国造りは順調
夏を迎え、天候も例年通りである。この分なら秋の収穫も順調だろう。すでに堺から各地の作況に関する情報も上がってきており、東国では例年よりやや冷涼とのこと。
宍喰屋には、当地産の米の東国での販売と、西国各地の米の買い付けを依頼した。物を右から左に動かすだけの簡単なお仕事である。
茶摘みも始まっている。一条茶として知名度も上がってきており、売価も高騰を続けている。そうなると当然、作付面積も増えるが、最近は野放図に山を開墾する者が増えたので、これを取り締まるいたちごっこが展開されている。
炭についても、紀州から職人を呼び、海岸沿いに多く生育しているイチイガシなどを使った炭の生産が始まった。後に備長炭と呼ばれることになるアレだ。
海では珊瑚漁を本格化させるため、漁民の普及啓蒙を始めた。
普請については、新たに浮浪者を集め、これを労働力として投入する仕組みを作った。所謂人足寄場である。これを各地域の顔利きに運用させるのである。現代の○○組である。
これにより、通年での工事が可能となった。その成果という訳では無いが、河内の鏡川北岸堤防が完成し、これにより、一部干拓が可能になった。
また、為松山の城も堅堀の掘削と一部城地の嵩上げ、整地が完了し、これから本丸施設建設と石垣建設が始まる。そして名称を中村城とした。
豊永と白地城を繋ぐ間道についても、支障となる樹木の伐採搬出が終わり、これから土工が始まる。これ以外の部分はほぼ完成し、四国最大級の要塞は、天守の完成と共にお目見えする。
また、軍備については、鉄砲がついに三千丁、大筒が百五十門を保有するに到った。
今はむしろ、砲銃弾の生産を加速させている。
「しかし、毎日忙しいですな。」
「これほど働いている領主も他にはおるまいのう。」
「まこと、御所様は働き者にございます。」
「これもそれぞれに尽力する家臣あってのものよ。」
「有り難きお言葉でございます。皆にも、そう労っておきましょう。」
「うむ。頼んだぞよ。いつもそなたには助けられておるのう。」
「この宗珊、常に御所様と共にありますゆえ。」
「ところで、他領の動きは何か入って来ているかのう。」
「いえ、今の所は評定での報告から進展したものはございません。」
「毛利も動きは無いでおじゃるか。」
「まだ尼子領を落ち着かせるために時間は必要でしょう。しかし、備中や美作では、すでに毛利に靡く国人も多くおりますれば、勢力そのものは拡大していると見て間違いございません。」
「そうよの。毛利ほどの大国ともなれば、必ずしも戦に頼る必要は無いからのう。」
「これに対し、浦上も美作に対する工作を行っているようです。」
「まあ、浦上とすれば、毛利と戦などしとうはないじゃろうからのう。穏便に行くしかない。それと、三好はどうじゃ。」
「はい。三好三人衆は大和の筒井と組み、三好左京(義継)擁する松永と対立しております。」
「左京と松永は不和では無かったのでおじゃるか?」
「敵の敵は味方でございます。逆を言えば、それしかございません。」
「上様の後釜も揉めておるのう。」
「はい。朝廷は事態を収拾したかったため、渋々阿波公方様を叙任されましたが、矢島御所様(足利義昭)は異議を唱えておりますからな。」
「確か、還俗したのよのう。」
「はい。今は近江におるそうですな。」
「昨年は弾正殿も斎藤に負けて上洛できなんだしのう。」
「畿内はまだ荒れ模様。出るなら今ですな。」
「そう急かすでないぞよ。矢島御所様からもそうするよう、書かれておったがの。」
「しかし、何故一条を頼らなかったのでしょう。」
「今、当家ほど安定しておる家はないがの。都の公家衆にこれ以上の借りを作りたくなかったか、阿波殿の将軍就任によほどお怒りになったかのいずれかであろう。まあ、厄介事が来なかった分、こっちは助かったがの。」
「そうでございますな。今は目立ちたくは無い時期ですので。」
「そうよ。麿の目指すは都にあらず、でおじゃる。」
「名を捨て、実を取るのでございますな。」
「名しか追わぬ矢島御所様とは、ウマが合いそうにないのう。」
「まことに・・・御所様、また悪いお顔になってございまするぞ。」
「そ、そうか?気を付けるでおじゃるよ。」
こうして心から大外まで、順調に事を運んでいる。
そして、内密にではあるが、8月15日までに各軍、所定の地に集結の旨を下知した。
ちなみに、先年から本家を通じて依頼していた白地周辺及び祖谷郷(現:三好市池田町白地、山城町、西祖谷山、東祖谷山)は土佐に編入された。
また、験を担ぐ意味もあって、河内を高智に、勝山(飢山)を松山に改称した。