秀吉もやってたなあ・・・
さて、新たに配下とした九州の諸将を松山城に招いたが、これは、一条に反発しようという気を起こさせないための政治的パフォーマンスである。
かつて、秀吉も大阪城で同じ事をやっていたが、今回は九州各地から集めた有力者たちに城を披露する。
もちろん、大阪城はこれより遙かに大きいが、中世然とした山城か、防御力皆無の館しか見たことの無い者にとっては、十分な衝撃を与えられるだろう。
「御所様、このような城、九州のどこにもございません。」
「まあ、今織田家で作っている大坂や安土の城に比べれば、可愛いものよ。」
「城の中に何でもあるのですな。」
「そうよ。御殿や庭園はもちろんのこと、馬場や兵の詰所、蔵や政務を行う建物。これらを集約し、なおかつ、城としての防御にも配慮がなされた造りになっておるぞよ。」
「確かにそうですな。それに、堀も広く深い。」
「ここが南大手門じゃ。橋は敢えて落とせるように作ってあるぞよ。」
「壮大な門でございますな。」
「門は城の顔であり、弱点でもある。こうして容易に破られない工夫が必要なのじゃ。」
「上から槍や鉄砲を使えるのですな。これなら門扉に近付くことすらできません。」
「この城はどうやったら落とせるのか・・・」
「大砲を撃ち放てば良いかのう。城にも砲台は仰山あるが。」
「どの方向が搦手なのですか?」
「後で案内するが、北西、北、東の三箇所にあるぞよ。」
「しかし、南の丸だけで内城がいくつ入ることやら。」
「又三郞殿も作って良いのじゃぞ。むしろ一つくらいは、家の威光を示すために持っておった方が良い。有馬殿や相良殿もそうじゃぞ。」
「はい。心得ましてございます。」
一行は天守に上る。
「いやあ、これは良い眺めでございますな。向こうは伊予灘でございますか。」
「そうじゃ。その向こうは豊後杵築辺りかのう。」
「この城は落ちませぬ。」
「麿も落とし方は知らぬぞよ。」
秀吉は懇切丁寧に教えたそうだが・・・
いや、兼定は本当に知るまい。
そして次の日。評議を終えた後に南の丸大広間に全員を集める。
ここには直臣だけでなく、一部の有力な陪臣も参集している。
譜代の中村衆から松浦、相良、肝付といった者たちまでである。
「本日は麿の家臣の主だった者たちが一同に会することができた。遠路からの者も多く、皆、大儀でおじゃる。」
「ははっ!」
「此度の戦で、都より西からは、応仁以来の戦乱は収まった。そして我が一条は四国と九州の主になったでおじゃる。」
弱小大名家の成り上がり、ここに極まれり、というほどの大躍進である。
「これからは、それぞれが政をしっかり行い、二度と戦で荒れた世にしない努力が必要でおじゃる。戦と政は車の両輪。どちらもないがしろにはできぬでおじゃるが、今までは戦に明け暮れてしもうた。これからはその分、政に精を出し、新たな世を作っていかねばならんでおじゃる。」
「まさにその通りでございます。」
宗珊が答える。
「その一歩として、これから各人に改めて忠誠を誓ってもらうぞよ。そしてこれを生涯違えるなかれ。よいの。」
「はっ。」
そして、一条家掟書を宗珊が読んだ後、ここに集まった百名近くの家臣一人一人と誓約を交わす。
「これで、皆との約束は交わしたのう。これを守る限りは麿もそなたらを守るし、破れば必ず制裁するぞよ。」
「御意!」
「では、もう一つ重大な策を二つ示すぞよ。一つは本日以降、陪臣が城を持つことを禁ずる。今現在、城に住んでいる者は速やかに館を建てた後、これに移り、元の城を完全に破却するように申し伝える。これに例外は認めぬが、麿若しくは直臣が、ろ号とすべきと認め、その城代に陪臣を任命する場合はこの限りではないぞよ。」
要するに、小領主による反乱防止である。武器や兵糧の大量備蓄場所を彼らから奪うのだ。もう一つは徳川家康による一国一城令のような効果を期待した部分もある。
幕府中枢を担った旗本上層の人々も、元はと言えば小領主であり一城の主だった者達だ。
現在の一条家では全ての家臣を転封させ、伝来の地から根切りすることはできないが、城を奪うことで城の主から役人に意識を変えるように促したものである。
私個人としては、軍事施設という側面以上に、その城に依る地侍の意識改革こそが一国一城令の本質では無かったかと考えている。
そして、彼らの住む館には堀、櫓、狭間、高さ四尺以上の石積みの設置を禁じた。
「そして、もう一つは、農民や町人からの刀、槍などの武器の没収でおじゃる。ただし、四国内における一領具足の制は当面残し、その該当者については例外とするぞよ。」
これは刀狩りである。
「しかし、急な動員については、いかがなさいますか。」
「それぞれの城に武器庫を設け、いざという時に備えるとともに、手入れは足軽の仕事とせよ。」
「承知!」
この後、宴が同じ広間で行われ、家臣達はそれぞれの領地に帰って行った。
こうして、一条家は新たな時代の一歩を踏み出す。