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一条兼定なんて・・・(泣)  作者: レベル低下中
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毛利への最後通告

 兼定と信長、そして宗珊と官兵衛の四人は、南の丸広間で安国寺恵瓊を迎える。

 今日は敢えて上座に信長と兼定が並んで座る。

 彼は片膝を立てて胡座をかいている、所謂ザ・信長スタイルである。

 やはり、彼がやると様になる。


「本日はお目通りが叶い、まことに嬉しゅうございます。そ、その・・・」

「うむ。よう参ったの。久しぶりでおじゃるが、壮健そうで何よりじゃ。それで、こちらにおられるのが、織田の棟梁、弾正大弼殿じゃ。」

「儂が織田弾正だ。そちが毛利の外交僧か。なかなかに聡いと聞いたが。」

「これはこれは、滅相もございません。しかし、拙僧をご存じとは、まことに光栄なことでございます。」

「して恵瓊殿、本日の話の前に一つ。毛利家で公方様を匿っておるという噂を聞くが、これはまことのことかの?」

「・・・はい。まことでございます。」

「ならば残念ながら、恵瓊殿の話を伺うまでもなく、一条と毛利は手切れじゃのう。」

「な、何とおっしゃいます。確かに正式な証文を交わした訳ではございませんが、十年以上、互いに手を携え、時に話し合い、協調してきた仲でございます。それを、そんな簡単に無かった事にするのは、あまりに性急に過ぎまする。」

「しかし、今日ここに織田殿がおるように、当家の事情はそちらも承知していたはず。麿は加賀まで出向いて戦するほどじゃぞ。その元を作った公方様を匿えば、どうなるかは分かるはずじゃ。」

「それは・・・面目次第もございません。しかし、まだ戦は始まっておりませぬ。今のうちならまだ何とかなりまする。」

「それなら、坊主が公方の首を携えてくればよかったのではないか?」

 いえ、謹んでお断り申し上げます。


「それは、我々は三好や松永のような無法者ではございませぬ。そのような真似、できようはずがございません。」

「ならば戦じゃ。首を洗って待っておれ。」

「畏れながら、それが性急であると申したいのでございます。何も戦だけが解決の道筋ではございません。公方様と和解する道も、今後、裏で大名を動かさぬ方策もございます。」

「そちは儂を理屈でやり込めようとしておるが、理屈を捏ねれば捏ねるほど、公方の姑息な性根が露わになるだけで、何の意味もなさぬぞ。それに、毛利は儂の力を侮っておる。そういう輩には力を見せつけねば、後で何度でも背く。少輔太郎(輝元)に伝えよ。都に出てきて我に跪くか、首を差し出せとな。」

「それはあまりに・・・」

「まあまあお二方とも。その位にして、茶でもどうかの。先般恵瓊殿にいただいた高麗の茶話を弾正殿にも披露しよう。」

「そうか。そうだな。こんな下らん話ばかりでもつまらぬからな。」

 ようやくクールダウンしてくれそうだ。


 そして、彼らを南の丸に誂えた庭園内の茶室に案内する。

「ほう、ごれはまた、趣のある茶室を作ったな。」

 これは茶畑が不動産屋の威信を懸けて、記憶を元に再現した「なんちゃって侘び寂び風」茶室である。小さいながらも囲炉裏と畳を敷いた、金だけはかかっている代物である。


「これを早く弾正殿に見せたかったのでおじゃるよ。」

「なるほど、無駄のない、落ち着いた部屋だな。」

「そうでおじゃろう?茶の味を楽しむため、雑音も目にとまる華美な装飾も、敢えて排してみたぞよ。ここで、静かに落ち着いて語らおうぞよ。」

「確かに、これは良い趣向でございますな。」

 湯を沸かし、兼定が茶を点てる。こういうことには役に立つのである。


「それで恵瓊殿、そなた自身の身の振りは、いかがなされるつもりでおじゃるか?」

「私自身・・・ですか?」

「そうじゃ。既に毛利と一条は手切れしておる。これはどう言いつくろっても、家臣や世間が納得すまい。そして、戦も避けられぬでおじゃる。しかしのう。恵瓊殿は一条からも碌を食む立場じゃ。たとえ毛利に何かあっても、一条はそなたを客人として迎えるし、必要なことは手配するぞよ。」

「それは・・・」

「それは、これからのそなた次第よ。」

「なるほどな。さすがは左近だ。確かに功の挙げ方は一つではないな。」

「ということで、三人はこれから仲間じゃ。恵瓊殿、良いでおじゃるな?」

「あ、あの・・・はい。」

「そうか。穏やかに話が纏まって、麿は満足しておるぞよ。そうでなければ、せっかくの茶の味が存分に楽しめぬからのう。」

「全く、左近殿の言うとおりだ。殺伐としていては、茶を飲む甲斐がない。」

 こうして二人は、恵瓊を懐柔してしまった。


「それで、私は何をすれば・・・」

「戦は避けられぬ。これは主に伝えても支障はなかろう。あとは働き次第で恩賞も考えるぞよ。ただし、言っておくが、勝つのはこちらじゃ。よ~く考えることじゃ。」

「畏まりました。仰せのままにいたしまする。」

「さすがは知恵者と名高い恵瓊殿だ。若いがなかなかのものだな。」

「いいえ、拙僧など、いつも冷や汗をかいてばかりでございます。」

 外で、なんちゃって鹿威しの音が聞こえる。


「それにしても、これはいいな。儂にも後で作り方を教えてくれ。」

「もちろんじゃ。これで都でも良い茶が楽しめるのう。」


 こうして、最後は密会っぽくなったが、恵瓊は無事、帰っていった。

 しかし、あの三人が密室に籠もると、悪代官っぽさがハンパないと思った・・・


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