新たな家臣
さて、今回の武田攻めに際しては、保科弾正忠(正俊)とその子保科左衛門尉(正直)、孫の甚四郎(正光)。真田喜兵衛(昌幸)らを捕まえて家臣とした。
保科は武田軍でも有名な武将であったが、高遠の領地が空けば織田家の論功行賞もそれだけ楽になるので、あっさり信長の許しが出た。
真田昌幸は、「三男坊だと受け継ぐ所領などあるまい」と言って誘ったら喜んで付いてきた。
本来は兄二人が長篠で戦死するはずがピンピンしているのだから仕方無い。
有名な二人の息子はまだ元服前だ。
何故、彼らをスカウトしたかと言うと、人手不足だからにほかならない。
何せ、土佐や伊予から飛躍した直臣達は、こぞって部下を連れて出国した。
一条領内にしたって為松や安並らが沢山連れて行ったし、長宗我部も何とか江村や福留らをもらったが、主だった者はみんな連れて行った。
元親はついでに讃岐からも有能なのを抜いて行きやがった。
また、近頃行っている兵農分離や小城の廃城などで、帰農する領主が増えている。
無理に城を維持して軍役を負うより、庄屋の方が楽なのである。
特段武勇に長けていないような者にとっては、特にそうなのだろう。
ということで、残った者に大きな負担が掛かるとともに、人材不足が深刻なのである。
まあ、家臣のスカウトがゲーム感覚なのは否定しない。
そして、スカウトした彼らを城に呼ぶ。
「うむ、ようやっとこちらの暮らしも落ち着いたかの。」
「はい。お陰様で仮住まいではございますが、不便無く暮らしております。」
「何せ、信濃とは大きく違うゆえのう。」
「海を見ることが初めてのようなものですから。」
「それがしの倅も驚いておりましたぞ。」
「そうよの。そなたたちにとっては、冬も無きようなものであるしのう。」
「はっはっは。確かに、日の本は広いと感心していたところにございます。」
「それに、御所様がこのような巨大な城を持っていると最初から知っていれば、戦おうなどと無謀なことは考えませんでしたのに。」
「まあ、互いに無事で何よりよ。それにこれからは味方。働き次第では期待しても良いぞよ。」
「ははっ。我らすでに主家はなく、伝来の地を離れた者。一から出直し、御所様のため粉骨砕身お尽くしする所存。」
「それがしも弾正殿と同じでございます。むしろ、真田にとっては新たな道をお示し下さり、感謝しているところでございます。」
「うむ。これからそちらの役職を決め、追って沙汰するゆえ、しばらく骨休みしておるとよい。その代わり、忙しいぞよ。」
「はっ。何なりとお申し付け下され。」
こうして彼らとの面会は終わった。
『ところで、彼らには何をさせるのじゃ?』
『保科殿は兵の教練だな。槍弾正と呼ばれたほどの御仁だし、騎馬の戦術にも長けているだろう。歩兵、騎馬隊全体の教練方法を纏めてもらい、各部隊の頭に伝授してもらう。真田については、ゆくゆくは幸寿丸の家老を考えている。』
『そう言えば、幸寿丸が大隅に行く際の家臣も見繕っておかねばの。』
『ああ、土着の者たちだけだと、若い幸寿丸が御せないだろうからな。信頼できる側仕えを何人か連れて行く必要がある。できれば中村衆がいいな。』
『と言われると、途端におらんなる。』
『そうだ。当家は深刻な人材難だ。まあ、その分彼らに支払う俸禄は少ない訳だが。』
『しかしのう、本当に思い当たる者がおらぬ。』
『高島か細川か、もしくは蜷川か。』
『皆、抜けたら困る者たちばかりじゃのう。』
『誰だ、こんなに抜いて行ったのは。』
『その前に、皆を土佐から追い出すから・・・』
『直轄地が飛び地だらけでは管理しきれんだろう。』
『伊予なら誰かおるかのう。』
『ダメだな。妻鳥か石川か。』
『不安しか無いぞよ。』
『なら、香西だな。』
『まあ、丁度加治木におるし、抜擢するしかないのう。』
『しかし何だな。中納言に不安しか無いなんて言われると、立つ瀬が無いな。』
『何か言ったでおじゃるか?麿から見れば、悪霊だって不安しか無いぞよ。』
『ハッハッハ!さすがにそれはおかしくて、笑ってしまうな。』
『喜んでもらったようで、何よりじゃの。』
『しかし、どうしてこんなことになったのかのう。』
『いきなり早く大きくなったからな。信用できる者が必ずしも高い地位に居るわけでも無いし、あまり極端なことをやると、他の者が不満を持つ。丁度いい人材というのがいない。』
『まあ、譜代じゃから信頼できるか、というと違うが。』
『しかし、当の譜代は自分たちより信用に足る者はいないと思っているはずだぞ。』
『まあ、その譜代も全く足りてはおらぬが。』
『真田を家老にしたら、やはり波紋は大きいだろうな。』
『でも、したいのじゃろう。』
『能力は高いからな。』
『まあ、何か大きな功を立てさせるぞよ。話はそれからじゃ。』
『良いこと言うなあ。』
『全く、悪霊が頼りないからのう。』
何で、兼定なのに・・・




