賑やかな家族旅行
さて、都に長居してしまった一条家ご一行であるが、2月10日に帰ることになった。
兼定にとっても、妻や子供たちも一ヶ月近く峰や宗太郎と遊んでいたし、いい滞在になったと思う。
「それではまた来るからの。峰も宗太郎も元気で頑張るのじゃぞ。」
「はい父上、より勉学に励みまする。」
「峰も早く良き伴侶と呼ばれるように努めます。」
「では、峰、宗太郎、達者にしておるのですよ。」
「はい。母上もお元気で。」
「兄上、また来ても良いでおじゃるか~」
「新徳、お主は破った障子を直してから帰るでおじゃるよ。」
「総領様がお許し下さいましたでおじゃるよ~」
「毎日寒くて敵わんではないか!」
「まあまあ宗太郎よ。許してやるでおじゃる。」
出発前から大騒ぎである。
でも今までこれが毎日だった訳である。
総領様も大変だったろうなあ・・・
一行はいつも通り明石から淡路、鳴門に渡り、徳島に入る。
何と、吉野川新河道の橋が完成したのだ。橋だけが・・・
「こりゃあまた大きな橋よのう。」
「私も初めてでございます。てっきり船で渡るものかと思っておりました。」
「いや、麿もじゃ。それにこんな橋、大水で流れたら勿体ないのう。」
「でも、これを作る財力こそ、御所様のお力でございます。」
「そう言ってもらえると、何か、良いのう。グヘヘへッ!」
「父上、変なお顔でございまする。」
「お浜よ。少し辛辣ではおじゃらぬか?もう少し父を敬うがよいぞ。」
「新徳丸はちょっとだけ、父上を尊敬したことがあるでおじゃる。」
「随分と遠回しな尊敬じゃのう。幸寿丸はどうなのじゃ?」
「麿は、お父上を尊敬などしておじゃらぬ。勘違いも甚だしいでおじゃりまする。」
あああれだ、遺伝だ。
「これ幸寿丸。お父上にそのようなことを申してはなりませぬよ。」
「そうですよ。ついこの間までは一番の甘えん坊さんでしたのに。」
「麿はもおう大人でおじゃりまする。松翁丸は元服したというのに。」
「そうか。それで拗ねておるのかの。」
「拗ねてなどおりませぬ。麿はもう、大人でおじゃりますから。」
「しかしのう、そなたは元服すれば大隅の主として赴かなくてはならぬ。父もみんなが家を離れていくのは寂しいのじゃ。」
「ま、まあ、そういうことであるなら、も、もうちょっと子供でいてあげても良いでおじゃる。」
「幸寿丸よ、今、神が申しておるのじゃが、男のツンデレは面倒くさいだけじゃから、止めておけということじゃ。」
「つんでれ、とは何のことでおじゃるか?」
「神が申すには、強がりの天邪鬼だそうじゃ。」
「父上は嫌いでおじゃる!」
「待て待て、これは父が申しておるのではない。神様のありがたい言葉じゃぞ。」
「まあまあ。御所様、幸寿丸。橋を渡り切りましたよ。喧嘩はここまでです。」
「何と、あの橋を渡り終えておるではおじゃらぬか。」
「大きい橋でおじゃったね~」
「高いところを車でびゅーんって走ったでおじゃりまするね。」
浜と新徳丸は十分に堪能したようだ。
「ああ、麿が知らないうちに橋を渡り切っていたでおじゃる・・・」
「父上が妙なことを申されるから・・・」
「まあまあ二人とも。また二人でゆっくり見に来れば良いのです。」
「そうですよ。機会はきっとまた、ございます。」
「そうじゃのう。幸寿丸よ、それまではもうちょっと子供でいてくれよのう。」
「分かったでおじゃる。」
同一レベルの親子は仲直りし、2月22日に松山に入る。
「父上、遅いではおじゃりませぬか!」
「おいおい、帰って来て早々、声を荒げるでないぞよ。」
これまで仕事を一手にこなしてきた栄太郎である。
つい一昨日、嫡男が産まれたばかりの栄太郎である・・・
「これまで内政や兵糧の手配、終わってからは論功行賞と兵の受け入れ、どれだけ忙しかったと思っておるのでおじゃるか。」
「まあまあ、それは済まんかったのう。しかし、麿も酷寒の地で戦い、お峰の祝言もあったのじゃ。許してたもれ。」
「それにしては、随分とふっくらしてお戻りのように見えまするが?」
「祝い事の後じゃからのう。見てくれは勘弁するのじゃ。」
「それより栄太郎。私は孫の顔が見たいのですが、あなたは孫よりもそんな些事が大切なのですか?」
「は、母上。ここれは、失礼いたしました。こちらでおじゃりまする。」
「やはり、こんな時はお松じゃのう。」
「はい。御所様がお困りの時は、是非、このお松にお任せください。」
「そうよの。頼りにしておるぞよ。」
同一レベルの親子喧嘩は妻に一蹴されて解決した。
ちなみに孫は万千代と名付けられていた。




