天下静謐
さて、新年の評定を終えた兼定は、すぐに都に行く準備をする。
信長が、東は甲斐から西は安芸までの諸将に対して、都に挨拶に来るよう書状を出したからだ。名目は禁中御修理とあるが、実際は臣下の礼を取りに来いということだ。
確か、これを朝倉義景は無視して攻められたんじゃなかったっけ?
兼定は昨年も行っていることもあり、「またいい酒を準備して待ってる」と書かれていたが、他の大名宛の書状には何が書いてあったんだろう・・・
まあ、こういうパフォーマンスも政治には必要だ。
兼定も行く気だし、お松とお秀、そしてお雅に宇喜多と元親を連れて都に向かう。
「いやあ、いつか秀に都を見せたいと思うておったから、丁度良い機会でおじゃったのう。」
「初めての土地ばかりで、心が躍りますわ。」
凄く踊っているのか、ピョンピョンしている。
「これお秀、みっともないから止めなさい。」
「あら兄上、ここには近しい者しかおりませんよ。」
「まあまあ弥三郎殿。微笑ましくて良い事ではございませんか。」
「宇喜多殿まで・・・」
「兄上、劣勢でございますね。」
「全く・・・ほら、あの峠を越えたら長宗我部領だ。」
「城はどのくらい出来たかの?」
「七割ほど完成していたと思ったのですが、松山の城を見たら、さすがに今の規模では足りないことが分かりましたので、三割でございます。」
「そうか。とにかく室山城は讃岐の要になる。堅固な城を期待しておるぞよ。別に松山の城を超えても構わぬ。」
「そういうところは全く気にされないのですなあ。まこと御所様は器が大きい。」
「敵に打ち勝つことが最も肝要よ。宇喜多殿の岡山城も存分にやってよろしいぞよ。」
「では、御所様に負けぬよう、五層七階の天主を建てまする。」
こうして前回同様、阿波から堺を経由して都に入る。
面倒だったので、宇喜多と元親も一条の屋敷に逗留させた。万千代も二人の母と再会し、とても喜んでいたし、帝や公方様との面会も能面のような顔で乗り切った。
「後は万千代と戯れて、弾正殿と飲み明かせば、此度の用件は全うしたことになるぞよ。」
「まあ、それなりの出費はございましたが。」
「まあ、内裏の修理など造作も無いことじゃが、二条御所は勘弁して欲しかったでおじゃる。」
「織田様にお願いしてみてはいかがでしょう。」
「まあ、当家の格と財力を考えれば、少しは出さぬといかぬからのう。仕方ないでおじゃる。」
などと屋敷でぼやいていたら、信長が酒樽を持ってやって来た。酒樽である。
ということで、総領様以下、屋敷全員で歓待することとなった。
「いやあ、一年ぶりかのう。楽しみで仕方無いので、来てしまったぞ。」
「これはこれは弾正殿、気分益々上々といったところでおじゃるな。」
「そうよ。左近殿が来ると聞けば、嫌でもこうなる。それと今日はもう一人、そなたの言う飲み友、というのも連れてきたぞ。」
「徳川次郎三郎でございます。」
うわぁ、神君家康公なのに、雑な初登場だよ・・・
「これはこれは、一条権中納言でおじゃる。お名前は伊予まで聞こえておりますぞ。」
「勿体なきお言葉にございます。以後、お見知りおきを。」
「それと、一条の者を僭越ながら麿から紹介いたす。こちらが宗家当主でおじゃる・・・」
と、直家や松、果てはお雅まで紹介した。
「そうか。こうなるなら儂も娘を連れてくれば良かったのう。抜かったわ。」
「まあ、お見合いはいつでもできるでおじゃる。」
「そうだな。天下の静謐には、我ら盟約で結ばれし三家の力が欠かせぬ。儂と将軍家の意向を無視する輩もおろうが、そんなものは叩き潰してくれるわ。」
「麿も協力せねばならんのう。のう、良いでおじゃろう?総領様。」
「ま、まあ、いかぬとは言えないでおじゃるな。」
「これで一条も関白様に気兼ねすることも無くなるでおじゃろう?」
「そうじゃのう。織田殿と公方様との関係を強くできれば、一条も難局を乗り切れるからのう。」
「まあ、難しい話しついでだが、左近殿と徳川殿には一つ頼みがある。」
「何でございましょう。」
「何でも聞くぞよ。」
「うむ。此度の仕置きに従わなかった者には制裁を加える必要がある。やはり、天下を押さえるには力を見せる必要もあるからな。それで、そなたらにも協力して欲しいのだ。」
「援軍を出す、ということですな。」
「左様。」
「ということは、目星は付いておるのでおじゃるな。越前とか・・・」
「さすがは左近殿。よう先が見えておるのう。勿論、そなたの言葉、覚えておる。そのための共闘に加わって欲しいのだ。」
「うむ。弾正殿の策に従うぞよ。」
「徳川の軍も存分に使って下され。」
こうして、何だか越前攻略に加担することになった。
兼定による歴史改変は全国規模になりつつある・・・