兼定は何が出来る?
今は厳冬期。
中村は非常に温暖な地ではあるが、それでも冬は雪が10cm近く積もる時もあるし、氷が張ることも珍しくない。そんなある寒い日のお話し・・・
『この春は戦をせずとも良かったのう。』
『もう本山も脅威ではなくなったし、長宗我部も一時は本山相手で手一杯になるだろう。』
『ということは、次は伊予になるのか?』
『西園寺領になる。宇都宮と場合によっては大友からも助力が見込める。』
『ならば、勝てるのう。』
『そう簡単にはいかない。国境の渡辺氏と町氏の一族である勧修寺氏、以前から誼のある法華津氏はこちら側に付くだろうが、西園寺15将は皆手強い。』
『兵力では上回っているのであろう?』
『少なくとも津島(越智)氏と土居氏がこちらに付くか、不戦でないとな。』
『随分慎重よのう。』
『ただ勝つだけではなく、お味方の損害を少なくし、できれば西園寺が降伏するように仕向けないとだめだ。』
『それはそうであろうがのう・・・』
『今なら伊予に全軍を投入できるし、西園寺は四方を敵に挟まれた状態だ。後一押しあればいいし、引き続き調略を進める。』
『西園寺はどうするでおじゃるか?』
『別に恨みは無いし、あの家も名家だ。少しばかり領地を与えて残しても構わない。』
『そうなれば、一条は更に大きくなれるのう。』
『まあ、生き残るためにはまだ不十分と言わざるを得ぬが。』
『それでも、麿の力と悪霊の悪知恵があれば、それも可能よ。』
『力というが、少将は何ができるのだ?』
『麿か?麿は書と歌と蹴鞠なら自信があるぞよ。特に蹴鞠は一家言あるぞよ。何と言っても当家に使える飛鳥井は蹴鞠道の大家で、麿も奥義の伝授を受けておるからのう。』
どれもこれも役に立たない・・・
『まあ、いずれ何かの役は立つだろうな。』
『たわけたことを申すな。高貴な世界では位と教養が物を言うのでおじゃる。』
確かにそうだ。生き残りを考えるなら、京都の本家との関係も、名家の威光も、朝廷の権威も必要だし、彼のこういった特技がそれこそ”物を言う”場面もあるだろう。しかし、それでは江戸期の貧乏貴族が精々なところであり、今の立場と比較すれば敗北と同義だろう。
『まあ、今は馬に乗れるようになることの方が重要だな。』
『もう少し暖かくなれば乗るぞよ・・・』
全く、コイツらしい・・・
『しかし、麿は最近、皆からとても尊敬の眼差しで見られる事が多くて嬉しいでおじゃる。』
『まあ、それはそうだろう。多少、恐れられているかも知れんが。』
『神懸かっておるのだからのう。これを京の公家どもに見せてやりたいのう。』
『まあ、もう少し内外の懸案を片付けた後がいいな。』
『そこで西園寺なのか?』
『今は何にしても、西園寺が後顧の憂いとなり得る。恨みは無いが、軍門に降ってもらう。』
『それに、内外というのは西園寺だけではないのか?』
『もちろん、領地を豊かにして収める年貢を多くする必要がある。』
『そうよの。もっと贅沢がしたいものな。』
『もっと大事なことは、中央に貢ぐことだ。』
『そうか、官位じゃな!』
全くコイツは・・・
『まあ、官位は副次的なものだ。一番はこの家と中央の権力者との関係を良好に保つためだ。』
『位を極めれば良いのであろう?』
『いくら位が頂点を極めていたとしても、土佐にいては出来ることは限られる。応仁の乱の際、ここに下向した関白様はその後、何ができた?』
『さあのう、高祖父のことまでは知らぬ。』
『本当にお前は、何もできん、何も知らん、まさに知力7に相応しい男だな。』
『知力7言うでない!もっとあるぞよ。』
『いや、いいとこ7程度だと思うぞ。』
『まあよい。いずれ証明してやろうぞ。』
『ところで、松姫とは上手くやっているか?』
『まあ、それなりに良くやっていると思うぞ。』
『早く子を設けるのだ。後継がいないと何かとまずい。それに、先代も安芸家と伊東家に嫁いだ姉妹がいるだけで、男子は少将だけだっただろう。あまりに少将を支える一族が少ない。』
『分かっておるぞよ。そちらは得意じゃから任せておけ。』
『期待している。』
『しかし、そんなに急がずとも、麿はまだ今年で14じゃぞ?』
『後継がいれば、少将を存分に戦場に出せる。』
『まさか、お主またあれをやるつもりか?』
『当然だ。あれは使える。』
『悪霊じゃ。やはりお主は悪霊じゃ!』
そう、これはゲームの世界であれば、例えコイツでなくとも、家を継げる武将がいればゲームオーバーにはならないはずだ。
どうせなら、いや、コイツ以下の能力の武将なんてそうそういないのだから、そちらの方が上手くゲームプレイできると思う。
どうしよっかなあ・・・