怪しすぎる四人が語る
さてここは、黒川氏から奪い取った館の中である。
武家らしく質素ではあるが、勝利の宴には相応しい。
ここに一条兼定、黒田官兵衛、徳川家康、明智光秀という、何とも味わい深い面子が揃って酒を酌み交わしている。
「ここまでは順調。あと一息で越後の過半が、我らの手に落ちることになりまする。」
「あの精強を誇った上杉も、負ける時はあっさり敗れ去ったのう。」
「まこと、御所様の仰せの通り。我々も油断してはなりませんな。くわばら、くわばら。」
「そうでございますな。それにしても中納言様と侍従様の見事な采配、この十兵衛、感服いたしたところでございます。」
「まあまあ。此度の戦、それぞれの力が合わさった結果よ。」
「そうじゃのう。早くここを片付けて、春日山に加勢せんとのう。」
「まさに中納言様の言うとおりじゃ。まだ我々には余力もたっぷり残っておるしのう。」
「しかし、これで大戦は終わったようなものでございますなあ。」
「そうであるな。北条と上杉がいなくなったら、もう弾正様の天下は確定でござる。」
「東北には、これほどの大名はおりませんからなあ。」
「ということは、麿もここより北は知らずに済むのう。」
「中納言殿は呼ばれるのではありませんか?弾正様のお気に入りゆえ。」
「徳川殿、それはいくら何でも勘弁じゃ。大友殿が参陣を免除されるほど遠いのじゃ。麿のこの短い足ではとてもとても。」
「ははははっ!中納言殿、大変長うございまするぞ。」
「御所様、拙者が伸ばして進ぜましょうか?」
「官兵衛。やめてたもれ。麿は短くていいのでおじゃる。」
「長いと、欲が出ますかな?」
「またまた明智殿まで・・・麿は無欲純粋謙虚な公卿ぞ。戦にしても、上手くもなければ好きでもおじゃらぬぞよ。」
「しかし、此度の北条と上杉攻めの褒美は、大層なものとなりましょう。」
「そうですな。何せ一度に十四カ国が支配下に入ったのですからな。」
「それに、信濃と甲斐の仕置きも決まっておりませぬ。」
「そういう徳川様はどのような褒美を期待しているのでございますか?」
官兵衛はいつもド直球である。
「いやいや、全ては弾正様にお任せでござるよ。」
「でも、駿河くらいはくれそうでおじゃるのう。」
「そうですな。功績は中納言様と並んで一番でしょうから。」
「その一番は、最近褒美をもらっていないそうでございますが。」
「麿の領地は、これ以上広がる余地が無いでおじゃるからのう。」
「しかし、国一つや二つの功績ではありますまい。」
「まあ、贔屓にしてくれれば、それで良いぞよ。」
「相変わらず無欲でございますなあ。さすがは義理に堅く、謙虚と名高い中納言様でございます。」
「ホホホ!まあまあ・・・そのようにおだてんでも良いぞよ・・・」
「いえいえ、既に都でも評判でございまするぞ。」
「御所様、さすがでございます。この官兵衛、自慢の主を持って果報者にございます。」
みんなでよってたかって知力7を褒め殺しにかかっている。
そして、兼定は既に褒め殺されている・・・
「いやあ、今夜は良い酒ぞよ。」
「それはそうと、織田様の天下になったあと、徳川様はいかがなされるおつもりで。」
「弾正様に従う。これ一点のみよ。」
「織田様の世の中、天下布武が成って終わりでもありますまい。」
「これ黒田殿、滅多なことを申すでないぞ。」
「中納言殿も、お気を付けを。」
そんなこと言われても、兼定は褒め殺されて混乱している・・・
「これは少し、言葉が過ぎてしまいましたな。御所様、申し訳ございません。」
「うん?また官兵衛が軽口を叩いてしまいましたかのう。」
「しかし、官兵衛殿の言葉にも一理ありますな。これから、どのような世になるかは、気になるところです。」
「うむ。まだ公方様もいることであるし、武士の世がどうなるか、まだ定まってはおらんな。」
「麿には難しくて良く分からんぞよ。公家じゃし・・・」
素のまま最高の返しをする・・・
「武家の棟梁には、ならないのでしょうか。」
「御屋形様にその気は無いように思われます。」
「どうなさるおつもりなのか。」
「分かりませぬが、御屋形様のことでございます。何か策はあるかと。」
「そうでございますな。あの御仁に限って、何もお考えが無いなどど言うことはございますまい。」
「まあ、いずれにしても、もう少し様子見でござるな。とにかく、せっかく戦乱が収まりつつあるのだ。この流れを断ち切ってはならん。」
「そうでございますな。まずは、目の前の敵を平らげるのみ。」
こうして、怪しすぎる御仁たちの宴は、本音が見え隠れしながら続く。
いや、兼定だけは純粋に酒を楽しんでいる・・・




