信長、最後の仕上げに邁進する
さて同じ頃、信長は関東甲信越の諸将らを主力とする大動員を掛け、東北に進軍する触れを出した。
総大将に織田信忠、副将は池田恒興だそうだ。
そしてこれまで信長に従いながらも、さして戦功の無かった丹後の一色義道、飛騨の姉小路頼綱、能登の畠山義綱らも出陣を命じられている。
東北の各大名にとっては信長家臣団適性試験、織田軍にとっては正式採用試験みたいなものだ。
しかし、東北の日本海側って農繁期と雪に閉ざされた時期しかないように思えるが、いつ戦なんてしてるんだろう。
そして、今回は通年でゴリ押しするのだそうだ。全く容赦がない・・・
その他にも信長は様々な施策を講じ始めた。
まずは、禄高の改訂である。今までの貫高から石高に変更される。
これは流通の実態に即した変更とのことである。
そして二点目が廃城令である。これも一条家の施策を倣ったもので、城の維持より富国策が優先されるべき時が織田領内にも到来したと言うべきか。
石高一万石以下の者が城を持つことが禁止されるとともに、築城が許可制となった。
三点目が家臣団の再編制である。これも一条家に良く似たものとなる。
直臣は一番衆から三番衆に区分され、一番衆は織田家中の上層部と石高一万石以上の大名で、一条家もここに入る。
二番衆が石高一万石以上の与力大名で、三番衆が家中で小身の者である。
特例として準直臣というものも作られ、大身の陪臣も同様の扱いを受けることになった。
長宗我部などがこれに当たるが、これは信長一流の家臣掌握術なのだろう。
決して、彼らの自尊心をくすぐるだけのものでは無いはずだ。
これに併せて、軍制も一条家に近いものが採用された。
また、大名も一門、盟友、与力、外様の四種に分類され、一条、徳川、浅井、大友の四家が盟友に認定された。これは目出度い。
ちなみに、織田家中では、柴田、丹羽、明智、羽柴、滝川、佐々、池田、森、宇喜多、別所、毛利、荒木、筒井、一色、姉小路、畠山が現状で与力大名である。
これは今後、激増しそうだ。
そしてこれが最も大きな出来事であるが、信長が細川昭元の養子となった。
これは征夷大将軍になるための布石と考えていいだろう。
もちろん、将来に亘ってこの役職を名乗るかどうかは分からないが、少なくとも武家の棟梁としてスタートする腹積もりなのだろう。さすがに義昭の養子は嫌だったようである。
家康のように他家の家系図ゲフンゲフン・・・
まあ何だ。大変信長らしい正面突破で、将軍就任のハードルをクリアしたと言える。
ちなみに、義昭は伊豆松崎に幽閉されている。
内政面においてもインフラ整備や新田開発、役人の登用などを積極的に行い、その統治基盤を急速に整えつつある。
そして、安土城も完成し、信長の常在場所も都からここに移った。
大坂城も完成に近付いているし、堺を凌駕する巨大な町も建設中だ。
『そうか、弾正殿も頑張っておるのう。麿も負けてはおれんの。』
『そうだな。松山は随分町らしくなったが、高智や徳島はまだまだだからな。』
『そうじゃの。想定した規模にはまだ及ばぬのう。』
『しかし、新しく町を作っている所はいいが、鹿児島や佐賀、長崎などは町の整備が大変だろうな。』
『町中の道が狭いと火事の際にも不安があるしの。』
『立ち退きさせて道幅を広げたり、堀川を付ける方法もあるが、表通りには店が多いからな。立ち退かせる訳にもいかんし、移動させると、その裏の家屋が割を食うから厄介だよな。』
『しかし、避けては通れんのよのう。』
『そうだな。それは時間を掛けてやっていくしかない。それより、東北はどうなのだろうな。』
『総勢十五万と言うておったのう。すでに岩城や白河は降参したとか。』
『まあ、あんな軍勢で攻められて抵抗できるのは、最早一条くらいしか残ってないからな。』
『麿でもどうだかのう。』
『四国に立て籠もってどうにか、といったところか?』
『無理ぞよ。』
『まあ、弾正殿の怒りを買わなければ大丈夫だと思うぞ。』
『そうよの意外に寛容な所もあるでの。』
『後は、その他に有力者はいないから、嫡男殿がいつ家督を継ぐか、後継者争いが起きないか、そういったところに注意を払う必要があるな。』
『四国におれば、そうそう巻き込まれることは無いぞよ。』
『しかし、政権内有数の実力者だ。正直、弾正殿との関係と軍事的な力を勘案すれば、関白様より影響力は持っていると思うぞ。』
『麿がか?それは嬉しいことよの。ならばもう、麿が関白になった方が早いではないか~』
こんな調子では無理だと、心からそう思う・・・
『のうのう、今から奏上して、正二位くらい、もらってしまおうかの。』
『そう言えば、総領様も関白という声が聞こえ始めたな。』
『九条様もなったばかりじゃし、あと3年くらい後かの?』
『そうなれば、もう少し出世するかもな。』
『当面の目標はそれじゃ!』
今日も兼定は幸せそうだなあ、と心からそう思う・・・




