茶畑VS兼定
「誰じゃ!今すぐ麿の前に出でよ!」
そんなこと言われても困る。こっちだって好きでここにいる訳じゃないし、出る方法だって分からない。
試しに腕を動かしてみる。動いた。ヤツの手が少しだけ。
「おのれ面妖な。奇っ怪な技を使いおって。」
兼定は刀を抜き、振り回す。
「おのれっ!どこじゃっ!何処におるのじゃっ!、隠れておらず姿を見せよ!」
しかしまあ、短気な男である。武勇9のクセに・・・
さて、これから私はどう振る舞うべきか、それが問題だ。本当はそれ以前に、一刻も早く目覚めて、急ぎの仕事を片付けなければいけないのだが・・・
何か、ここから抜け出すいい方法は無いものか。しかしその前に、コイツを黙らせないと集中できない。
先ほど、手が少し動いたことを思い出した茶畑は、兼定の脚をすくって転ばせた。
「お、おのれ、小癪な真似を!」
兼定は転んだまま、手足をバタつかせている。
そうだ、私が神として振る舞えば、この時代の人なら信じるのではないだろうか。どうせ夢だ。恐れずやってみよう。
『兼定よ、我は神だ。鎮まれ。』
「な、な、な何じゃと!おのれ神を騙る妖怪め!麿が成敗してくれるわ!」
兼定は再び立ち上がり、刀を振るい始める。
鬱陶しいので、ヤツの右足を操り、近くの柱を蹴った。
ヤツはすっ転んだ上に足の小指を柱に打ち付けて、ヤツは悶絶した。
「卑怯な・・・す、姿を現せ・・・」
『我の力を思い知ったか。分かったのなら鎮まれ。』
「麿にこのような仕打ちをしておいて、タダで済むとは思ってはおるまい。」
『ほう、何をどうするつもりなのだ?何もできないクセに言うことだけは立派だな。』
「五月蠅い五月蠅い!どうせキツネかタヌキの仕業であろう。」
『人の言葉を喋るなら、そのキツネはもう神の使いか何かであろう。知力7ではそれすら分からんのか?』
「なん、じゃと?そなたまこと神と申すか?」
『だから最初から言っておろう。』
「し、信じられぬ・・・麿は神懸かってしまったのでおじゃるか?」
『そんな訳なかろう。貴様ごときが・・・』
「やっぱりお主は妖怪じゃっ!悪霊じゃっ!今すぐ成敗してくれる」
『だからどうやって。』
「グヌヌヌ・・・」
やっぱりコイツ、知力7だ・・・
『我はそなたの先祖神だ。そなたを正しき道に導くためにわざわざ降臨してやった。』
「な、な、な、か、春日権現様、なのか?」
一条家の氏神様って、春日大社の神様だったのね。よく知らんけど・・・
『タケミカヅチノオ、と言えばそなたの頭でも理解できるか?』
「ば、馬鹿な・・・何故、麿にこのようなことが起こったのだ。」
それはこっちが聞きたい・・・
『まずは、このままでは一条家が由々しきことになる。そう、そなたが無能で怠惰なために。』
「おのれ、この高貴な麿を愚弄しおって・・・」
『これは、確かな将来であり、後世におけるそなたの評価である。』
「たわけたことを申すな。麿は名の通った数々の教養人から薫陶を受けた貴人なるぞ。麿の将来は関白に決まっておるのじゃ。そして一条の家は藤原北家の名門。落ちぶれるなど、戯言も大概にしておいた方が良いぞよ。」
『確かに、京都にいる一族は残る。しかし、そなたの一族とこの荘園は失われる。そなたの愚行によってな。』
「その証拠はあるのでおじゃるか?」
『20年もすればそうなっている。そうなってからでは、何もかも手遅れだがな。』
「やはりお主は偽物でおじゃるな。20年も先の話など、どうとでも言うことができるでおじゃる。」
コイツ、知力7の割にはやるな。
「もし、お主が神であるなら、明日何が起きるか言ってみるのじゃ。」
『朝餉の際に汁をこぼして大変熱い思いをするぞ。』
「やはりお主、悪霊であろう。」
兼定は傍らに置いていた刀を握り、再び立ち上げる。
『我の言うことを聞けば、まあ、少しは助けてやろう。そうでないなら毎日、どこかで足の小指をぶつけるようにしてやろう。』
「何と姑息な・・・」
『我は、そなたのちんけな剣術でどうにかできるものではないぞ。』
「麿でダメなら家臣の力で何とかするのでおじゃる。」
『そう思うなら、気が済むまでやって見るが良い。そなたの気が触れたと思って、家臣達がそなたを蔑ろにするようになるが。』
「グヌヌ、どうすれば良いのじゃ。どうすれば・・・」
『諦めて我の指示に従うのが一番良いと思うぞ。』
「誰が悪霊になど従うか!」
『ならば、足の小指には十分注意することだ。』
「悪霊め、卑怯だぞ。」
『我が本当に悪霊なら、この程度で済んでいる訳なかろう。』
「お主、何が目的なのじゃ・・・」
そう言えば、何が目的なのだろう・・・
そうじゃない。早く起きなきゃ!