史上最大の要塞
三月、洲本城が一応の完成をみたというので視察した。
この城は三熊山の山頂に本丸を置き、東の稜線上に二の丸、西に三の丸を配置し、それぞれに石垣や櫓を配して、小規模ながら綺麗な佇まいを見せる。
もともと、山頂部分は防御性能より海からの見栄え重視で作ったから綺麗なのだが、決して守備に問題のある城では無い。そして山頂部分と麓は急な階段のみで繋がれており、こちらはまだ建設中であるが、麓にある櫓、門、堀は完成しており、この度、落成としたものである。
そして、この城の弱点である南側は高石垣を巡らせ、本丸建設時に使用した道も郭への入口を塞いで使用不可とした。補修時は、再び当該箇所を修繕して使う考えだ。
そして、淡路島の守りとしては、洲本川を挟んだ対岸の山に炬口城を建設した。これは城というか、砲台を守るための施設といった趣であり、北から攻め込んで来る敵や海上に対する防備を目的としている。
その他に島の最北端である松帆、昔は城があったともされる北部の港岩屋、中部の郡家(ここまで淡路市)、南部の由良(洲本市)、最南端の潮崎(南あわじ市)に砲台を築き、大軍の収容もできる屯地も整備した。
そして、土居清晴の志知城を始め、各領主の城郭も合わせて、淡路島の軍事要塞化がほぼ完了した。
「どうでございましょう。新しい洲本の城は。」
「うむ。見事な出来映えでおじゃる。これならそう簡単には攻め上がってこれまい。」
「はい。南側は比較的傾斜が緩く、城の弱点でございましたが、石垣と銃眼を備えた塀、櫓で厳重に守っておりますので、堅城と言って差し支えない造りとなってございます。」
「よくやったぞよ。」
「では、天守にご案内いたします。」
この天守閣は、特に海に面した東側と町に面した北側はかなり華美に仕上げられている。
そして、本丸御殿や櫓など、本来この城には必要のない施設まで豪華に作られている。
見せるだけならハリボテでも良かっただろうに・・・
「遠くまで広々としておるのう。海か綺麗じゃ。」
「ええ、向こうに見えるのが堺のはずです。」
「船を見張るにも使えそうよの。」
「はい。物見櫓としては大変優秀でございます。」
「さて、誰を城代にすべきかのう。」
「そこは、御所様にお任せいたします。」
『のう、悪霊なら誰を選ぶ?』
『武勇ならやはり依岡か小島ではないか?だが、遠い上に、人材不足の当家で彼らをここの城代に据える余裕はないからな。差し当たりは土居殿の御嫡男に任せ、将来は幸寿丸か新徳丸の居城にでもしてしまうのはどうだ。』
『そういうやり方もあるのう。』
『織田が敗れて、雲行きが怪しくなれば話は変わってくるがな。』
『そうはなるまいな。』
『大丈夫だろうな。』
「城主については、志知の土居殿に相談して決めるぞよ。」
「畏まりました。」
麓に下りた兼定は、もう一度下から洲本城を見上げる。
『しかし、四国を守るためとはいえ、大がかりなことをしたでおじゃるな。』
『こうやって力を見せつけることは、淡路の民に対しても、織田に対しても重要なことだからな。これでも、敵が大軍を寄越してくれば、勝つことはできんが、それでも周辺の兵を動員するまでの時間稼ぎにはなるだろう。』
『これでも完璧な防御とは言えぬのか。』
『ああ、しかし、かなりな損害を与えることはできるだろう。たとえ敵の上陸を許し、淡路を失う事になったとしても、損害が大きければ、そこで諦めてくれる場合もあるしな。』
『なら、最初から来ないで欲しいぞよ。』
『全くだな。これらの施設を使うことが無いように祈っているぞ。』
兼定はこの後、明石、姫路、赤穂の各城の進捗を見て、4月1日に松山に帰った。
この間に、日向で木崎原の合戦は行われ、伊東祐安が討たれたとの報が入った。
兵力僅か三百余りの島津が、三千を擁する伊東を破ったのである。
両軍ともそれぞれ三百程度の損害を出し、特に伊東側は名のある将を多く失ったようだ。
こうして、伊東氏は急速に求心力を失い、やがて滅亡することになる。
「次から次へと問題が出てくるのう。」
「島津が伸長してくるとなると、当家にも援軍要請が来るかも知れませんな。」
「厄介な敵じゃ。それ以上に、この機に乗じて毛利がちょっかい出してこないか、それも心配じゃのう。間者をもっと増やそうかのう。」
「では、織田殿に依頼して、甲賀者をいくらかお召しになってみては?」
「ほう、さすがは官兵衛。面白そうじゃの。」
また、怪しげな家臣が増える・・・