奸将、相まみえる
8月15日、今回の遠征軍を率いる長宗我部元親は、沼城で宇喜多直家と会談する。
どちらも暗殺大好きな怪しさ満点の御仁である。
「此度は我らのために助太刀下さり、まことにかたじけのうございます。宇喜多家当主、和泉守三郎右衛門尉でございます。」
「それがし、此度の総大将を賜った従五位下、宮内少輔長宗我部弥三郎にござる。以後、お見知りおきを。」
「これはご丁寧に。一条軍が来てくれたからには、備前はもう大丈夫と、安堵しておるところに存じます。」
「何をこれしき。それはそうと、先の戦での勝利、おめでとうございます。」
「これはかたじけない。思わぬ大勝に、我が軍兵の士気も上がっておりまする。」
「敵も逃散した模様。取りあえずのところは、三村もとって返しては来ますまい。」
「そう願っておりますが、三村の執念と後ろに控える毛利の兵を考えると、まだ油断できませぬ。」
「それはそのとおり。しかし、既に我が主より毛利へ手出し無用の旨、伝えておりますれば、そう簡単には出て来ないものと考えております。」
「確かに、御家と毛利家は、盟約こそ結んでいないものの、長年に亘り誼を重ねた間柄なれば、これを無視して攻めるという危惧は無いのかも知れませんな。」
「毛利も三村がやっていることならば黙認もしようが、自ら首を突っ込む気はないと考えておる。彼らにとっては、出雲を落ち着かせることこそ関心事のはず。」
「なれば、我が威勢を備中に見せつければ、危機は去りますな。それどころか、備中を切り取ることもできるかと。」
「いや、一条は備中には出ぬ。」
「備中には、でありますか?」
「備中より先に備前ではないか?」
「何と・・・浦上殿でございますか。」
「三村が出て来ないとなれば、我らが向かうは天神山よ。三村に対しては、毛利殿に示したとおり、これから和議に向けた動きを取る。」
「そう、でございまするか・・・」
元親は一条家臣であり、直家は限りなく浦上に従属してはいるが、独立領主である。
しかし、立場は一万五千の兵を駐屯させる元親が上である。
「ただしだ。和議が成るまではこの限りでは無い。そなたが備中や美作に攻め入ることを押さえるつもりはない。我が主も三村方の国人の領地は切り取り自由と申されておる。ただし、毛利に直接臣従している者の領地は攻めるなよ。」
「それなら、異論はござらん。」
どうやら直家は一条軍が備前を平定することを認めたらしい。いや、認めざるを得ない状況ではあるが・・・
「それで、一条軍はすぐに天神山に向かうので?」
「いや、土佐から本隊一万が到着する。これと合流し、北上を開始する。」
「二万五千でございますか・・・」
「別にそれだけではない。阿波兵一万五千がいつでも播磨に上陸できるよう、手筈を取っているし、伊予兵一万が毛利に対する押さえとして松山におる。」
「五万五千・・・」
「これが四国の主の力だ。儂は讃岐四郡を任されているに過ぎぬ。」
「事もなげに言うのですな。」
「元はそなたと同じ国人であったが、今は一条家臣として碌を食んでおる立場だ。だが、鬱陶しい他家との交渉ごとは無くなるし、御所様は領地に口出しせぬし、何かあれば五万の兵がすぐに駆けつける。これほど良いことは無いぞ。」
「そ、そうでござるか。」
「今は宇喜多殿も口約束とは言え、盟友だ。このまま盟友でいるか、家臣となるかは存じぬが、隣が毛利になるのなら、一考するのも良い事であろうな。」
「臣下の礼を取れと。」
「そうは申さぬ。儂も一時は一条家の盟友であったし、御所様は懐の深い御仁だ。答えを急ぐことも強いることもあるまい。」
「分かり申した。それは追々考えることとしよう。」
こうして、謀将二人の顔合わせは終わる。
この後、8月26日に土佐からの先遣隊二千が到着し、9月1日までに全軍が出そろった。 兼定は松山城に入り、全軍の指揮と毛利との交渉に備える。