大友宗麟
大友家の手引きで九州に上陸した兼定は、豊後臼杵で大友宗麟と会談する。
彼は兼定の母の弟に当たる訳だが、こうして会うのは初めてである。
「お初にお目に掛かります伯父上、一条朝臣、中納言にございます。」
「おお。こうして会うのは初めてであるが、確かに、大友の面影はあるのう。」
「そう言っていただけて嬉しゅうおじゃりまする。長年の無沙汰、何卒お許し下され。」
「何を。会う機会が無かったのはこちらも同じ。しかし、一条も立派になった。」
「ありがたきお言葉におじゃる。当家がここまでになれたのも、偏に大友家のご助力があったお陰におじゃりますれば、この中納言、感謝してもしきれませぬ。」
「何のこれしき。こちらも一条のお陰で毛利と和議を結んだり、九州から奴らを追い出すことができた。こうして九州に覇を唱えるところまで来たのも、そなたの力あってのものだ。何も臆することは無いぞ。」
「それで、此度の戦のことでおじゃるが。」
「儂は通り道を提供すれば良いとのことだったな。」
「はい。伯父上には、是非とも龍造寺との戦に専念いただければと思うておじゃる。」
「そうか。何なら兵を出しても良いが?」
「そうでおじゃりますな。大友軍まで攻めて来たとなれば、毛利の士気も下がりましょうぞ。なれば、兵力は些少でもよいので、多くの家門の旗指物があれば良いと思いますじゃ。」
「なるほど。それなら容易きこと。ならば兵は千か二千で済むな。」
「もちろんでおじゃる。旗指物なら、麿の兵に持たせておけば良いのでおじゃる。」
「分かった。すぐに用意させよう。」
この人も相当怪しい御仁である。何せ、出家した身で洗礼を受けた人である。官兵衛並の節操しか無いと見ていい。まあ、兼定も似たようなもんであるが・・・
ただし、兼定には好意的なようだ。これなら必要以上の警戒はしなくていいと思う。
「さて、今夜は歓迎の宴だ。心ゆくまで語ろうぞ。」
城内の広間は、珍しい酒と肴でひしめいている。さすが、この頃に全盛を迎えた大友家である。一条と何ら遜色ない。いや、ここまで成り上がった一条は自画自賛していいと思う。
そして、宴の席には、吉岡、田原、田北、臼杵、吉弘といった重臣のほかに、角隈石宗なんて大物までいる。さすが、常時人材不足の一条とは違う・・・
「それで今回、毛利を本格的に攻めるということでございますな。」
「そうでおじゃる。織田家は今や日の本一の軍を擁しておりますれば、毛利など問題にならんでおじゃる。」
今話しているのは、大友家の重臣、吉弘新介(鎮幸)である。
「それは重畳。あの毛利が坂を転げ落ちる所を見られるとは、これほど高笑いが出ることもないですなあ。ワッハッハ!」
「しかし中納言様、それでも相手は毛利、油断してはなりませんぞ。」
「御助言、かたじけのうおじゃる。確かに石宗殿の言うとおり、兵力で勝っているとはいえ、あの毛利でおじゃりますからのう。相手に考えさせる暇も手を打たせる暇も与えず、一気に攻め立てるつもりでおじゃる。」
「なるほど、ですが、何分不案内な地。伏兵などには十分、お気を付けなさりますよう、お願いいたしまする。」
「石宗ほどの高名な方に、そう言っていただけるとは有り難いことよの。ご忠告、肝に銘じておきまするぞよ。」
「さあさあ、甥御殿、堅い話ばかりでは無く、パァーッとやろうぞ。どうせ此度も勝ち戦じゃ。今から戦勝祝いをしようぞ!」
間違いない。このオッサンもお調子者だ。もしかして、兼定って宗麟似なのか?
「それは是非いただかねばなりませぬのう。では宗麟殿、まずは一献。」
「うむ。こうして会うのは初めてだが、いいものだな。こんなことならもっと早く会っておけば良かったな。」
「まことにそのとおりでおじゃりまするな。ほれ、栄太郎もおつぎするのじゃ。」
「はい。畏まりましておじゃる。大伯父様、よろしくお願いいたします。」
「おお。若いのは良いことよのう。ささ、そちも飲め。そう、グィッといくのじゃ。」
「実は、栄太郎も麿に似て、なかなかイケる口でありましての。」
「それは良いことじゃ。酒は飲まれても良いからとにかく飲めという。」
いや、そんなこと言ってないと思うが・・・
「そうじゃの。麿も確かに聞いたことがあるぞよ。」
ホントかよ・・・
こうして、宴は遅くまで続き、お陰で翌朝の出発は昼過ぎとなった。
「それでは伯父上、宿敵毛利を平らげてくるでおじゃる。」
「期待して待っておるぞ、我が甥御よ。」
こうして、4月20日に臼杵を発った一条軍は4月26日、毛利軍に察知されないよう、大友軍に偽装して立花山城に入った。
織田軍や一条領内の各軍勢も、続々前線に到着しているとのこと。
ついに、西国最大の戦がはじまろうとしている。