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一条兼定なんて・・・(泣)  作者: レベル低下中
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信長を見舞う

天正11年(1583年)7月


6月20日に松山を発った兼定は、7月1日、大坂城に入る。

 信長は一月程前に突如、倒れたそうで、胸が悪いとのことであるが、まだ意識はあるそうだ。


「父上!父上、大丈夫でございますか!」

「おお、徳か・・・久しぶりだな。元気そうで何よりだ。」

「義父上、万千代にございます。」

「おお・・・儂の孫でもあるな。大きくなったな。」

「お久しゅうございます。栄太郎におじゃりまする。」

「ついでの内府もおるぞよ。」

「はっはっは。苦しいのだから笑わせるでないわ。」


 大坂城の本丸御殿。

 さすがにここに入れるのは、ごく一部の限られた要人だけだ。

 その中の一室であるが、さすが療養する場所なだけあって、簡素で静かな空間だ。


「父上の容態はいかがなのです。」

 徳は典医に様子を聞く。


「はい。今は小康状態ではありますが、かなり臓腑が弱っていることは確かでございます。」

「だから酒を控えるように言うたのに。」

「好きなものを控えて生きる人生に、価値など無いぞ。」

「そう言うてもおれぬ立場じゃろうに。」


「まあ、人間五十年だ。丁度良い頃合いでもある。」

「上様は知らぬのか?最近は人生八十年時代と言われておる。」

「知らんな。大体、切りが悪い。やはり五十年だ。」

「頑固じゃのう・・・」


「しかし、粘り強く生きていて良かったぞ。危うくそちらに会わずに去るところであったわ。」

「何でも上様に先を越される訳にはまいりませぬゆえ、もう少し我慢なされい。」

「そちは儂より先に行くなよ。まだ菅九郎は若い。そなたらの補佐は必要だ。」

「それは父の役目ぞ。麿はそれを後ろから応援していただけでおじゃるよ。」


「なら、次郎三郎とそちで、これから頼むぞ。」

「後生でおじゃる。快復してくれねば皆が路頭に迷うでおじゃるよ。」

「そちがいれば安心だと高をくくっておるのだがな。」

「買いかぶりでおじゃる。上様の代わりは誰にも務まらぬでおじゃるよ。」

「最後までそう言ってもらえる人生であったことが一番喜ばしいことだったと思うておる。」

「父上・・・」


 病人をあまり喋らせても申し訳ないので、そこそこのところで屋敷に下がる。



『のうのう、せっかく暗殺を乗り切ったのに、たった一年寿命が延びただけではないか。』

『だが、突然謀叛が起きて、菅九郞殿まで落命するよりは随分マシだ。まだ寿命と決まった訳では無いが、健康に不安あるとなれば、不遜な輩が湧いて出てくるぞ。』

『しかし、そんな力を持つ大名などおらぬぞよ。』

『何も、直接幕府を倒すとは限るまい。自らの権勢を拡大したい者、他人を操り、けしかける者、将軍家の混乱を企てる者、やり方は色々だ。とにかく、用心しろよ。』

『分かったでおじゃるよ。』

 何てことをレクチャーしていると、同じく急いで来たのだろう家康とすれ違う。


「これは内府殿、そなたも見舞いに?」

「もちろんじゃ。徳川殿も見舞われたのでおじゃるな。」

 家康に内府殿と呼ばれると違和感がハンパない。


「ええ、それで、内府殿、少し、よろしいでしょうか。」

「うむ、良いぞよ。」

 兼定は家康にあてがわれた屋敷に入る。


「何か、人に聞かれては不味い話かの?」

 まあ、家康と二人きりなら、だいたいそうなのだろうけど・・・


「そうでございますな。できればここだけの話とさせていただきたいのですが。」

「うむ。そなたと麿の仲じゃ。忌憚なく申すが良いぞ。」

「では、これからいかがなされまするか?」

「何かすべきことでも?」

「ええ、まずは上様にその座をお引きいただくべきかと。」


「それは上様がご判断されるべきこと。臣下がとやかく言うものではおじゃりませぬぞ。」

「しかし、今のままでは何かと滞りがちになるのでは?」

「それも含めて上様のお考えに従うぞよ。」

「その後は。」

「回復をお祈りしてもるぞよ。」

「内府殿も水くさい。忌憚なくでござる。」

「もし、万が一のことがあれば、菅九郞殿を全力でお支えするぞよ。もちろん、徳川殿も異論はあるまい?」


「菅九郞殿はまだお若い。」

「そうじゃの。しかし、若い以外に何か問題でもあるかの?」

「では、一条は立たぬと。」

「はて?何の事やら。麿がどこで何に立つのでおじゃるか?」

「上様の次でございます。」

「徳川殿。では聞こう。麿が死んだ後はそなたが立つのか?」

「いや、それは・・・」


「不当に奪ったものは不当に奪われるものよ。そして、徳川殿の後は、また別の者が奪うであろうの。しかし、それを百年やった結果があの有様じゃ。また、あの時代に戻したいと申すでおじゃるか?」

「いえ、決してそのような。」

「麿はもうあんな時代はこりごりじゃぞ。それに、上様は蝦夷地から薩摩まで全て武をもって統一した。これ以上の正当性を持つ者が、今の日の本におるかの?」

「いいえ。」


「ならば、別の者が立っても、異議を申し立てる者や遺恨を持つ者が出るぞよ。その者の好きにさせておいては切りがないぞよ。」

「その通りですな。」

「ならば、どこかでその風潮を断ち切るしか無い。今なら簡単じゃし、今を逃せばまた百年争うことになろうぞ。」

「内府殿のお気持ち、よう分かりました。」


「どうせ徳川殿のお考えではあるまい。しかし、心当たりがあるなら伝えてたもれ。世を乱す輩は一条がお相手つかまつる、との。」

「はい。確かに・・・」

 こうして、家康との密談は終わる。



『のうのう、今の麿、なかなか格好良かったであろう?』

『まずそこかよ。本当に内府はお気楽だなあ。』

『どうせ麿を引っかけるハッタリであろう?』

『その可能性もあるし、本当に探っていたのかもしれん。』

『しかし、あの程度のことで惑わされると思われているのは、納得いかんのう。』

『知力7が相手なら、至極妥当にも思えるが。』

『どう低く見積もっても90は下るまい?』

『いや、まぐれ当たりは多いが、確かに7だ。』


『じゃが、徳川殿が90を超えておるのじゃろう?算定方法がおかしいでおじゃるよ。』

『まあ、確かに50くらいはあってもいいとは思うがな。』

『世の中、麿にだけ厳しいぞよ・・・』


『しかし、今日の返しは良かったぞ。相手に付け入る隙を与えなければ、それでいいんだからな。』

『麿は口先と保身だけは長けておるぞよ。』

『ああ、期待してるぞ。』

『任せてたもれ。』


 しかし、これが当分続くんだろうなあ・・・


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