織田も足下を固めている
信長は、九州を統一した後も全く手を緩めない。
一条でさえ、戦は多くて年に一度、それも数ヶ月しかしないのに、あちらは通年で複数の戦線を張っている。
いくら都や堺を含む広大な領地を持っているといっても、人、金、物の面でかなり厳しいとは思う。
まあ、これに付き合わされている敵方も堪った物では無いと思うが・・・
丹波では、この地域を任せられている明智光秀に細川藤孝や筒井順慶らが与力で付けられ、兵力も四万で攻めているらしい。
対する国人衆も頑強に抵抗はしているものの、すでに織田軍と野戦を行う余力は残っておらず、籠城せざるを得ない状況であることから、早晩決着すると見ている。
紀伊の方は、これまで佐久間信盛が大将を務めていたが、ここにも滝川一益と羽柴秀吉が加わった。すでに雜賀や根来寺は落ちており、南紀地方へ容赦無いローラー作戦を展開している。
ここは丹波と違い「武士など何ほどのことがあるか」といった雰囲気の者が多く、各村にくまなく軍勢を派遣して、従わない者は民であっても容赦無く力を見せつけているのだそう。
まあ、表現はボカしたが、そういうことである。
このため、時間は掛かっているが、元より兵力が圧倒的に違うので、そのうち平定されるだろう。
ちなみに、高野山はさっさと恭順したので、史実通り焼き討ちには遭っていない。
東は静かだ。武田も上杉も動きはない。上杉も加賀と能登は欲しいだろうが、先の戦いでの損害は、あの戦好きをして、出兵を躊躇させるほどのものだったのだろう。
そして、武田は「信玄死す」の噂が耳に入ってきた。信長は死んだものと考えているようだ。
そりゃそうだ。レクチャーしたんだから・・・
信玄が史実どおり、三年間、死を隠すよう指示しているのであれば、当面は大人しくしていることだろう。そうでなくとも信長との力の差は、絶望的ではあるが。
しかし、信長にも全く弱点が無い訳ではない。
旧毛利領や畿内は、まだ落ち着いたとは言い切れないのだ。そのための丹波攻めであり、紀伊攻めなのだろうが、公方様や三好の残党、信長のやりように不満を持つ小領主は多い。
それでも、力で押し込み、押しつぶすのが信長だ。
ここまで来れば、天下布武の達成は確実な状況と見ていいだろう。
ちなみに、織田家の同盟者は、徳川家康、浅井長政と一条兼定である。
大友宗麟は何だか中途半端な立ち位置であり、正式な盟約を交わした訳では無い。
なお、毛利輝元は与力大名として家臣団に組み込まれている。まあ、宇喜多直家と同じ位置づけだ。
『麿たちは、もう戦をしなくて良いのでおじゃろうか。』
『当面は九州で手一杯だな。むしろ、これまで有象無象が好き勝手やっていた肥後や数百年、島津に従っていた薩摩などは、相当危ないぞ。』
『大隅はどうかの。』
『あそこは、肝付、蒲生、禰寝がこちらに大人しく従ったからな。むしろ内政面の遅れが心配だな。』
『そうよの。当分は東に兵を向けておる暇はないのう。』
『向こうは徳川の担当だ。どうしてもというなら四国兵を向けてもいいが、もう織田単独でどうにかできるだろう。』
『そうして貰わんと困るのう。』
『関東や陸奥まではいくら何でも行けんだろう。』
『そう考えると、日の本は広いのじゃな。』
『そうだな。中納言は東国に足を踏み入れたことは無いからな。むしろ、広さだけなら西より東の方が広いぞ。』
『そうなのか。しかし、東国の話しはあまり聞かんのう。』
『そうだな。土地が広くても、米の栽培が難しい土地も多いし、民の数も少ない所が多い。豊かさでは西国が上だからな。』
『しかし、強い大名はたくさんおるようじゃぞ。』
『そうだな。それでも、織田や一条ほどの大名はおらんな。』
『うんうん、悪霊もなかなか分かってきたでおじゃらぬか。』
『中納言はまだまだ分かっていないようだな。』
『しかしそうか。これからは落ち着いて政ができるのう。』
『やっとだな。中納言はよく頑張ったと思うぞ。』
『そ、そうであろう?麿だったからこそ、ここまで大きくなれたのじゃぞ。』
『いや、島津の四兄弟辺りなら、今頃はもっと・・・』
『それを言うでない。あの四人は怖かったぞよ・・・』
『さて、それはそうと、これからは畿内の政争にも巻き込まれるな。』
『そうなのか。そこは弾正殿に任せておるのじゃが。』
『ところが当家は公家だ。平和になると彼らが元気を出してくる。』
『そうかのう。麿は今の内裏しか知らぬでのう。その辺はよう分からぬ。』
『せいぜい面倒ごとに巻き込まれないよう気を付けろよ。特に本家から。』
『分かったぞよ。分かったところでどうにもならぬが。』
『いいんだ。相手に上手く騙されなければ、それでいい。』
『うん。頼んだぞよ。悪霊。』
まあ、いつもの会話である。