家の中も少し変化が起きる
さて、松山に帰ってきて数日が経ち、兼定も落ち着いて来たようだ。
まあ、ゆっくりしようにもまだ半年に満たない赤子が二人と、新たにお目出度を向かえた徳姫がいる。子供も、婚礼前の鞠、幸寿丸、浜、新徳丸と新しく産まれた鶴と日吉丸、孫の菊とたった七人しかいない。
いや、何か感覚がおかしくなっているが、四人減ったのは間違いない。
そんな中、家族揃っての夕餉である。
「さて、お雅と次郎右衛門は元気かのう。」
「プッ!」
「お松よ、何か楽しいことでもあったかの?」
「いえ、申し訳ございません。あのお調子者の志東丸が、いきなり次郎右衛門なんて立派な名前になってしまい・・・」
「そうじゃの。いきなり年寄りじみた名になったのう。」
「私は峰が心配でございます。」
「あの子は強いから大丈夫じゃ。宗太郎も側におるのが峰で良かったと思うぞよ。」
「ありがとうございます。母も強くなければなりませんね。」
「まあ、今は日吉丸のことに専念すると良いぞよ。」
「父上、麿もどこかに行かなくてはいけないでおじゃりますか?」
「うむ。幸寿丸は大隅に行って、そこで偉くなるのじゃぞ。」
「麿はどこでおじゃるか~。」
「新徳丸は次郎右衛門の隣の西園寺に行くのじゃ。兄上といつでも会えるぞよ。」
「志東兄上をやっつけるのじゃ~!」
「これこれ、やっつけてはならぬぞ。仲良くするのじゃ。」
「うん。わかったでおじゃる~。」
この子が一番父に似てる。残念ながら秀の要素は皆無だ。
行き先が分かっている鞠はあまり元気が無い。
「鞠は寂しいでおじゃるか?」
「はい。まだここに居とう存じます。」
「そうよのう。お雅が遠くに行ってしまったのを見たあとじゃからのう。無理も無い。」
「でもお鞠様。私の兄上の家ですから、何も心配は要らないのですよ。」
「そうじゃの。会ったことはないにせよ。一応、従兄弟ということにはなるのよのう。」
「そうですね。義理ですけど。」
「お浜はどこかに行けるのでおじゃりますか?」
「お浜ちゃんはまだ分からんのう。もうちょっとととさまと一緒で良いかな。」
「浜は松山が良いでおじゃりまする。」
「そうよの。浜は仕方ないのう。」
ああダメだ。この親、甘すぎる・・・それに、松も秀も生暖か過ぎる。
「それで、徳殿はいつ頃になるのじゃ?」
「来年の春頃になるかと。」
「そうか。菊も姉上になるのよのう。」
「最近はあちこち歩き回って大変でございます。」
「そうよの。妻三人が揃って動けぬからのう。お菊の面倒を一番ちゃんと見ているのはだ~れじゃ。」
「お鞠お姉様におじゃります~。」
「まあ、そうなるのう。それで、新徳丸はその間、何しておるのじゃ。」
「お姉様の分のお菓子をいただいております。」
大丈夫か?西園寺家・・・
「鞠は優しいからそれで済んでおるが、たまには新徳丸のお菓子を鞠にあげないといけないでおじゃる。」
「分かったでおじゃる。幸兄上も協力して欲しいでおじゃる。」
「・・・新徳丸は、いつもこうなのです。」
「何か、済まんのう・・・」
「まあまあ、料理が冷めてしまいますよ。早くいただきましょう。」
「そうです。新徳丸ももう兄上なのですから、しっかりしないといけませんよ。」
「は~い。」
やはり、妻二人がいないとこの家はどうにもならない。
「徳よ、食が細くなってはおらぬか?」
「大丈夫でございます。旦那様。」
「気が乗らないときは無理に食べず、また調子が良くなれば食べると良いのですよ。」
「そうですね。それと湯気は結構むせ込みますから、よく冷まして食すと良いですよ。」
「ありがとうございます。まつお義母様、お秀様。」
「新徳丸も徳姉様の邪魔をせぬようにの。」
「では、今日はお菊のお世話をするでおじゃる。浜、良いの。」
「うん、いいでおじゃるよ。」
「しかしお主、何でも人を巻き込むのう。」
「父上が申しておりましたぞよ。飴は餅屋って。」
「うう、うむ・・・間違いないぞよ。」
「そうでおじゃろう!」
「間違いなく、麿の子ぞ・・・」
松も秀も、いや栄太郎や徳まで、誰もツッコまない。子供が主役の夕餉だ。
「一条家じゃもののう・・・」