今後の戦略目標を立てる
永禄2年(1559)4月
この月、ついに本山城が落城したとの知らせが入った。
本山茂辰、親茂親子は伊予との国境に程近い瓜生野城に立て籠もったのは史実どおりであるが、既に大勢は決しており、ここから本山が盛り返すことは無いだろう。
先々代、本山梅慶から続いた全盛期から一転、滅亡の憂き目に遭うはめとなった。
これだから戦国の世は分からない。
茂辰の妻、つまり親茂の母が長宗我部国親の娘なので、茂辰はともかく親茂は助命される可能性があるが、当方に降った西園寺程度の扱いしか受けないだろう。
本山が滅べば、長宗我部が長岡郡、香美郡及び土佐郡の大半を得る事になる。
それでも吾川郡、高岡郡、幡多郡と宇和郡の大半を領する一条家は長宗我部氏の4倍以上の領地を保有している。
しかも東部安芸郡を領する安芸氏もこちら側の勢力であり、むしろ長宗我部とは対立関係にある。
国内はこの微妙なバランスによって保たれていると見て良い。
懸念があるとすれば、安芸が長宗我部との決戦を決意した場合だ。
両軍は兵力的にはほぼ互角と見ており、安芸が当方の助勢を当てにして勝手に動く可能性がある。
伊予は河野と宇都宮が対立関係にあるが、河野から戦を仕掛けてくる可能性は低い。
これは、現当主の力が弱く、家臣団を統制できておらず、始終どこかで謀反が起きているほか、最近は水軍衆とも関係がギクシャクしている模様である。
ただし、河野の後ろには毛利が付いており、まともに戦って勝てる相手ではないが、これを無視して宇都宮が勝手に北上を始めて当家が巻き込まれるというのが、現状での最悪のシナリオである。
阿波、讃岐方面については、三好が畿内での勢力拡大にご執心なため、こちらへ積極的に攻めてくる状況に無いが、安芸などは、たまに小競り合いを演じているようだ。
中国地方は毛利と尼子が頂上決戦を行っている最中である。
また、九州では大友を始めとする各勢力が付いたり離れたりを繰り返しながら勢力争いの真っ最中であり、基本的に関係ないが、大友から援軍要請が来て、無駄に兵を消耗させられる懸念はある。
「というのが、現在の当家を取り巻くおおよその状況であるが、皆の意見を聞きたいぞよ。」
「当面、当家に敵対する勢力は近くに居ないとお考えなのでしょうか。」
「そうじゃ。注意すべきは河野と宇都宮の関係じゃのう。」
「遠江守殿はかねてより河野の領地を欲しがっておりました。宿敵西園寺が当家に降った今、彼らが全軍で北上しても不思議はありません。」
「面倒よのう。そうなるとこちらも援軍を出さざるを得んであろう。」
「そうですな。」
「しかし、そうなると毛利が介入してくるおそれがあるぞよ。」
史実でも河野を攻めた宇都宮・一条が毛利氏の介入により大敗を喫している。
何と言っても地力が違いすぎる。
「御所様、毛利は今、尼子との決戦の最中にありまする。こちらに援軍を出す余裕など無いのではございませぬか?」
「申し上げたき策がございます。豊後の大友殿に兵を動かしてもらい、毛利を牽制してもらうというのはいかがでしょう。大友も先年、大内を滅ぼされ、毛利に対しては怒り心頭なはず。」
「しかし、我らが伊予に注力している間に土佐が乱れても困る。」
『のうのう、予想以上に議論が白熱しておるが、どうしたらよいかのう・・・』
『こうなれば、大友に使者を出して、兵を出してもらうよう、依頼するほかあるまい。実際に大友と毛利が戦う必要はないのだ。』
『国内はどうするのじゃ?』
『長宗我部と安芸にも兵を出させる。多少の恩賞は出す必要はあるがな。』
『分かったぞよ。』
「で、では、河野を宇都宮とともに攻めるということでよいでおじゃるな。」
「分かり申した。」
「それで、えっと・・・おおとも、には門司まで御出座いただくよう働きかける。」
「はっ。」
「長宗我部と安芸には兵を出すよう命を出す。」
「なるほど。双方主力を出せば、互いに諍いを起こすこともございませんな。」
「宇都宮には、全ての準備が成るまでは動くなと伝えよ。」
「畏まりました。」
「それと、河野に最近楯突いた者共に調略を仕掛けよ。」
「さすがは御所様。深慮恐れ入りまする。」
「その間に、我らは兵力増強と鉄砲の生産に注力するぞよ。」
こうして軍議は終わった。
『結局、また戦をするはめになってしもうた・・・』
『嫌なのか?』
『止めようと思ったのじゃが、皆が戦する方に話を持って行くものでのう・・・』
『なら、馬の訓練をしないとな。』
『それはやらんぞ。』
『馬に乗れんようでは、負け戦の際に逃げ切れんではないか。』
『負けるのか?』
『だから、油断は禁物だ。』




