは有り難いことよの。働き次第では褒美を期待してくれても良いぞ。」
「それは有り難き幸せに存じます。」
「宮内少輔殿はいかがかのう。」
「当家は・・・まずは本山を平らげることが肝要ゆえ。しかし、大恩ある御所様たっての頼みとあれば、できる限りの協力はさせていただきまする。」
さっき千五百しか動員してないって言ってたし・・・
「うんうん。麿は満足じゃぞ。これからもそちらの忠義に期待しておるぞよ。」
こうして宴はつつがなく終わり、土佐の火種も取りあえずは消えた。
やはり圧倒的な力があると交渉も捗る。
また、兼定の評価が少し上がった。




