鉄砲生産の目処を立てる
夏になる頃には種子島に派遣していた職人達が戻って来た。
いずれ彼らには弟子を取ってもらい、集住してもらうつもりであるが、当座は派遣した職人のうちの一人の鍛冶場で集まって作業してもらうこととした。
「秋までに鉄砲100丁は揃えよ。報酬ははずむぞよ。」
「御所様直々に来てくれるとは、たまげたねえ。」
『おい、随分失礼な物言いじゃな。』
『庶民なんてこんなものだろ。我慢しろ。』
「では監物、後は任せたぞよ。」
「御意。」
『のうのう、あれは巷で評判であるが、本当にあのような物が役に立つのかのう。』
『少なくとも、雑兵が刀を振り回すよりは、遙かに有用なものだぞ。』
『その程度のものか?』
『ああ、たとえ鉄砲が完成しても、扱う兵の練度が低ければどうしようもない。此度の戦ではその程度の役にしか立たんと心得よ。』
『分かったぞよ。』
「ところで監物、少しは見所のある兵は増えたかの?」
「はい。御所様がいつでも動かせる兵として、2千は確保しております。」
「それは重畳だの。更に鍛えて戦に備えるのじゃ。」
「はい。仰せのままに。」
『のうのう、豊後の大友にも助力をもらえれば良いのではないかのう。』
『今回は止めておこう。一条が自力で領地を拡大できるところを見せておきたい。』
実際、大友は西園寺との戦の際に援軍を出し、敵に大損害を与えた実績はある。
しかし、一条の勢力拡大にとって、強大な他家の介入は避けたいし、これ以上大友に近い姿勢を取ると、今後伸長してくる島津との関係にも影を落とす。
『大友殿には伊東殿との仲を深めてもらい、島津の北上を牽制してもらった方が良い。』
『なかなかに遠大な策よのう。』
『注意しなければならないのは島津だけではない。安芸の毛利も阿波の三好もいつこちらを狙ってくるか分からん。対外的な付き合いも、攻める相手も、慎重に選ぶ必要がある。』
『分かったぞよ。』
『そのためには兵力を増やすことと、少将自身が馬を乗りこなすことだ。』
『何とか一人で乗れるようにはなったぞよ。』
『それではまるで足りぬ。自在に操れるようになるまで特訓だ。』
『やはりそうなるのかのう。麿は歌を詠んでいた方がよいでおじゃる・・・』
『つべこべ言うな。』
御所に戻って・・・
「宗珊よ、津島殿と板島殿の調略は進んでおるかの?」
「はい。津島殿には何度も念押ししております。こちらが有利となった段階で兵を出してくれるそうです。板島殿はどうもハッキリしません。」
「まだ迷っておるということか。しかし、明確に拒絶している訳ではないのであろう?」
「はい。それはもちろん。板島殿も勝ち馬に乗らなければならない立場ですし、あわよくば西園寺総領の座が欲しいでしょうから。」
「まあ良い。こちらに付くのが遅れれば、取り分が減るだけのことじゃ。麿もそこまでお人好しではない。」
「そのとおりですな。」
「土居はどうじゃ。大森城下のみならず、三間の領内に悪評を撒いておるが。」
「ええ、少しづつ浸透しているとは思いますが、何分、このような謀は時間がかかりますゆえ。」
「そうよの。特に今の城主親子は忠臣と名高い。西園寺の本拠である黒瀬の城下でも吹聴した方が良いのう。」
「はい。むしろそちらの方が疑心を喚起するのに効果的でしょう。」
「では、そちらもよろしく頼んだぞよ。」
「御意。」
「それと、津島や板島をあまり信用し過ぎてもいかんぞ。」
「もちろんでございます。」
『これで良いのかの?』
『後は宗珊を始めとした家臣が何とかしてくれる。』
『秋まで待てと言うことじゃな。』
『それまでは、領内が良くなるよう、様々な手を打つ時だ。』
『麿に休みはないかの?』
『あまり働いているようには見えんが?』
『働いておるではないか。それに、もっと美味いものも食べたいでおじゃる。』
『贅沢は周囲の敵を全て薙ぎ払ってからだ。今はまだ早すぎる。』
『ちょっと良いものを食うくらい、よいではないか。』
『少将はそうやってすぐだらける。今でも京の貴族よりは良い物をたくさん食べているはずだ。』
『そうかのう・・・』
コイツに怠け癖を付けないこと。これが今、一番重要だ。




