もう、だらけてもいいでおじゃろう?
さて、これまで大きな脅威であった毛利を周防・長門の二カ国に封じ込めることができた。恨みは買っただろうが、一条家にとって最早脅威では無い。
今の国力では、大友にすら敵わないし、水上戦力も持たない。
それに、元就と吉川抜きの毛利家など、王と飛車の無い将棋のようなものである。
まあ、うちも王は無いようなものだが・・・
ということで、周りは全て味方勢力という、夢のような構図が出来上がった。
すると、つい、だらけてしまう御仁が一人・・・
『のうのう、戦勝祝いに茶会と歌会を開いても良いかのう。』
『そのくらいはいいんじゃないか?』
『そうよの。これから毎日でも開けるの。』
『毎日はやめておけ。ちゃんと仕事もしろよ。特に最近は溜まってるんだから。』
『栄太郎がおるぞよ。』
『まあ、二人で分担すれば良いが、栄太郎はまだ不慣れなことも多いだろう。助けて尊敬してもらえ。』
『でもでも、麿が栄太郎の年の頃は、酷い目に遭わされていたでおじゃる。』
『酷いとは何だ。あの頃の苦労があったから、今の一条があるんじゃないか。』
『じゃから、今の一条になったのじゃから、遊んでも良いではおじゃらぬか。』
『ちょっとだけならいいぞ。』
『ちょっとだけかのう。』
『今の一条があるのは、当主の力、神懸かりの噂、そういったものも加味されたものだ。だらけて評判が落ちたら、家中が乱れる一因になる。』
『それでは自由に遊べぬぞよ・・・』
『毎日遊びほうけていたら、松や秀にも愛想尽かされるし、我の知っている歴史では、それが原因で家臣に領地を追放されたのだぞ。』
『ちょっと遊んだだけなのにか?』
『いやまあ、あの時は全く仕事してなかったらしいがな。』
『しかし、これでは麿の人生、何をしていたのか分からないでおじゃるよ。』
なに現代人みたいなことを言ってるんだ?コイツ。
『そうは言うが、油断するな。九州だってまだ治まった訳ではないし、出兵の要請も来るだろう。それに、大友と織田、この二つとの関係をこれからも維持する努力はし続けないといけない。』
『まあ、ちょっとは頑張るぞよ。しかし悪霊よ。大友殿は衰えるのではなかったかえ?』
『ああ、放っておけば島津に敗れて衰退する。龍造寺もな。しかし、状況が変わった。あの時は島津を叩く前に他の勢力が衰退したが、今回は島津が本格的に勢力を伸ばす前に、我々の軍を九州に送り込める状態になった。』
『ということは、やられる前にやるのじゃな。』
『ああ。しかも、おあつらえ向きなことに、公方様の方針に従い、大友に歯向かおうとしたのが龍造寺と島津だ。二つとも叩いてしまえば良い。』
『天下布武じゃからのう。九州の端まで行かぬと終わらぬか。』
『弾正殿なら蝦夷地まで行きそうな勢いがあるがな。』
『さすがにそこまでは付き合い切れんぞよ・・・』
『そのための手もちゃんと考えてある。』
『そうなのか?さすがは悪知恵の宝庫じゃのう。』
『もうちょっと評価してくれていると思ったんだがな。』
『しかし、どのような手じゃ。』
『まだだ。九州を平定した後の話だ。その際に貸し三つを使わせて貰うぞ。』
『まあ、それは良いのじゃが・・・』
「御所様。」
「官兵衛か。良いぞ。」
「はっ。織田弾正様、明智に丹波、佐久間に紀伊攻略を命じた模様。」
「して、麿に出兵の要請は?」
「いえ、単独で十分との判断のようですな。」
『よかったのう。行かずに済んだぞよ。』
『まあ、雜賀も根来も散々叩かれた後だしな。ただし、自立心が強いから、取った後が面倒だぞ。精々押しつけられんようにしろよ。丹波も、波多野や赤井は相当頑強に抵抗するからな。』
『そうなのか、それなら行かなくて正解じゃの。』
『ああ。そのとおりだ。今のうちに国力を増強しておけ。』
「分かったぞよ。大儀であったの。」
「それで、恵瓊殿の処遇はいかがなさりますか。」
「今まで毛利で外交を担当しておったのじゃろう?孫兵衛(西園寺公広)の下で働くことで良いであろう。」
「かなり、怪しい人物をお見受けしますが・・・」
まさか、官兵衛に言われるとは、恵瓊も不本意だろう。
「まあ、公家の名門である西園寺と、切れ者の恵瓊。良い組み合わせじゃと思うぞよ。」
「なるほど、そうでございますな。」
「さて、何日か休んだら仕事を再開じゃな。」
「もう少しお休みになってもよろしいのでは?」
「いや、休みは栄太郎に譲るぞよ。何せ、お腹のやや子も大きくなってきておるからのう。」
「なるほど。さすがは御所様にございます。」
何とか、兼定バカ殿化の危機を回避することに成功した。