北条軍の抵抗
小田原城は落ち、当主氏政が戦闘の停止を各地に触れたものの、それで全ての戦が終わる訳では無かった。
信長率いる本隊は、三浦を超えすでに武蔵石神井辺りで付近の城を平らげ続けているし、第二軍も上野西部を平定し、東部に進出している。
第三軍も滝山城(八王子市)を包囲している他、佐竹、宇都宮、簗田、正木、里見、小田、太田といった諸将も織田方として兵を挙げ、火事場泥棒よろしく北条領に侵入している。
他にも大掾、江戸、結城、水谷、那須、大関、佐野、芳賀、千葉、足利など、多くの有力者がいるが、彼らは様子見を選択したようだ。
これに対して北条軍は氏政の弟達が未だ奮戦しており、氏照が滝山城、氏邦が鉢形城(埼玉県寄居町)、猪股邦憲が猪股城(寄居町)、北条綱成が関宿城(千葉県野田市)を拠点に抵抗を続けている。
丹羽長秀は、相模国内平定を毛利輝元に、伊豆平定を宇喜多直家に命じ、自軍も小田原周辺の守りを固める。
兼定はすでにノルマを達成しており、帰っても良いのだが、彼がこのまま帰るのを渋るので、仕方無く北上を開始する。
『もう北条との戦もほぼ終わったのだ。弾正殿に一言声を掛けて帰ればいいじゃないか。』
『それでも良いでおじゃろうがのう。ただ帰ってしまうのも、冷たく思われんかのう。』
『ここまでロクに褒美無しで戦ってやってるんだから、これ以上の貢献はないだろう。』
『うん。それはそうじゃのう。』
『そろそろ多摩川だそうだ。』
この辺りは平野と丘陵の雑木林、そればかりだ。
とても広々としていて、正直、どこでも進軍できる。
そして一条軍は関戸(多摩市)から多摩川を越え、6月7日には青梅に至った。
織田軍も川越を目指しているということなので、一条軍も合流を決め、9日に織田信長に会うことができた。
「いやあ左近殿、まさか関東の北でそなたと会えるとはなあ。」
「思えば遠くに来たものよの。」
「それに、徳が跡継ぎを生んだそうじゃないか。誠に目出度い。」
「もう最近は目出度いことしか起きておらんのう。」
「では景気よく、もう一発ガーンと行かんか。」
「おお、どこじゃ?」
「越後じゃ!」
聞くんじゃなかったよ・・・
「いや、その、弾正殿、この冬の甲斐は寒うおじゃったのう。」
「夏はこれからだぞ。」
「大砲の弾が、足りんかも知れんのう・・・」
兼定は口笛を吹くフリをするが、不器用だから鳴らない。
何かフーフー言ってる。
「何だ、フランキ砲なら、うちにもあるぞ。どうせ上杉にも、ロクな城など無いだろう。」
「あ~来るんじゃ無かった。来るんじゃ無かったぞよ~」
こんなダダを捏ねて無事なのは、国中探してもコイツだけだろう。
ということで、急遽上杉攻めが決まる。
関東の仕置きを丹羽長秀に任せ、織田本隊八万、一条軍二万、徳川軍二万に加え、明智光秀率いる二万と北陸に詰める柴田・浅井長政連合軍二万の計十六万で一気に攻め立てることになった。
また、この間に宇喜多勢は伊豆を平定し、鉢形、猪股も落城。
関宿城も氏政当人が説得を行い、開城させたことで、残るは北条氏照が籠もる滝山城ただ一つとなった。
『結局、越後に攻め込む手伝いをすることになったでおじゃる。』
『だから帰ろうと言ったではないか。自業自得だ。』
『挨拶して点数稼ぎしようと思ったのじゃ。』
『動機が不純なんだよ。そんな見え透いたことは今後、控えるべきだな。』
『でも、これが最後じゃと思うぞよ。』
『戦はな。しかし、思惑通り、点数は稼げたじゃないか。』
『出費無しで稼ぐことを狙っておったのに・・・』
『知力7でか?90台相手に?』
『もう分かったでおじゃる。一つ勉強になったでおじゃるよ・・・』
『まあ、弾正殿も中納言に嫌がらせをしたかった訳じゃ無い。嬉しくてつい、悪ノリしただけだと思うぞ。』
『悪ノリで攻められる謙信が気の毒ぞよ。』
『後で中納言の点数稼ぎと知ったら、謙信もさぞかしお怒りになるだろうな。』
『怖いから、会わないようにするぞよ・・・』
『そうだな。あれは本物の武人だろうからな。』
『はぁ~、行きたくないのう。』
『寒くなる前にサッサと終わらせろよ。』
『分かったぞよ・・・』
こんな兼定のくだらない内心を全く知らない一条軍は、上州路を軽やかに進む。




