怪しい家臣、増える
12月に入り、既に軍の撤収は大詰めに差し掛かっている。
そんな中、今回の戦における論功行賞と、降将の処遇が決まった。
備前国内では長船氏、播磨では別所、明石、宇野、淡河を本領安堵し、旧浦上、赤松、花房、小寺、黒田ほか、多くの領地を没収とした。
どうやら浦上宗景は畿内に逃亡したようで、行方は知れないが、赤松義祐、政秀の両名は長宗我部家預かりとした。
その他の所領没収された者は一条家預かりとしたが、この中に黒田官兵衛がいた。
いやまあ、いるだろうなとは思っていたが、宇喜多直家に続き、また怪しげな家臣が増えてしまった。さすがに、松永までは要らない・・・
その上で、播磨を一条家直轄として配下を各城に配置したほか、磐梨郡を長宗我部家、和気郡と邑久郡を三家老に与え、これまで三家老の領地だった土佐高岡郡を一条家直轄とした。
宇喜多氏については、当家直臣となり吉井川を境にすることが決まった。同時に、今回の援軍派遣及び和議の謝礼として和気郡の吉井川以東と邑久郡の一部(岡山市東区の一部)を一条家に譲渡された。
また、日生衆については他の海賊と同様、一条家直属の家臣とし、海賊行為を停止させた。
こうして、一応の仕置きを済ませ、12月20日、兼定は松山を発つ。どうやら年明けを中村で過ごすことは難しそうだ。
『しかし、此度も大勝利であったの。』
『宇喜多が傘下に入ったことで、備前だけでなく、備中も結構手に入ったしな。』
『しかし、宇喜多の領地は平地ばかりで広さ以上に貫高は高いらしいの。』
『備前については、美味しいところはほぼ持って行かれたな。だが、長船を配下に引き入れたし、福岡を手に入れたからな。実は我々もやるべきことはやっている。』
『福岡?何か良いことでもあるのでおじゃるか?』
『あそこでは鉄砲を作っているぞ。』
『そうなのでおじゃるか。じゃから、長船だけ切り崩したのかや。』
『まあ、吉井川を境界にした方が、後の揉め事は少ないだろうし、あの時点ではまだ、宇喜多は盟友ではあるが、所詮は他人だった訳だからな。』
『なるほど。凄い深慮でおじゃるな。』
『一応、中将がやったことになってるんだぞ?』
『そうか、皆の尊敬の眼差しはこういう所から来ておるのか。知らなかったぞよ。』
『まあ、彼はかなりの野心家だし、執念深い面を持っているから気を付けろよ。しかも暗殺はお手の物だ。』
『三村の前の当主も闇に葬られておったの。』
『ああ、特に一条は中将以外は皆子供だからな。』
『さすがに藤原の長の一族を毒殺などせんでおじゃろう?』
『だから敵は多いと言っただろう?公方様だってああいう目に遭うんだぞ。』
『そうじゃった。食べ物には気を付けんとのう。』
『中将が言うと、途端にほのぼのするな。』
『麿を馬鹿にするのは、この世でそなただけじゃぞ。』
当家が使っているの車は牛ではなく馬が引いている。しかし、のんびりしていることに違いはない。多分、日本の車は西洋に比べて遅い。
『それにしても、黒田官兵衛を得たのは収穫だったな。』
『そんなに優れた者なのか?』
『まだ若いが知恵者だ。まあ、かなりの野心家だから、怪しい動きをしないか、常に監視が必要な人物ではあるが。』
『どうして麿の配下にはそういう者が集まってくるのじゃろう・・・』
『まあ、かなり使える人物だし、宇喜多の殿様よりはカラっとしていて、暗殺などという手段は取らないと思うがな。』
『それでも怪しいのじゃろう?』
『ああ、右手で握手しながら左手で殴りかかってくるような人物だ。』
『仲良くはなれそうにないぞよ。』
『まあ、存分に使ってやれ。戦の作戦や調略をさせれば弥三郎にもひけを取らんぞ。』
『大したものよのう。麿にはとても真似できぬ。』
『ちょっとは頑張れよ。』
『これ以上尊敬されてものう。』
『実体とかけ離れてしまっているからな。』
『悪霊よ、そういうとこじゃぞ?』
『しかし、これで本当に戦は終わりだな。』
『もう攻めぬのか?』
『巻き込まれたり、援軍に出ることは増えるだろう。だが、摂津や和泉なんて取っても面倒事が増えるだけだぞ。弾正殿にやらせておけばいい。』
『あれほどやる気に満ちあふれておれば、やるのう。』
『そういうことだ。欲をかいても碌な事が無い。』
『そうよの。のんびり贅沢できるなら、それが一番ぞよ。』
『分かってるじゃないか。』
『平和に暮らすための戦ぞ。』
コイツ、知力7のままだよね・・・