二期工事終わる
永禄十年(1567)1月
勝山城の二期工事が完成し、兼定は視察に赴いた。
あくまで全体の半分程度が出来た程度であるが、本丸は総石垣で三層の天守と渡櫓で繋がれた小天守で構成されている。現在の松山城と同じような造りだ。
大きく違うのは、それが全て漆喰で塗られていることだろう。また、現在の本丸に当たる山頂部を、敢えて本丸と二の丸に分けた。そして現在の二の丸を三の丸と呼び、三の丸は南丸と呼ぶことにした。
そして、当初は予定していなかった北側にも堀を設置した。
しかし、本丸以外で完成しているのは、麓にある一条家用の御殿だけである。
堀の掘削は概ね完成したが、まだ石積みを行う必要はあるし、大手門も建築中だ。
城の要所を固める石垣もまだまだだし、二の丸や政務所、蔵なども建てないといけない。
しかし、これだけの壮麗な城は、松永久秀の多聞山城くらいしか、まだ存在していないだろうし、城の堅固さで言えば、それを遙かに上回る。
「しかし、大普請よのう。作り始めてどのくらいじゃ?」
「七年目に入ります。」
「それでも、まだまだなのでおじゃるのう。」
「はい。それでも、堀と土塁、城地の嵩上げといった土工は終わりました。これからは石垣が大変でございます。」
「本丸のようにするのじゃの。」
「はい。麓の緩斜面を削り、石垣を立てますので、かなりの普請になります。そして塀も全て漆喰で塗ります。」
「公家の屋敷のようじゃの。」
「それはそれは壮麗な城になるでしょう。」
「そうよのう。今の御所がいくつ入ることやら。」
「そして、ここが御殿になります。」
南の山裾が一段高くなっており、そこに、中村の御所を一回り大きくしたような建物とささやかな庭園がひろがる。
「ここだけは公家の屋敷じゃの。」
「はい。武家の屋敷とは幾分、趣が異なります。」
「うむ。これで良いのじゃ。ここだけで、今の御所より守りも堅いしのう。」
「確かに、中村の御所は不用心と言えば不用心ですな。」
「あれは都の屋敷を参考に作ったものじゃしのう。それに、一条に刃を向ける者がいるなど、想像もしておらんかったであろうからのう。」
「これからは、堀と石垣に囲まれた生活になりますな。」
「そうよのう。それで、麿はいつから住めるのであろうか。」
「少なくとも、ご家老衆の屋敷ができてからですので、来年の春辺りかと。」
「その頃には街割りもできておるのう。」
「はい。すでに近隣から町人の移住を進めておりますので。」
兼定は二の丸に登る。
「ここはまだまだじゃの。」
「はい。しかし、あちらの本丸は完成しております。」
「確かにこれは異形よの。石垣があちこちで出っ張っておるぞよ。」
「これは多方向から敵を狙い撃つ策だと、御所様が・・・」
「そ、そうであったの。それで、塔楼には登れるのでおじゃるか?」
「もちろんでございます。」
天守の最上階から松山を眺める。
「遙か向こうは宇都宮領でおじゃるな。」
「そうでございます。そして、あちらが石鎚山でございます。」
「さすが、四国一の山よのう。」
「はい。特にここからは、何も遮る物もなく、まさに絶景と言えます。」
「町は南に向けて作るのじゃな。」
「はい。石手川までは南に拡げます。あとは道後の温泉町まで町屋を連ねれば、相当大きな町になります。」
「大分、田畑は減ってしまうの。」
「まだ、北や東の久米方向にはかなりの田畑が残ります。確かに南に見える平野の半分は宇都宮殿と大野殿の領地ですが、それでも過半は御所様の領地でございます。」
「ちょっとばかり、大盤振る舞いが過ぎたかものう。」
「しかし、皆大層喜んでおりました。」
「その分、街道整備と築堤を頑張って欲しいのう。」
こうして、勝山城の視察を終える。
「なかなか大きな城を作ってしもうた。」
「中村にも、あれほどでは無いが、作っているではないか。」
「もっと安太衆がたくさんおれば、中村の城もできるのに・・・」
「そうだな。そういった人夫も育てていく必要があるな。それと、道後の温泉町をもっとこう、高級感溢れるものにしたいな。」
「湯治ができるようにかの?」
「それも、やんごとなき身分の者でも気兼ねなく逗留できるような、立派な宿が欲しいな。」
「それは麿も欲しいぞよ。」
ここに移り住むのが楽しみになったんじゃないだろうか。