織田軍、東北で無双する
信長の東北平定軍の戦いは続いている。
本来、これだけの大軍を見れば、どの勢力も尻込みするところなのだが、実際は抵抗する大名も多く居る。
原因は信長が各地の領主に送った「軍門に降るなら領地の八割を安堵する。「異議あらば掛かってこい。」という通告のせいである。
功無き者に黙って本領安堵はしない、そして反抗する者は全て倒す、という信長らしい天下布武が東北でも吹き荒れているのだ。
攻め手の諸将だって、その理屈で頑張っているのである。
春になる前に、田村、二階堂、相馬、二本松、黒川はこれを飲み降伏し、蘆名氏は中ノ目(猪苗代町)で野戦を仕掛けたが大敗し、黒川城を開城降伏した。
日本海側でも、武藤は既に滅ぼされ、天童、清水らは降伏、陣営が乱れる中、最上も無条件降伏の道を採った。
そして伊達も、田村氏の説得によって抗戦を諦め、現在は陸前で葛西と大崎、羽後で仁賀保や由利が織田軍の猛攻に晒されている。
しかしまあ、兼定はもちろんであるが、信長も今回は参戦していない。
このゲームの東北は、そこの大名でプレイしない限り、初っ端に潰されるか、最後の作業で、不遇なんだよなあ・・・
そして、信長も嫡男信忠に家督を譲った。
史実よりは若干遅いが、これは周辺との戦が前倒しで起きた影響だろう。
信忠は岐阜城を本拠に、美濃と尾張の統治を行うようだ。
そして、次子信雄にも伊勢、伊賀の二国が与えられた。
これらは今後の論功行賞の行方に関係無く、将来に亘る決定事項なのだろう。
『のうのう、麿も隠居してよいかのう。』
『待て。もう少し世の動向を見定めてからの方がいい。』
『神なら見えているのでおじゃろう。』
『いや、全く見えなくなったぞ。』
『頼りにならん神じゃのう。五百年先は無くなったのでおじゃるか?』
『ああ、豊臣の関白も、徳川の幕府も無くなった。』
『麿はこっちの方があり得る現実じゃと思うがのう。』
確かにそうである。
本能寺の変など、誰も想像してなかっただろうし、明智光秀の動機なんて、未だに専門家の間でも見解が分かれる謎の行動である。
嫡男信忠がなぜお家の安泰を図らずに都に留まったのかも分からないし、その後、秀吉が実権掌握に動くなど、もっと想像できなかっただろう。
そして、豊臣家が秀吉没後にあれほど脆くも崩れ去り、家康が幕府を開くなんて、後世を生きているから知っているだけで、この時代の人にとっては摩訶不思議な出来事の連続だったのではないだろうか。
『まあ、世の流れを常識的に捉えれば、今の流れの方が自然だな。本来はこうなるはずだったのだろうしな。』
『しかし、あのお方が裏切ったのであろう?』
『もう、その心配は無いと考えている。状況がまるで違うからな。』
『どう違うのじゃ。』
『一つは畿内を中心として非常に静かで安定している。本来はまだ、本願寺が抵抗しているくらいの時期で、都を含めて騒然としていたはずだ。弾正殿が亡くなるのは、天正十年のはずだったが、その頃はまだ毛利ですら健在だった。』
『随分変えてしもうたのじゃのう。』
『我とそなたでな。あのお方だって、弾正殿と仲がいいのか、実は恨んでいるのか、その心情を推し量ることはできんが、少なくとも弾正殿の側に隙はない。』
『確かにのう。安土の城に鎮座してしもうたし、武田が滅んだ年も乗り切ったの。それで、そろそろあの御方の名を教えてくれても良いのではおじゃらぬか?』
『いや、本人の身の安全のため、言わない方がいいだろう。』
『しかし、浅井殿はバラされても恙なくやっておるぞよ。』
『そうだな。弾正殿自身も、我が聞いた人物像に比べれば、随分安定した御仁に見える。』
『あれは相当なものじゃと思うがのう・・・』
『あんなものでは無かったらしいぞ。しかし、あの時代はそうする必要があったし、今はそうでもないということなのだろう。』
『何が違うのじゃ?』
『簡単に言えば、弾正殿を裏切った人の数と、信頼できる人の数の違いじゃないか。中納言の存在だって、かなり大きいと思うぞ。』
『自分で言うのも何じゃが、麿はいい男じゃからのう。』
『まあ、そんなことはどうでもいいが、それで割を喰らった者もいる。』
『いや、どうでもいいかの如く話を進めてはいかんぞよ。今、麿がとても大事なことを言うたでおじゃる。』
『だから、あの御方については明かさないぞ。』
『いや、そこではなくてじゃなぁ・・・』
『分かった。中納言はいい男だと思うぞ。』
『そうであろう、そうであろう。皆、最初は白粉お化けとか、惰弱軽薄とか罵詈雑言を並べるが、最後は皆評価してくれるのじゃ。麿は長く付き合っておると、味わいというものが出てくるのじゃと思うぞよ。つまり、大人でないと分からぬ、得も言われぬ魅力があるのじゃ。』
『よくもまあ、それだけありもしない事をペラペラと・・・』
『悪霊は、まだまだ人生経験が足りんのう。哀れじゃ・・・』
『何で中納言如きに哀れんでもらわなければいけないんだ?』
『まあ悪霊も、もう少し年季を積めば、分かってくるぞよ。』
まあ、コイツも随分変わったしなあ・・・




