信長、上洛する
師走に入った頃、都から大きな知らせが入ってきた。
予言通りというか、予定通りというか、織田殿が足利義昭を奉じて上洛したとの知らせが入った。
都への途上、六角承禎・義治親子が立ちはだかったが、僅か一週間余りで退け、あっさり都を支配下に収めたようだ。同時に、松永久秀と組んで、三好三人衆を蹴散らすとともに、伊勢南部にも侵攻を開始した。
まさに、破竹の勢いとはこのことだ。
『さて、始まったな。』
『これが始まりなのでおじゃるか?終わりでは無く。』
『ああ、これからが本番だ。毛利や大友が可愛らしく見えるほど、世の中が震えることになるぞ。』
『そう言えば、二条殿が関白になると言うておったの。』
『三好三人衆を認めた朝廷は、先の公方を見殺しにし、自分を幽閉した勢力と同義だからな。新しい公方が根に持っていないはずがない。近衛殿は引きずり下ろされるはずだ。』
『麿にとっては、それが一番大きいぞよ。』
『世の中はそれどころでは無いけどな。』
『三好はどうなるのじゃ?』
『織田殿に蹴散らされるぞ。本来なら、阿波に逃げれば良かったが、既に阿波は我が手中にあるし、奴らに靡いていた国人衆はもういない。』
『それでも、逃げてくるかも知れぬのう。』
『ならば討つ。』
『そうじゃのう。警戒はしておく必要があるのう。』
『もちろん、播磨方面もだ。こちらはさらに三好の影響は希薄だが、摂津の荒木や池田辺りがこちらに逃がして来ると厄介だ。』
『丹波方面に逃げるとか?』
『丹波衆は三好と対立していたのでは無かったか?それよりは、毛利を頼って陸路もしくは海路を使って逃亡する方が、まだ可能性としてはある。』
『しかし、あそこまで逃げたら、再起は不可能ぞよ。』
『ならば紀伊辺りかな。畠山の網をかいくぐれたらの話だが。』
『まあ、こちらは奴らが来ても大丈夫なように、備えるだけじゃな。』
『現状でできるのは、そのくらいだな。その前に、摂津攻略の手伝いをさせられるかも知れんが。』
『そうなったら、行くしかないのう。』
『そうだな。断るのは悪手だ。ただし、本願寺は織田にやらせろよ。播磨には一向門徒が多い。一揆など起こされては敵わん。』
『そうか。四国におるとあまり気にならぬが、あっちは一向宗が多いのよのう。』
『ところで、一条家の宗派は何だ?』
『何故お主がそれを知らんのじゃっ!』
『神だからな。』
『たわけたことを言うでない。神仏は同じであろう。』
『それは人が手前勝手に決めた屁理屈に過ぎん。それで何なのだ?』
『法相宗ぞよ。』
『やっぱり、知らんなあ。』
『よくそれで、氏神様が務まったものでおじゃる。』
『派閥など知らなくてもどうということは無いからな。神仏にとっても、ある日突然、信仰されたりされなくなったりで、ありがた迷惑なだけだ。』
『そこまで言わんでも・・・』
『まあとにかく、一向宗は厄介だから手を出してはいけないし、近いからって安請け合いなんかするなよ。』
『分かったぞよ。それと、これからはどうなるのじゃ?』
『織田殿と新しい公方様の仲は儚いものだ。すぐに仲違いして争い出す。』
『仲良くできんものかのう。』
『我が強い二人だ。一度対立するともうだめだ。公方様は各地の反織田勢力を糾合して対抗することになる。』
『それが何年も続くのか?』
『ああ、本来の歴史では、織田殿は最後までその影響に苦しめられるな。まあ、勝ちは見えていたがな。』
『そうか。しかし大変じゃな。』
『誰がやっても通る道かも知れん。ただ、他の者が成し得た歴史は無い。』
『なら、麿は無理じゃな。』
『公家の名門なら、案外やれるかも知れんぞ。』
『止めておくぞよ。麿の望みは毎日のんびり贅沢じゃ。いそいそと働くのは、性に合わんぞよ。』
全く、現代人みたいなことをいう・・・
『まあ、自分の身の丈はいつも考えておかないといけないからな。織田殿には、それだけの身の丈が備わっているということだ。』
『じゃが、弾正殿とは、戦わずに済むのであろう?』
『確実に無いとは言い切れん。だから、神懸かりを利用して、互いに戦うことはないと、相手に信じ込ませる必要がある。』
『まやかしじゃの。』
『後は誠実に、何があっても彼と敵対しないことだ。』
『毛利にはあれほど冷たいのに?』
『同じような態度を見せて、怒らせるなよ。』
『分かっておるぞよ。』
コイツの哀願モードなら、そこそこイケると思う。