神懸かる兼定
永禄2年(1559)1月
依然として、兼定の操作方法が分からないままだが、上手く事が運んでいるし、最近はそれでもいいかと考えるようになった。
また最近は、夜に寝られるようになった。
もちろん特に眠い訳では無いが、あまりに退屈なので寝ている。
それに元々は疲労困憊の中、見ている夢なのだ。
休めるときに休むことの重要性は痛いほどよく分かっているつもりだ。
さて、我が僕。もとい、私がプレイしているキャラ、一条兼定であるが、公私ともに充実している。
嫡子万千代ももうすぐ生後一ヶ月。
医療も食糧事情も未成熟なこの時代、まだ心配は尽きないが、この調子で育ってくれるとありがたい。
お松の方も大変元気である。
さすがは武家の娘だ。
また、夫婦仲も傍から見ても問題無いように見える。
史実では、大友宗麟の娘が絶世の美人と聞いて、妻と離縁して実家に送り返した兼定だが、今回はきっちり信頼関係を築けているように見える。
別に対外関係にさえ気を配ってくれるなら、側室を娶って構わないのである。
どうか冷静さを失わないでいて欲しい。
領内も街道、港湾、堤防、城郭の整備を進め、田舎ながら活況を呈してきた。
新田開発も百姓達が自主的に進めており、数年後には年貢という形で返って来るだろう。
軍事的には、新兵の募集を続けており、身上の割に兵力に乏しかった当家の武士団も、少しは見られるようになってきた。
鉄砲の生産も順調に進んでおり、既に200丁を超える数が配備されている。
領地についても、東は高知市付近まで手中に収め、伊予国内も南予地方を平定した。
また、一条家と同盟関係にある長宗我部、安芸、宇都宮との関係も現状では良好であり、周辺に脅威らしい勢力は無い。
このような状況を生み出した兼定は、どうやら稀代の名将的な扱いを受けている。
にわかには信じられないし、実際の能力は並以下なのであるが、一条家の舵取りを始めて僅か1年半足らずで内外に大きな変化をもたらしたのだ。
事情を知らない人から見たら、兼定が知力90台に見えるだろう。
家臣の見る目も尊敬の眼差しだし、第一、何を提案しても反論が出ない。
これではヤツが調子に乗りすぎるから困るのだが・・・
『のうのう、今日も絶好調だったのう。』
『あまり調子に乗りすぎると、ボロが出るぞ。』
『何を言う。最早父上の功績すら超えてしまったのじゃぞ?』
『我の知恵のお陰に過ぎんだろう。』
『そろそろお主も認めたらどうじゃ。この麿の深慮遠謀さを。』
『戦の度に失禁している麿のどこが深慮なのだ?』
『それはお主の作戦が稚拙だからであろう!』
『稚拙なのは少将の馬術だ。あんなものでは話にならん。』
『矢が当たったのは仕方なかろう!』
『最後尾を逃げるから当たるのだ。他の者は皆速やかに戻って来ておったではないか。』
『あれは我が軍でも選りすぐりの将ではないか。いくら何でもいきなりあんなに上手く乗れる者などおらぬわ。』
そりゃそうだ。
『まあ、馬はもう少し乗れるようになってもらわねばな。』
『あんなこと、もうやらぬぞ。総大将は普通、あのような真似はせんでおじゃる。』
『武人に負けず劣らず馬に乗れたら、さらに神懸かりの評判が上がると言うに。』
『それとこれとは別じゃ。そんなことしなくても、皆が麿を尊敬の眼差しで見ておろう。』
『戦場で颯爽と馬を乗りこなせば、なおのこと尊敬されるぞ。』
『麿は本陣でどっしり座ることにしたでおじゃる。もうあんな目に遭うのは嫌ぞよ。』
「御所様、いかがなされましたかな?」
「いや、何でもないぞ。神との対話じゃ。」
「何と、今まさに神が降りてきている所でございましたか。」
「まあ、正確に言えば、いつも取り憑いているのじゃがのう。」
「それはそれは。それでは、今後の方針など聞いてみてはいかがでしょう。」
「ところが、此奴偏屈でのう。ここぞという時で無いときちんと答えてくれんのじゃ。」
「そうでございますか。しかし、神とはそのようなものなのでございましょう。」
「頭の中で五月蠅いのじゃ。しかし、いつも神懸かりに頼ってばかりではないぞ。皆の総領として、日夜研鑽に励み、策を捻り出しておることもまた、事実でおじゃる。」
「さすがは御所様。稀代の名君にございます。この宗珊、御所様のご成長をまこと喜ばしく思っておりまする。」
「うんうん。よう分かっておるぞよ。これからの献策も期待しておるぞよ。」
「ははっ!この宗珊、微力ながら励みまする。」
「では、今日はこのくらいにして、松と休むとしようかの。」
『上手いことまとめて逃げたじゃないか。』
『逃げてはおらぬ。ボロも無い。全てが完全無欠じゃ。』
『まあ、あまり調子に乗らず、仕事に励め。』
『これほど勝ち戦続きで、何が不満なのじゃ?』
いや、兼定としては上出来だよ・・・




