11カ国の太守は何を見る?
元亀3年(1572年)1月
年が明けた。
すでに隣接する地は織田と毛利、大友、伊東に挟まれ、紀伊以外はこれ以上拡大する余地が無いので、当然、戦をする予定も無い。
そして、各地の大名も規模が大きくなり、戦国大名生き残りトーナメントもいよいよ大詰めに近づいてきた。
一条家はその中で、単純な国力比較では織田に次ぎ、北条と並ぶ大勢力になった。山陰地方が立ち後れてはいるものの、全体の領地の整備や軍の装備・練度を勘案すると、一番強いかも知れない。これを兼定が率いているのだから驚きだ。
今年は、曇天で初日の出どころではなく、とても肌寒いので、御殿内でひっそりとした正月を送っている。
今年は相当荒れるのだろうか。何だか陰鬱な感じの空模様である。
「これでは、お出掛けする気も失せるのう。」
「皆で出かけるのは明日にしても良いでしょう。」
「そうじゃのう。でもお雅も今年で満12になるし、栄太郎も今年で15じゃ。どうしても神頼みしておかぬとのう。」
「御所様にはいつも神が付いております。お頼みすれば必ず御利益がございますよ。」
「しかし、あの神は品性下劣じゃからのう。栄太郎はともかく、お雅を任せたくは無いぞよ。」
「まあ。後で神様に叱られないようにお願いしますね。」
「彼奴はしょっちゅう怒っておるぞよ。じゃが、人はいいらしいぞよ。人ではおじゃらぬが。」
「万千代の婚儀も準備を進めないといけませんね。」
「そうよのう。徳姫と栄太郎は仲睦まじくやっておるようじゃが、弾正殿の周りが落ち着かんことには、進めようがないからの。それに、婚儀に合わせて官位をいただけるように総領様に頼んでおる。」
「まあ、それは嬉しいことです。」
「志東丸や幸寿丸たちも、元服したら官位を貰えるよう、取り計らうつもりじゃ。」
「私の子供もでしょうか?」
「お秀の子も麿の子よ。ああそれとお松よ。一つ、いや、今日ではないのう。」
「では、後日お伺いしますね。」
「それと、お雅もそろそろじゃのう。」
「はい。親としては寂しいものですが、これは避けては通れませんね。」
「どこが良いのかいろいろ考えてみたのじゃ。それで三つに案を絞ってみたぞよ。」
「まあ!是非お聞かせいただけますか。」
「一番は徳川殿の御嫡男、岡崎三郎殿じゃ。」
五徳と結婚しない世界線の松平信康である。恐らく、切腹させられることは無いだろうし、史実を考えれば誼を結ぶ価値はある。
「二番は本家の養女とし、総領様に婿を構えてもらう案じゃ。」
一条内基には実子がおらず、史実では後陽成天皇の第九皇子を養子に迎えることになるが、子のうちの誰かが本家に入れば、血は絶えずに済む。
他に、栄太郎の帰国に合わせて松翁丸を本家に出し、養育させるとともに、そのまま本家を継がせる案も持っているが、これはさっき、お松に対して言いよどんだことである。元旦に話すような話題ではないのだ。
「それなら、お公家様になるのですね。」
「そうよのう。うちのようなエセでは無く、本物の公家よの。そして三つ目が宇喜多じゃ。あそこはまだ子がおらぬ故、何とも言えぬし、お浜の方が良いかも知れんがのう。」
「なるほど、お家のことを思えば、宇喜多はとても重要ですね。」
「そうなのじゃ。あそこが寝返ると目も当てられんことになるぞよ。」
「分かりました。松もそのいずれかでお願いしとうございます。」
「ありがとう。感謝するぞよ。まあ、徳川殿となれば、弾正殿に話を通さねばならんし、宇喜多はまだ子もおらぬ状態だから、まずは本家に話を持っていくがの。」
「そうでございますね。でも、本家であれば鞠でも峰でもよろしいのでは?」
「総領様が男と女、どちらを望むか分からんからのう。ますはそっからじゃ。」
「そうですね。でも、当家はますます盤石でございます。」
「天下と取るのも夢ではございません。」
「これこれ、麿はそこまで望んではおらぬぞ。天下より、そなたらとのんびり暮らす方がずっと良いし、麿の望みじゃ。」
「残念ですが、御所様がずっと戦場で留守というのも嫌ですな。」
「麿も嫌ぞよ。」
「やはり、御所様は変わりませんね。」
「当然じゃぞ。麿は決して好きで戦をやっている訳ではないからのう。お家のため、家族のため、そして領民のためじゃ。まあ、後は巻き込まれたり頼まれたり・・・」
「安堵いたしました。今年も御所様は御所様です。」
「そのナヨナヨしたところも素敵でございます。」
「二人とも失礼じゃのう・・・」
この三人なら、厚い雲も消し飛ばしてくれるだろう。