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一条兼定なんて・・・(泣)  作者: レベル低下中
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兼定という男

 さて、彼と付き合って間もなく14年になる。

 そして、あの時は元服間もなく、まだあどけなさが色濃く残っていた少年も今や27才。この時代なら立派なおっさんだ。


 そして、土佐幡多郡に加え、高岡、吾川の二郡の一部しか領地の無かった小領主は、もうすぐ11カ国の太守という、国内最強クラスの大大名となった。


 そのほぼ全てが、未来を知っている私の知識によってもたらされた成果であることは言うまでもないが、そうは言ってもあの一条兼定である。

 彼の能力の低さでこれを達成できるとは正直、思っていなかった。


 そんな彼の下馬評は、怠惰で酒好き、女好き。性質軽薄で残虐を好み、諌言に耳を貸さず、知勇ともに著しく劣る人物だったはずだ。

 もちろん、それは長元記や土佐物語に書かれた人物像であって、かなり盛られたものであることは承知しているが、ゲームがその人物像を反映させていたことは事実であり、土居宗珊を誅殺し、家を一代で潰したことは史実である。


 では、実際の兼定はどうかというと、怠惰である。

 根性なしで飽きっぽく、すぐにサボろうとするところは、まんまイメージどおりである。

 その上、惰弱である。小心者の上に心も弱い。

 さらに、短気で思慮が年齢の割に浅いため、とても軽率である。

 まあ、武将としては、どう贔屓目に見ても三流の域を出ることはない、いたって凡庸な人物である。


 しかし、彼はそれだけの人間では無い。良い所だってちゃんとあるにはある。

 まず、素直で、何だかんだ言いつつも、やるべき事は最後までやってくれる。

 これが捻くれていたら、相当苦戦しただろうが、操作が簡単なのは有り難いし、周囲もそんな彼の人物を好意的に受け止めてくれている。


 そして、実は善性の人である。それは家族や家臣に対して大いに発揮されているし、領民に対しても自分並みに甘く、決して苛政を敷いている訳では無い。

 また、意外にも物欲に乏しく、家臣に対して大盤振る舞いを躊躇無く行う。

 お陰で宇喜多や長宗我部のような大大名クラスが出現してしまっているが、彼らも兼定の下にいるうちは美味しい思いができると、日夜仕事に励んでいる。


 これは、神懸かりという噂が醸し出す神秘性と崇拝に近い尊敬、西国一の大名家を築いた名声、そしてそこから生まれる責任感と余裕が成せる技なのだろうが、良い方に傾くと、彼のような者でも明るい人生になるのだなあとつくづく思う。


 そんな彼が率いる一条家もまた、波に乗っている。

 本来なら、取り立てて高い能力を持つ家臣もおらず、長宗我部のいいカモとして滅亡するばかりだった弱小領主のはずが、今や毛利とやり合っても負ける気がしない。


 一番の成功要因は、その勢力拡大の早さと、タイミングの良さだろう。

 初期の本山攻めと西園寺との戦が最もリスクの高いものであったが、本山側も、かつて和議を周旋した一条が、代替わり直後に打って出てくるとは想定していなかっただろうし、ましてや長宗我部と連携して本気で潰しに掛かってくるとは思わなかっただろう。


 西園寺も、嫡子喪失後という不幸と、家臣団構築前の結束の弱さを衝かれ、背後の宇都宮の動きもあって、持てる力を発揮できないまま敗れ去ってしまった。こちらも史実と異なり、土佐を安定させた兼定が全軍で攻め寄せたのは、不運と言う他無い。

 同じことは河野にも言え、造反者続出の中で、主力の動員すらできないまま、短期間で組み伏せられてしまった。


 三好については、有能な四兄弟が短期間で全て姿を消すという不運もあったが、史実では、三好を脅かすような勢力の誕生は、遙か先であったはずだ。

 そして、主力が四国に不在という最悪のタイミングで攻められた結果、こちらも十全な状態で戦うことができず、織田が上洛してきた際も組織的な抵抗ができないまま、戦国の歴史から退場することになった。


 これれらの戦いで得た四国が、一条家の最も大きな財産である。

 それ以上の勢力拡大は正直、考えていなかったが、すでに成り行き任せであっても、備前や播磨の国人衆風情には負けないだけの国力があったし、圧倒的な兵力を前に、相手が戦わずして靡くことも増えた。


 そして外交面では、朝廷と幕府、そして織田家、大友家といった勢力と良好な関係を築き、西国におけるキーパーソンに成長した。今や、潜在的な仮想敵である毛利でさえ、手出しできないほどの力を持ち、主導権すら握っている。


 そういった戦略面の幸運や巧みさもあるが、内政面でも新田開発、治水を始めとした公共事業、南蛮貿易、新兵器導入、特産品開発など、さまざまな財政強化策を他に先駆けて実施した。これは、ポスト戦後を見据えた際にも、他を引き離す大きな武器となる。


 そして、これらは兼定が首を縦に振らなければ、絵に描いた餅で終わるはずだったのも事実である。

 こういったことを二つ返事で承認し、時に弱音を吐きながらも途中で止めなかった兼定の良い部分は、もっと評価されてもいいと思う。


 これは、すっかり情にほだされた私、茶畑愼司の感想である。



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