ゲームクリアの条件
さて、本来ならここで壮大なファンファーレとBGMが鳴り、エンディングのムービーが流れるはずだが、それはない。
一体いつエンディングなのだろう・・・
もしかしたら、終わらないゲームかもしれないし、この後、とんでもないどんでん返しがあるのかも知れない。
そもそも、ゲームですら無いのかもしれない。
さて、以前ならエンディングを迎えて、目が覚めるのではないかと思っていたが、エンディングが来ないということは、これからも生き残りゲームが続くということだから、まだ油断はできない。
そう言えば、このゲーム、結構イラッとする強制的なシナリオ展開を見せることもあったなあ。
良くない事が起きそうでゲンナリもしてしまうが、どうせ予想なんてつかないので、悩んでも仕方無い。
まずは松山に帰って仕事をさせるしかない。
信長は毎日忙しく動いていて、珍しくドンチャン騒ぎの回数は控え目だ。
しかし、こういうことが元々好きなのだろう。
忙しくてもエネルギッシュに働き、機嫌もいい。
対する兼定は都に戻り、毎日遊びほうけている。
今は、三条家主宰の歌会が終わり、歩いて屋敷に帰る道すがらである。
『これは泰平の世というものなのじゃのう。』
『あまり都に長居したくはないがな。』
『公卿連中に呼び出されて、便宜を図れと迫られるばかりじゃからのう。』
『だがその代わり、次の関白様が総領様に内定したし、中納言もそれに合わせて昇進が決まったからいいじゃないか。』
『正三位、権大納言ぞよ。おほほほ!』
『まあ、この国で二番目の実力者だから、もう少し官位も上がると思う。』
『一条が土佐に下向してから、権大納言が最高位じゃからのう。これ以上あがったら、ご先祖様にも胸が張れるの。』
『確かにそうだ。だが、高祖父や祖父は正二位だったのだろう?』
『もうすぐぞよ。何せ、上はおじいちゃんしかおらぬぞよ。』
『ここまでくれば、もう待っていても転がってくるとは思うが、油断するなよ。』
『任せるでおじゃる。生まれてこの方、油断だけはしたことが無いでおじゃる。』
この調子の良さは常時発動しているが・・・
『ところで、将軍にはいつ就任するんだ?』
『帝も急いで任命したいらしい。公卿どもも、いつもはゴチャゴチャ言うくせに、今回ばかりは皆乗り気じゃ。恐らく年明けにやるじゃろう。金は弾正殿が弾んでくれるじゃろうし、当家も祝儀は出さねばならんしの。』
『ただの金目当てでもなかろう。あの癇癪持ちがせっかく朝廷の意向に従うというのだ。そりゃあ、ホイホイ準備するだろうな。』
『麿の官位もそこで上がるのかのう。』
『ちょっと袖の下を頑張れば、将軍就任祝いで上げてくれるかもな。』
『ならば、帝と二条家と近衛家と鷹司家と。金ならあるからのう。』
『嬉しそうで何よりだ。』
『しかし、それまで都に滞在というのもさすがに飽きるぞよ。』
『何だ、歌会にお茶会、毎日楽しそうにしているのに。』
『確かに、風雅な遊びは好きでおじゃる。しかし、麿は公卿に親しい友人はおらぬ。』
『それは仕方ないな。土佐出身の半分侍だからな。』
『そうじゃ。結局のところお峰や宗太郎と一緒に居る時が一番気が休まるのじゃ。』
『それならいっそのこと、お峰の子が産まれるまで、都にいたらどうだ。』
『それも捨てがたいがのう。でもそんなに長く都にいたら、鶴と日吉丸に顔を忘れられてしまうぞよ。』
『そうかも知れんな。そしたらとても優れた子に育つかも知れん。何せ、お松とお秀はしっかりしているからな。』
『まるで、全部麿が悪いようではないか・・・』
『だが、あの二人はなかなかの良妻賢母だと思うぞ。』
『それは間違い無い。麿の薫陶を受けておるからのう。』
時々思う。
コイツは戸島でも結構楽しくやってたんだろうなあと・・・
『ところで、悪霊はさっき静かじゃったが、何か悩み事かのう?』
『いや、少し、この世界の終わりについて考えていた。』
『何じゃ。せっかく新しい世界が始まろうとしている時に。』
『そうだな。そうだったな。』
『神でもないくせに、難しいことを考えるものじゃな。』
『結局、答えは出なかった。』
『それはそうでおじゃろう。神が作った世であっても、その行く末は神ですら分からぬ。人が育む世じゃからの。』
『神のみぞ知るとも言うぞ。』
『あれは匙を投げる時に使う言葉じゃ。』
『本当に中納言は、時々良いことを言う。』
『麿は、溢れる教養を決して他人にひけらかしたりはせぬからのう。時々じゃ。』
『そのドヤ顔さえなければなあ・・・』
『覚えたぞよ。「どうやっ!」じゃろ?』
身振りと、きっと変顔をしているのであろう。道行く民がどん引きしている。
『本当に幸せそうだな。』
『もちろん。麿は毎日幸せぞよ。』
こういう日々も悪く無いと思う。本当に・・・




