論功行賞と今後の見通し
都に帰って数日後、信長に呼ばれて二条城に赴く。いつもの立派な御殿だ。
「ようまいったのう。さあさあ、近う。」
信長に招かれると、村井貞勝や松井友閑といった、あまり無骨でない方々が仕事をしている。
何でこんなトコに兼定を呼んだのだろう。役に立たないのに・・・
「これは何をしておじゃるのか?」
「ああ、論功行賞案を作らせているところだ。」
そう、今回の戦で織田家は常陸、下総、上総、安房、下野、上野、武蔵、相模、越後、佐渡、越中、駿河、遠江、伊豆を手に入れ、甲斐、信濃もまだ、占領しただけで仕置きを決めていない。
また、今回平らげた武田、北条、上杉の旧臣や恭順の意を示した数多の大名、国人衆の処遇、捕らえた足利義昭の扱いなども決めなければならない。
恐らく、ここにいる役人たちは不眠不休で案を作成しているのだろう。
「しかし、よくあれだけの領地を一度に獲ったものじゃのう。」
「上手く行きすぎて儂自身が一番、驚いておる。だが、家臣が増えれば恩賞の与え方にも気を配らねばならん。」
「そうでおじゃるな。」
「そなたや徳川殿を始め、儂の部下、所領を安堵した者、敵将までな。」
「それで、進み具合はどうなのじゃ。」
「まだまだだな。そなたも以前に言っておっただろう。急に領地が増えれば家臣の数が足りなくなると。どうやら織田家もそうなってしまったようだ。」
「そうよ。数はいても信頼できる者や、それに見合った功績を挙げた者となると、途端に適任がおらんなる。」
「まさにそれだ。しかも、東北にこれから攻め入る必要もある。恩賞を先に渡さねば、兵を出すのに厳しい家臣もいるだろう。」
「そこは、関東や甲信、越後の将にやらせると良いぞよ。織田家に仕えるなら功の一つも立てて見よ、と言えば、やらざるを得んぞよ。」
「なるほど。それなら当家の持ち出しは無いし、損害度外視でも大丈夫だな。」
「弾正殿、悪い顔になっているでおじゃるよ。」
「二年以内に何とかしろ、とけしかけたら、本当にやってくれそうだな。」
「それで、陸奥や蝦夷地まで平らげたら、改めて領地を与えると良いぞよ。」
「そうか。東北の大名も合わせて根切りするのだな。」
「そうすれば、もっと大胆な配置が取れるし、隣領同士の遺恨、血縁関係による連携、全て断ち切れるでおじゃる。」
「まさに名案だな。」
「それと、陸奥と出羽は国を分けると面倒が見やすくなるぞよ。」
「うん?それはどうしてだ?」
「神のお告げでのう。陸奥と出羽だけで九州よりもデカいそうじゃ。その北の蝦夷地はもっとデカいと言うておった。それを一括りにしても、その地の者しか理解できぬ。」
「なるほど。確かにそうだな。それで、神は案を持っておるのか?」
「陸奥は陸前、陸中、陸奥の三つに、出羽は羽前と羽後、蝦夷地も蝦夷として一国とするのが良いと言うておったぞよ。」
「面白いのう。それに、国を増やし、それぞれの地をよく吟味できるようになれば、そこに移す大名国人衆の選択肢が増えるな。」
「まあ、これから関東と東北各地に役人を送り込めばよいぞよ。」
「そうだな。単純な広さだけでも無いしな。」
「それで、公方様はいかがするのじゃ。」
「処断するつもりだ。いつまでも前時代の亡霊にうろつかれても困る。」
「まあ、弾正殿がどうするかは分からぬが、公方様に養子入りして、征夷大将軍になるという手もあるぞよ。」
「儂に幕府を継げと?」
「いや。名跡だけもらって、後は新しい幕府を立てれば良いのでおじゃる。」
「しかし、今さら幕府など立ててもなあ。」
「将軍にせよ、関白にせよ、武士の拠り所となる立場に就く必要はあるぞよ。」
「儂が王になるのではいかんのか?」
「イスパニアやポルトガルに対しては、王を名乗った方が通りは良かろう。しかし、武士にとってはは馴染みがない呼び名じゃ。それが公方様より偉いのかそうでないのか分からぬ名前では、彼らの体面は保てまい。」
「なるほど。名乗りの裏付けと、その効果も気にする必要があるか。」
「それが決まるまでは、公方様にも使い道はあるぞよ。」
「そうだな。進言感謝するぞ。」
こうして兼定はお暇する。
『何か、麿がまた凄いこと言ったみたいじゃのう。』
『中納言はいつもそうだな。』
『しかし、凄いのは弾正殿の領地の広さと、それを臆すること無く統治しようとする気概じゃと思うがのう。』
『何でそれが分かるのに、さっき自分が言った内容が分からないのだ?』
『王とか蝦夷とか武士の体面とか亡霊とか遺恨とかイスパニアとか』
『分かった分かった。何にも分かっていないことが分かったぞ。』
『そなたの言っていることも意味不明じゃ。』
『済まなかったな。中納言に対して。』
『分かれば良いのじゃ。麿は心が広いからのう。』
さっきから、何一つ噛み合わない・・・




