作戦を練った
兼定は宗珊を呼び、これまでの経過説明と対応の協議を行う。
「なるほど。そういうことでございましたか。またお遊びに夢中になられたかと心配しましたぞ。」
「別に遊んでいた訳では無いぞよ。あの時だって、人を殺めた下手人を捕らえ、市中見回りと下手人捜索のための仕組みを作ったぞよ。」
「そうですな。あの時の事は、この日のためでもあった訳ですな。」
「そうじゃ。人が殺められるというのも大変なことじゃが、火を消し損ねると、どれだけの民が巻き込まれるかも分からぬし、城にだって被害は出るでおじゃろう。」
「そうですな。せっかくの泰平が揺るぎかねませぬ。」
「これまでの皆の働きを無にする悪行じゃ。必ずこを止めねばならんでおじゃる。」
「それで、どうなされまするか?」
「うむ。まずは近隣から密かに足軽を集め、彼らに夜間の市中見回りをさせるぞよ。もちろん、甲冑などは着せずにの。」
「槍は持たせますか。」
「いや、相手が警戒して出てこなくなるのは困るぞよ。持っても刀だけじゃ。見張るだけなら町人に扮しても良いぞよ。それと、実際に捕縛する者は武装して奉行所や他の各所に詰めていつでも出られるようにしておくのじゃ。」
「なるほど。それなら相手が複数でも対処できますな。」
「それと、土佐鬼組も呼んで来るぞよ。」
「そこまでなさりますか。」
「あれなら相手が誰でも負けんぞよ。それに、彼らの活躍を民に見せ、安堵させることも大事よ。」
「なるほど。それではすぐに呼び寄せましょう。それで、松山以外ではこのようなことは起きていないのですな。」
「聞いてはおらんの。そう言えば何故かのう。」
「さて、松山でないといけない理由は考えつきませんな。」
「そうよの。盗賊ならある程度奪う物を奪ったら、次の町に行った方が良いもののう。」
「ええ、相手もこれだけ派手にやれば、こちらが何らかの手を打ってくることは分かっているはずでございます。」
「ということは、何か他に目的がある。」
「若しくは本当に何も考えていないか、のいずれかでありましょうな。」
『おい中納言よ。』
『何じゃ?何か良い考えでも浮かんだか?』
『良く考えたんだが、相手が火付けならそれは戦と同じだ。戦なら、火を付ける場所が一箇所とは限るまい。』
『陽動を行うということでおじゃるか?』
『そうだ。今まで火を付けられた家で一番小さい家は長屋だったろう。』
『そうじゃの。麿らが最初に行った家も小さかったぞよ。』
『あの家に押し込むなら、大した人数では無いと思うが、火は一人でも付けることができる。』
『つまり・・・』
『陽動は一人。残りが本命ということもあり得る。それに今までは一晩に一軒だったが、そうとは限らんことを前提に策を立てるぞ。』
『どうするのじゃ?』
『まず、捕縛隊は一組につき十名以下。一つの詰所に二組以上配置だ。』
『そうじゃの。それが良いの。』
『それと町の要所の辻、屋敷の陰や橋の下、色んなところに人を伏せて夜間交代で見張らせろ。次で決めるぞ。』
『他の町に移ったら、同じことをするのかの。』
『そうだな。奴らがどういう動きをするのか。それを調べて今後に活かさないといけないし、大火が起きて困るのは、どこの町でも同じだ。』
『しかし、毎回こんなことをしていたら持たんのう。』
『だからここで止める。そして、敵を調べて今後に活かすんだ。』
『そうじゃの。分かったぞよ。』
何か、鬼平の気持ちが分かってきたような気がする・・・
『それと、高智や徳島なら水に困る事はないが、松山や高松は防火用の堀川や水槽が必要だな。』
『そういうことも考えるのか・・・大変じゃのう。』
『それは民部にやらせれば良い。』
『そうじゃの。土居の仕事じゃ。』
やっぱり、最後はこうなる・・・




