領内の整備は更に進む
秋の気配も少しづつ感じるようになり、稲の穂を見ても順調な実入りであることが分かる今日この頃。
評定後の報告を、宗珊とともに三家老から受ける。
「作物の実りは順調。間もなくどの田も、水を抜き始めることでしょう。また、今年から新たに年貢を徴収する新田も、直轄地で八十町歩、全体では七百町歩に及びます。」
「それは中々の成果よの。」
「はい。他の作物も順調で、豊作と言っても良いのではないかと。」
「目出度いのう。監物がそこまで言うのも初めてではおじゃらぬか?」
「はい。また、銅の生産も順調でございます。どうせなら、領内で銭を鋳造しても良いのではないでしょうか。」
「しかし、明銭や宋銭に敵わぬなら、やってものう・・・」
「それと、白地、中村は全ての普請が完了し、長宗我部も室山に大規模な築城を始めた模様でございます。」
どうやら、水城はお目見えしないらしい。
「堤防の普請はどこまで進んでおるのじゃ?」
「はい。高智は久万川南岸をほぼ終え、松山も石手川北岸と、それに続く伊予川北岸はほぼ追えております。吉野川についてはまだ1割ほどの進捗ですが、助任川など、城の周辺は完成しております。」
「分かったぞよ。街道筋はどうかの。」
「四国内は十年前と比べると見違えております。備前と播磨の間はまだまだこれからでございますが。」
「そうよの。古代から往来が盛んな割には道が悪いからのう。普請を急ぐのじゃぞ。」
「御意。」
「それと御所様。足軽の追加募集が提案されております。備前と播磨を含めて、総勢一万を召し抱えるというものでございます。」
『おいおい、いくら何でも多過ぎはせぬか?』
『まあ、貫高五十万で一万の旗本と考えると、少ししんどいな。取りあえず、六千から八千の間で手を打っておけ。』
『分かったぞよ。』
「では、差し当たり、現在の四千から六千への増強を許可するぞよ。特に備前と播磨を集中して募るのじゃ。」
「はい。」
「それで、鉄砲と大筒、水軍の状況はどうじゃ。」
「鉄砲は三千五百、大筒は二百、水軍は淡路、塩飽、日生、来島、南予合わせて兵力三千、艘数五百を数えます。」
「引き続き、増強に努め、鉄砲は特に大友に売るのじゃ。」
「はい。先方も喜ぶことでしょう。」
「他には、周辺の状況を把握しておきたいのう。」
「はい。畿内については相変わらずでございますな。しかし最近、六角が三好三人衆に近付いているとか。」
「それは、新しい公方様があっち側だからかの?」
「そうかも知れませんな。朝廷でも二条派が巻き返しておりますし。」
「当面、摂津から攻められなければ、それで良いのじゃ。本家に少し多めに献金して、恩でも売っておこうかの。」
「それがよろしゅうございますな。」
「後は毛利じゃ。大人しくしておるとは思うが。」
「はい。山陰では民を安堵させることに注力しておりますし、主戦場は北九州でございます。我らに力を向ける余力はございませんな。」
「それならば良い。その間に、こちらも備前と播磨を安定させるのじゃ。」
「畏れながら御所様。そのことのついて策がございまする。」
「宗珊か。よいぞ、言うてみよ。」
「はい。先年の戦で所領を没収した阿波と讃岐の国人や村上の倅たちにそれぞれ城を与えて守らせるが良いと存じます。」
「そうよのう。人手は足りぬし、彼奴らにも恩は売れるし、そうしよう。よきに計らえ。」
「はい。畏まりました。」
こうして、重清、一宮、七条、奈良、羽床、安富、来島、能島らを各城代に充て、統治させることにした。
『まだ、守りとしては不十分ではおじゃるが、ちょっとはマシになってきておるのう。』
『そうだな。特に備前と播磨に阿波衆を置いたことで、いざという時に現地で抗戦できるようになった。』
『阿波の中でも剛勇をもって知られた連中じゃからのう。寝返りさえしなければ、相当に時間を稼いでくれよう。』
『後は、首尾良く弾正殿が上洛するかどうかだな。』
『何か、悪霊の言うとおりの事が起きそうであるの。』
『ああ、美濃を制圧した以上、障害となる勢力は無いからな。』
『浅井も妹君が輿入れしたしのう。』
『だが、都周辺はまだまだ荒れるからな。公方様が都に入って終わりじゃ無い。むしろこれからもっと混沌とする。』
『あな恐ろしや恐ろしや。』
『何か他人事だな。』
『麿の領地はとても安定しておるでのう。』
『思いっきり巻き込まれると思うぞ。精々国力を高めておけ。』
『分かったぞよ・・・』
ちなみにこの後、都に送った多額の賄賂の甲斐あって、兼定は従三位下 権中納言となる。