束の間の休日?
永禄13年(1570年)1月
まだ日が昇ったばかりの御所。兼定は妻達とともに庭を歩く。
「昨年はいろいろありましたが、良い一年でございましたね。」
「うむ。後半はバタついてしもうたが、浜と新徳丸も元気じゃし、都にも行ったしのう。」
「また領地も増えてしまいました。」
「それにしてもお秀の兄上は凄いのう。二度も海を渡って戦をしたぞよ。」
「文に褒美を楽しみにしていると書かれておりましたよ。」
「そうよのう。あの者の働きが一番よのう。しかし、どこが良いかのう。」
「加増ですか?」
「そうよ。讃岐四郡を与えたが、もう讃岐に与える土地は無いからのう。転封といっても、せっかく領地が治まってきたところじゃ。今動くのは嫌であろう。」
「そうでございますね。讃岐は良き所と兄も申しておりました。」
「評定の時に、本人に聞いてみようかの。」
「それがよろしゅうございます。」
「宇喜多殿も来るから丁度良いかの。」
「今回、特に功の大きかった二人ですね。」
「そうじゃ。今回の論功行賞も大詰めであるからのう。何とか仕上げんとの。」
「御所様はとても働き者にございます。」
「それと、皆松山の城を見るのは初めてでおじゃろう。驚くぞ。」
「そうですね。随分多くの建物も出来ましたから。」
「皆に天主を案内するのが、今から楽しみでおじゃる。」
「では、朝餉の準備ができたようですよ。」
「では、子供たちの所にまいろうかの。」
「では皆の者、明けましておめでとうでおじゃる。」
「あけましておめでとうおじゃります。」
「うむ。幸寿丸もよく言えたぞよ。偉いのう。」
「みんな大きくなりますね。お雅も数えで11になります。」
「そうよのう。まだ輿入れには早いと思うがのう。」
「お浜と新徳丸ももうすぐ一歳でございます。」
「全く、良いことづくめよのう。欠けたることも何とかじゃの。」
「是非、そうしてくださいませ。」
「言っておくが、天下は取らぬぞよ。」
「でも、御所様なら、取れるかも知れません。」
「そうですね、欲しくないといいながら二カ国を獲ってしまわれるような御仁ですから。」
「二人とも、麿は本当にその気は無かったのでおじゃるよ。何か、ちょっと目を離した隙に、手に入っておったのじゃ。わざとではないぞよ。」
「でも、これほど強くなりますと、皆、自然と一条を頼るように寄って来ます。」
「まさに今、因幡でそれが起こっておるのう。本当なら但馬の山名か尼子を頼るはずなのじゃが。」
「でも、長年頼りにならなかった山名や、根無し草の尼子と一条は違いますよ。」
「そのとおりでございます。動かす兵力や、領地を拡げる早さは桁違いです。」
妻二人は熱く語っているが、知力7、武勇9の男がいかに優れているかという、勘違いも甚だしい話である。
しかも、子供たちもそれぞれ騒ぎながら食事をしている。
総領様が見たら卒倒しそうな騒ぎである。
「まあ、新年早々、機嫌も良くなったことじゃし、良しとするかの。」
「それでは、皆で町に出ましょうか。」
「私は椿神社に行きたいです。」
「よいのう。では、皆で行くかの。」
「父上、お雅も髪飾りがほしいです。」
「そうか。それは買っても良いが、店が開いておると良いのう。」
「私は、御所様と外に出かけるだけで嬉しいです。」
「そう言えば、お秀はあまり物を欲しがらんのう。」
「お子がもう一人欲しゅうございます。」
「では、伊与主命と愛比売命にお願いしようかの。」
「二人でお願いすれば、叶うこと間違いなしです。」
「十人目か。凄いのう。」
「こちらの早さも桁違いです。」
「お秀、正月早々、はしゃぎ過ぎですよ。」
「はい奥方様、気を付けます。でも、お松様ももうお一人、いかがですか?」
「では、私もお願いしてみようかしら。」
「11人じゃ。もう覚えきれんぞよ。今でも8人を連れて歩くのが大変じゃというのに。」
どうせ今年も激動の一年になる。せめて今日くらいはゆっくり休むといい。
ゲームの佳境はこれからだ。