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一条兼定なんて・・・(泣)  作者: レベル低下中
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現場百回

 半次郎たち捜査班は、引き続き聞き込みをさせ、容疑者の絞り込みをさせることにした。


 そして兼定は、犯行現場を再び訪れる。

『のうのう、宗珊も呆れておったぞよ。民の四方山事にそれほど首を突っ込むのかとのう。』

『まあ、たまにはいいだろう。それに、今の領内の治安維持のやり方には、我もいささかの不満がある。』

『そこの改善とやらをせねばならんのかの?』

『そうだ。いくら戦が無くなっても、民がこれだけ毛羽立っていては揉め事は減らぬし、治安を保つ側がこれほど無関心なのはいただけんからな。』

『だからといって、麿がわざわざ足を運ぶのは違うと思うがのう。』

『現場百回という。何事も現場が大事だ。そして、それを領主がやるから、下の者も納得してやるようになる。』

『何だか、上手く言いくるめられているだけのようにも思うぞよ・・・』

『さあ着いたぞ。三太の家だ。』


 この家は、この時代にしては良く出来た方なのかと思う。数軒続きの長屋で、隣との壁は薄いのだろうが、一応、屋根は板張りだし・・・


『さて、三太はあのムシロの上で亡くなっていたんだな。』

『仰向けにの。』

『しかし、殺風景で何も無いな。半次郎は証拠品を押収したのか?』

『包丁しか無かったぞよ。まあ、下々の家なら、そんなもんじゃなかろうかのう。』

『金回りが良かったそうだが、金は見つかったか?』

『盗人が盗って行ったんじゃないかのう。』

『そうかも知れんが、それにしても、何もなさ過ぎだな。とても金があったようには見えん。』

『酒と博打に消えておったのではないかのう。』

『その金はどこから出ていたんだ?』

『そんなこと、麿に分かるわけが無いぞよ・・・』

 三太の家には物がほとんどない。一応、土間には調理できそうな釜やまな板はある。

 ということは、と思ってみたが、包丁は無かった。とすればやはり、包丁は三太の物かも知れない。


『おい中将、あそこに着物が置かれているから調べて見ろ。』

『あんなババッちい布など触りたくないぞよ。』

『娘の物なら喜んで触るクセに・・・』

『悪霊はいつも品性に欠けるのう。麿がそのようなこと、するわけなかろうに・・・』

 とか言いつつ、調べてはくれるが、やはりただの着物だ。


『じゃあ、あの木箱には何が入っているんだろう。』

『どうせ、小間物か竹細工の道具でも入っているのではないかの。』

『開けて見ろ。』

 開けると何やら紙の束が・・・


『竹細工職人にしては、随分不釣り合いな物を持ってるな。何と書いてある。』

『読んでみるか?』

 達筆すぎて私では読めない・・・

『読んでみろ。』


『なになに、不破東通り長屋、荷駄働きの六兵衛、金三十貫文を右山天神の三太より借用する。これを割符業、田村屋惣右衛門が証する。とあるのう。借金の借用書じゃな。』

『三十文と言えば、そこそこの額じゃないのか。コイツ、結構金を持っているんじゃないか?』

『まあ、借用書の枚数からして、そこそこ貸し付けておるのう。』

『その田村屋に聞いてみればいいか。それで割符業って何だ。』

『土倉みたいなもんかの。替銭をしたり撰銭をしたり・・・それにしても、悪霊でも知らん事があるのじゃな。』

『神に金など関係ないからな。しかし、何で半次郎はこれを押収しなかったんだ?』

『字が読めんからではないかのう?』

 それもそうか・・・


 まあ、それはそれとして、田村屋に事情聴取をする。

「これはこれは、私、この店の主、田村屋惣右衛門でございます。まさか、ご領主様御自ら、このような所にお越し下さるとは、誠に光栄の極みでございます。」

「うむ。今日は商いで来た訳ではおじゃらぬ。そちに聞きたいことがあっての。」

「どのようなことでございましょう。」

「そちの店に出入りしていた右山の三太についてじゃ。知っておろう?」

「はい。何でも不幸があったとか。痛ましいことでございます。」

「それで、そなたが証人となった借用書が束になって出てきたが、あれはどういう経緯の物じゃの?」

「はい。あまり大きな声で言えるものではございませんが、三太は賭場の胴元をしておりまして、そうそう、賭場はすぐそこでございますが、かなり荒稼ぎしておったようで・・・」

「それで羽振りが良かったのでおじゃるな。しかし、家は普通じゃったし、一見すると金を持っていたようには見えなんだぞよ。」

「はい。稼ぎについては、私共で預かり、必要な額を持ち出しておりました。なかなかに用心深い御仁でありましたもので。」

「そうなのか。それで、そちは賭場に一枚噛んでおったのでおじゃるか?」

「とんでもございません。私共は真っ当な商人。いかさま博打などには手は出しません。」

 いかさまなのか・・・


『おい、博打は御法度ではないのか?』

『別にそんなことは無いぞよ。』


「まあ、事情は分かったぞよ。それで、三太を恨んでおる者は多かったかの?」

「恐らくは・・・取り立てもかなり厳しいと裏では評判でしたので。」

 容疑者多数といったところか・・・


「分かったぞよ。また何かあれば、聞きに来るかも知れぬぞよ。」


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