松山で火事が多発する
ある夏の夜・・・
「向こうが明るいのう。」
「火事でも起きたのでしょうか。」
「三番町の辺りじゃのう。」
「心配ですね。最近多いようですよ。」
「そうなのか。皆、冬ならもっと気を付けるのじゃろうがの。明日にでも見回り方(市中警備」に伝えねばならんのう。」
「そうですね。お願いします。」
さて、次の日。
「昨日は火事が城のすぐ近くであったが、最近多いのかの。」
「はい、先月は四件、今月は五件ございました。」
「いくら何でも、これだけしか人が住んでおらんのに、多すぎるのう。町人に火の元をしっかり確認するように伝えるのじゃ。」
「御意にございます。」
そして、それから数日の間に立て続けに二件の火災が発生した。
「これはいくら何でもおかしいですな。」
「宗珊が出てきたということは、由々しき事態じゃのう。」
「何か、それがしが出てくると由々しいように聞こえまするが。」
「いや、もちろん、そんなことは無いぞよ。しかし、この辺りに住んでおる者はそこそこの立場の者じゃ。火の怖さも防火の心得もあるじゃろう。それなのに・・・」
「火付け、ということも考えられまするぞ。」
「それは失火ではなく事件じゃの。」
「そうかも知れません。城も警備を増やし、昼間も基本は閉門といたします。」
「そうじゃの。万が一のことがあってはならぬからのう。」
『おい、中納言。調べに行くぞ。』
『いや待て待て。いつぞやも首を突っ込んだのう。』
『今回は単なる事件では無い。一つ間違えると城にも被害が出かねんぞ。』
『だからと言って、麿が直々に出るのは違うでおじゃろう・・・』
『さあ行こう。仕事は栄太郎に任せておけば、中納言よりきちんとやるだろう。』
『そこだけは正しいと思うが、そうでは無いと思うぞよ。ほれ、宗珊のあの目。』
『臆するな。民のためじゃ。』
『だから何で麿が・・・』
結局、厠に行くといって外出した。馬車で・・・
さて、昨夜の火災現場にやってくる。
現場は石手川を渡った朝生田という場所で、最近町が作られた所である。
椿神社へ向かう途中にあり、比較的職人が多く住んでいる地区である。
そして火災が起きたのは作蔵という男の家で、妻と年老いた両親と二人の子供の皆、犠牲になるという、何とも痛ましい現場である。
さすがに昼近いので、既に人だかりはなくなっているが、早くも近所の者が片付けを始めようとしていたので、これを一旦止めさせた。
「この中で、火事の現場を見た者はおるかの?」
「ええ、おらぁ、見ました。」
「夜中だったか。」
「時間は分かりやせんが丑の刻くらいかと。」
「隣の家も少し焼けたのか。」
「はい。次郎太の家ですが、昨日は大洲に出かけていて留守でございました。」
「しかし、よくこれで済んだな。」
「へい。大きな物音でみんな起きたようです。おらもそうでございますが。」
「何?ここの家人以外の者がいたのか?」
「いえ、そこまでは・・・」
『中納言よ、取りあえず現場で一番良く燃えているところを調べるんだ。』
『分かったぞよ。』
「のうのう、この家で一番よう燃えておるのはどこじゃと思う?」
まあ、兼定は素人以下だし・・・
「ここじゃねえか?」
「おう、そうじゃそうじゃ。柱が一番よう炭になっとるのう。」
「ここは、家の中でどういう所なのじゃ?」
「居間でございやすよ。夜はここで寝るがです。」
「ここの家では灯りを使うか、煙草を吸うか、囲炉裏を使うか、誰か分かるかのう。」
「灯りなんて贅沢なもの、とてもとても。」
「煙草ってなんでございましょう。」
「囲炉裏で火事起こす馬鹿ぁいねえなあ。」
「そうだそうだ。」
『こりゃあ中納言よ。本当に火付けかも知れんぞ。』
『火付けなら、首を突っ込むのかの。』
『そうだ。中村から半次郎を呼ぶぞ。』
『いや、わざわざアレを呼ばんでも・・・』
『いいから呼べ。奴がこういうことには最も適任だ。』
まあ、そうでもないが、ちょっと懐かしく思ったんで、無理矢理呼び出すことにした。




