小田原城攻め
小田原城は難攻不落の城である。
武田信玄や上杉謙信でさえ落とすことができず、秀吉も数ヶ月兵糧攻めをしたが、結局城を落とした訳では無かった。
そして、信長も素通りして兼定に丸投げした程には守りが堅い。
ただし、秀吉さえ苦しめた所謂「総構え」と呼ばれる町を取り囲む大規模な堀と土塁はまだ存在していないので、その点はまだマシと言えよう。
一応は平山城に分類される小田原城ではあるが、その山は低く、平城と言っても差し支えの無い風情であるが、とにかくデカい。
本丸、ニノ丸はもちろん、西の小高い場所を中心にいくつもの出丸を持っており、それぞれに大量の兵を収容している。
また、南の大手には馬出を備え、ほぼ全周を北条氏特有の障子堀が囲むなかなかの守りである。
しかし、籠城戦によほどの自信があるのか、城内から打って出てくる雰囲気は微塵もない。
秀吉は数ヶ月かけてこの城を落としたが、短気な信長様が兵糧攻めなど選択させてくれるはずもなく、城攻めは敢行される。
自分はスルーしておいて・・・
そこで攻め手はまず、毛利輝元と小早川隆景率いる一万五千を城の南、早川沿いに進軍させ、要所を押さえるとともに、水軍衆が付近の熱海、真鶴、早川、酒匂を制圧して制海権を取る。
やはり毛利軍は危険なことばかりさせられる役回りのようだ。
そして、一条勢は城の北西、荻窪という地の小高い丘に砲台を設置、現在、大学のキャンパスがある辺りに本陣を置いた。
そして、一条軍の前衛には宇喜多勢、城の北には丹羽勢が布陣し、城を包囲する形は完成した。
一条軍が装備する大筒は、改良が進んだとは言え、射程約16町歩(約1750m)である。
砲台の位置から城の全てが射程に入っている訳では無いが、まずは、西側にある出丸から潰していく。
「それっ!撃つのじゃ!」
ドンッ!という轟音とともに、40門も並べた砲が次々に火を噴く。
二斉射した後に斥候からの報告を聞く。所謂着弾観測である。
こちらの方が高い場所に位置しているため、比較的容易に成果が分かる。
「こちらからも櫓が傾いたのが見えたでおじゃるが、詳しくはどうじゃ。」
「はい。傾いたのは曲輪の中央にある物見櫓です。弓隊がいる櫓や門は健在です。」
「では、もう少し続けるぞよ。」
さらに二斉射すると、最も外側の出丸を守備していた兵は、退却を始めた。
どうやらここを放棄するようだ。
こうして、攻撃開始僅か数時間で、出丸は無力化され、一条軍は夕方から夜間にかけて城の北側に移動した。
いよいよ本丸を攻撃するのである。
翌朝から、城の本丸に向けて砲撃を開始する。
発射音も大きいが、着弾音も結構大きい。
何せ城から500mほどの所から攻撃しているのである。
城内が騒然としているところすら見える。
「御所様、丹羽殿より伝令。敵方の御使者が陣中に参り、降伏の旨を伝えてきた模様にございます。」
「それで。砲撃を止めよと。」
「はっ、その通りにございます。」
「手緩いのう。弾正殿は和議に応じるなとのことではおじゃらんかったかの?」
「しかし、敵が降伏する以上、それは受け入れるがしきたりにございます。」
「まずは城内で白旗を上げ、武器を捨て、鎧を脱いで出てくるというものではおじゃらぬか?口でなら何とでも言えるぞよ。弾正殿の敵を匿うほど、害意を持った者共ぞよ。偽計であった時、何とするのじゃ?」
「はい・・・それは、丹羽殿の伝令に伝えてまいります。」
その後も構わず打ち続けていたら、正午頃に白旗が揚がり、北条新九郎が直々に丹羽長秀の本陣を訪れ、恭順の意を示したそうだ。
その後、城兵の排除が行われ、動員された農民兵や町民はその場で解放され、足軽については怪我人の手当に駆り出された。
そして、城内にいた北条幻庵を始めとする家中上層部は全て拘束され、出丸の一つにまとまって収容された。
どうやら、御殿に至近弾があったようで、氏政の継室と嫡男国王丸(氏直)はそれで亡くなったそうである。
そして、足利義昭も拘束された。
『しかし、国崩しとはよう言うたものよの。これほどの城がいとも簡単に落ちる。』
『そうだな。しかし、一条や織田の城は、あらかじめ砲台が設計されている。より高所から、より性能の高い砲を撃てるなら、城は強力な要塞となる。』
『そうよのう。一条の城ならこれほど簡単には落ちぬと信じたいぞよ。』
『その前に、戦にならんよう、舵取りを間違えぬことだ。大外の構えだ。』
『北条は見事に間違えたのう。』
『残念ながら、全てにおいて間違えた。公方を受け入れるべきではなかったし、早く織田と同盟を結ぶべきだった。そうでないなら武田を助けるべきだったし、上杉とも結ぶべきだった。さらには籠城ではなく、地の利を活かして野戦に打って出るべきだった。』
『野戦に出て、勝てたかのう。』
『最終的に勝てないにしても、これほどの兵力と領地があるんだ。時間を稼ぐ中で打開策も、逃げることも出来ただろう。』
『そうよの。奥の手が籠城というのは、やはり心許ないものよのう。』
『日の本を制するほどの相手に対して、有効な手では無いな。』
『良く分かったぞよ・・・』
こうして、今回最大の難関を制した。




