犯人検挙
誤字報告いただきました皆さん、本当にありがとうございました。
それから約一ヶ月、半次郎親分を中心とする捜査班はよく頑張ってくれた。
三太の家は床板をはがしたり、屋根裏まで徹底的に調べられ、近所の住民や多くの町民が取り調べを受けた。また、聞き込みの範囲も宿毛や遠く窪川、興津まで拡げて捜査を行った。
その結果、事件当夜から朝にかけてのアリバイが証明できなかった三名を容疑者として検挙した。まあ、犯行が夜中であり、家族の証言しか得られなかった者が大半であったが、状況的に犯行が不可能だと考えられる者が多かったのだ。
容疑者の一人目は、平田村の百姓、千吉である。彼は先年の洪水で家族を亡くしており、一人暮らしである。三太に多額の借金がある。
二人目は、中村に住む権三という若い大工である。三太の飲み仲間であるが、事件前日に大喧嘩となり「殺してやる」と叫んでいたのを多くの者に目撃されている。彼は親と早くに死別し、頭領の元に弟子入りしており、独身である。
三人目は足軽の甚右衛門である。彼も三太から多額の借金があり、妻子と離縁しているので一人暮らしである。
三人は、厳しい取り調べにも容疑を否認し続けており、埒があかないため、兼定直々に取り調べを行うことになった。
「では三人とも、面を上げるがよいぞ。」
しかし、三人とも悪そうな面構えである。そう見えるのは、思い込みか?
「三人とも、事件当日の夜、身の潔白を証明する者がおらぬが、何をしておったのじゃ。」
「はい。夜中でしたんで、寝ておりやした。」
みんな一様にそう答える。
『のうのう、こんな手緩いやり方では、埒があかんのではないか?』
『まあ待て。三太に対して恨みが無かったかを聞いてみろ。』
「では千吉。そなたは三太に多額の借金があったと判明しておるが、殺したいほど恨んでいたのでは無いかの?」
「滅相もございません。確かに、借金で苦しかったのは事実ですが、それだけで人を殺めるようなことはしません。」
「では権三。そなたは殺したいと思っておったのじゃろう?」
「とんでもねえ!確かに酔っ払ってそんなことは言ったみてえだが、普段は仲がいいし、次の日も夕方まで一緒に飲んでたくらいですぜ。」
大工の仕事はどうしたんだよ・・・
「甚右衛門よ。そちも随分三太を恨んでおったそうじゃな。」
「確かに、恨みはございましたが、仮にも栄えある一条の家臣。そのような真似、武士の一分に賭けていたしませぬ。」
コイツ、何でも賭けるなあ・・・
『のうのう、これでは誰が下手人か分からんのう。』
『千吉に、次の日の朝、近所の者に会わなかったか聞いて見ろ。』
「千吉よ。次の朝に誰か近所の者に会ったか見かけたか?」
「はい。朝早くから野良仕事をしますんで、隣の三郎と嫁のお初に会いました。」
そうだろう。百姓は日の出とともに仕事をする。今は夏だし農繁期だ。平田村まで歩いて帰っていたら犯行時間によっては間に合わないし、そうで無くても寝不足と疲労で、まともに働ける訳がない。
『三人の利き手を確認しろ。』
『分かったぞよ。』
三人の手のひらを両方とも確認した。特に怪我などはしていなかった。
『手相でも見たのか?』
『そんな訳無いだろう。良く考えて見ろ。包丁で腹ではなく、胸を刺したんだ。鍔の無い包丁で骨のある胸など刺したら、必ず勢い余って刃で怪我するはずだ。』
『しかし、怪我の跡など無かったぞよ。』
『つまりだ。相当刃物の扱いに慣れた者が下手人だ。』
『全員、それなりに慣れておるのではないかのう。』
『だが、千吉に戦場の経験は無いことは調べが付いている。それに百姓は鍬くらいしか金物を持ってないだろう。』
そう、刃物なんて、貧乏百姓には縁が無い時代だ。
それに刺すという行為は刃物でも意外にしない動作だ。
『なら、大工か足軽よのう。』
『後は、包丁の場所と暗闇でも寝ている場所を知っている者の犯行だ。』
『では、大工かのう。』
『近所の者に、権三と甚右衛門を引き合わせろ。下手人は必ず三太の家を頻繁に訪れていたはずだ。』
『分かったぞよ。』
まあ、こうなると、一度も三太の家を訪れたことの無い甚右衛門も外れる。第一、彼は包丁の有無も知らないし、刀を持っているならそれを使うだろう。
大工なら、短刀を力任せに刺せば怪我をすることくらい、身に染みて知っているだろう。
咄嗟の場合、そういった普段の習慣が物を言う。
結局、これらの証拠を突きつけられた権三があっさり自供し、事件は解決した。
この時代の人は、諦めが早いというか素直というか・・・
そして動機は、賭場の儲けというか、用心棒としての報酬に関する揉め事であった。
そして後日・・・
「半次郎よ。此度はご苦労であったの。」
「いいえ。初めてのことで戸惑いも多かったですが、よい経験になりました。」
「麿もよくやったと思っておるぞよ。褒めてつかわす。」
「ありがとうございます。さすがは神懸かりと名高い御所様でございます。」
「それではの。そちへの褒美として、名字を与えるぞよ。これからは岡引半次郎と名乗るが良い。」
「ははっ!ありがたき幸せにございます。」
「そして、そちと山路の組には、市中見回りの任を命ずる。そのために特別な証文も出すので、これからも民の安寧に助力するのじゃぞ。」
「はい、とても誇らしい気分でございます。」
こうして事件は解決。岡っ引き半次郎は、今日も中村の町を駆け抜ける。
しかしこれ、歴史シミュレーションゲーム、だよね・・・