内政を指示する
さて、中村に戻った私は、早速兼定を通じて指示を出す。
「宗珊よ、婚儀の準備は。」
「はい、松姫様は1月20日頃にご到着の予定であると知らせがありました。」
「分かったぞよ。準備は任せる。」
「お任せあれ。」
「それと、冬の間にこの町の周囲に堤防を築くのじゃ。」
「治水を行うと?」
「今のものは祖父の代に築いたものじゃが少々心許ない。水量の少ない時期を選んで補強をするのじゃ。人夫は近隣の百姓を雇うと良い。」
「御意。」
「それと港の整備についてはできそうかの?」
「はっ、下田、宿毛双方とも準備を行っているところでございます。」
「それと、朝倉、吉良、蓮池の城は重点的に整備し、東の拠点とせよ。残りの城は後回しで良い。」
「それは、いかなるお考えで。」
「全てはできぬ。いざという時に拠点となる場所を重点的に整備する。当家の領地ならその3つじゃ。後の城に労力を分散させている余裕は無いぞよ。」
「御意にございます。」
「次に、腕の良い鍛治師を数名、種子島に派遣せよ。」
「鉄砲という南蛮渡来の武器でしょうか?」
「そうじゃ、すでに伝わって約十年、堺などでも手に入るがどうも値段が高い。当地でも作りたいのじゃ。」
「畏まりました。そちらも腕の良い者を選んでおきます。」
「そして最後じゃ。木をもっと伐採し、堺などで売り払え。そして伐採した跡地に木を植えるのじゃ。植えるのは差し当たり杉、桧、赤松の3つじゃ。」
「木を植える・・・のですか。」
「そうじゃ。山しかないなら山を使う。そして儲けた金で様々な事を成す。貧乏な小領主は何でもやらぬと生き残れぬ。」
「さすがは御所様でございます。まさに神懸かり。この宗珊、感服しきりにございます。」
「一人では何かと大変でおじゃろう。為松や安並らを奉行として使い、これらを急ぎ進めよ。」
「では、すぐに取りかかります。」
「では、麿は少し馬の鍛錬を積もうかの。」
「それは良き事にございます。御所様には今後とも大いにご活躍いただき、一条の家を繁栄に導いていただければ幸いに存じます。」
「うむ。元よりよそのつもりよ。心配いたすな。」
「はっ」
宗珊は、ことさら機嫌良さそうに去って行った。
『のうのう悪霊よ。言っている意味がサッパリじゃったが、あれで良いのかのう。』
『知力7には難しかったか?しかし、馬の鍛錬は分かっただろう。』
『うむ。馬を鍛えるのじゃな。』
『違う。少将が馬に乗れるように練習するのだ。』
『へっ?麿がか・・・』
『また誰かの背中にくくり付けられたいのか?』
『待て、待つのじゃ。またアレをやれと申すのか?』
『当たり前だろう。前回、あれほど上手くいったのだ。これからもあの作戦は使える。』
『無茶を言うでない!高貴な麿があんな危険で無様なこと・・・』
『嫌なら馬に乗れるようになることだ。』
「いやじゃいやじゃ!麿は絶対にせぬぞ!」
『足の指。』
「分かった。分かったからそれだけはやめてたもれ。」
『では、手を抜かずやるのだな。』
『ちょっとだけ、やるぞよ・・・』
『我の言うとおりやっていれば、周りの目が尊敬の念に満ちていることが分かるだろう。』
『そもそも麿は貴人じゃ。尊敬されるのは当たり前だろう。』
『それは少将という身分から来るものだ。それと今の宗珊の目、同じだと思うか?』
『同じではないのか?』
『違いが分からないうちは、知力7のままだな。』
「な、なんじゃとっ!」
『貴人が全員、神懸かっている訳では無いだろう。』
『それはそうじゃ。』
『先ほど宗珊は神懸かっていると言っていた。それは貴人に対してでは無く、少将に対してのものだったろう。』
『あの言いぶりはそうであったのう。』
『どうだ。本心から認められ、崇められる気分は。』
『よ、良いものじゃのう。』
『これを続ければ一条は発展し、止めれば乱れる。それは分かるな。』
『分かったぞよ。しかし、せっかく口うるさい養父殿が亡くなって、これから好きにできると思っておったのに、思うに任せぬものよのう。』
確かに、そこは気の毒だと思う。
『だが、父も祖父も同じであったはずだ。高貴な者の宿命と思うほかない。』
『まあ、お手柔らかに頼むぞよ・・・』
『じゃあまずは、馬に乗る練習だ。』
『そこからなのか?嫌なのじゃが・・・』
『つべこべ言うな。馬にも乗れんと話にならん。』
『ちょっと乗るだけじゃぞ・・・』
少し、乗れるようになった。