今年も戦はしない
今年も秋の実りは多かった。
子供たちもすくすく育っており、やんごとない家の子としてはともかく、母がどちらでも分け隔てなく接してくれているお陰で、仲は良好だ。
そして、これから年貢もガッポガッポ入ってくる。
徳島、松山、高知の蔵入地は圧倒的な生産力を誇るし、各直臣から上納される分も四国全土からとなれば、膨大な額になるのである。
この収入の使い道であるが、戦が無ければいろいろなことに使える。特に農閑期は、百姓どもをこき使って公共事業に勤しむことができるし、新たな家臣を雇うこともできる。
町は今年も穏やかだ。家臣は戦がしたくてうずうずしているが、民は違う。戦が無いことを肌で感じているので、秋の祭りは去年より豪勢だ。
全てが順調な中、さらに施策を進めていく。
「しかし、御所様は本当に働き者ですなあ。」
「宗珊よ、それはやんごとなき麿にとっては、決して褒め言葉ではないぞよ。」
「しかし、家臣は皆、感服しきりでございます。先の鬼退治でも、先陣を切って立ち向かわれました。」
「しかし、鬼ではなく、鬼八郎であったぞ?」
「民には、鬼を退治したから安心するように伝えましてございまする。」
「な・・・そんなこと言ったのでおじゃるか?」
「はい。民を安堵させるには、これが一番でございましたので。すぐに噂は四国を出て行くことでしょう。」
「何もそこまで・・・せんでも良いでおじゃる・・・」
何か、テンションが下がって来てる。
「ところで、これからの策については、いかがなものでございましょう。」
「うむ。松山に学問所が出来たの。儒者の招聘はできておるのか。」
「はい、吸江庵などから複数、招くように取り計らってございます。」
「うむ。できれば年明けから開講できれば良いのう。」
「それと、塩田の開発は進んでおるかの。」
「はい。東予と讃岐でどしどし進めておりますぞ。」
「際限なくやって良いぞ。堺の塩の相場を支配するくらい生産すれば、後はこちらの思い通りじゃ。それと、堺に誰か切れる者を常駐させよ。」
「堺、ですか。またぞろ、商いでも始めますかな?」
「そうじゃ。また本家に叱られるかも知れぬが、各地の米の相場を調べさせるのじゃ。そして交易を行い、さらに儲けるのじゃ。」
「そんなに上手く行くものなのでしょうか。」
「相場の安いところで買って、高い所で売る。そして麿は大量の米を元手として持っておる。やらない手はないでおじゃろう?まあ、徳兵衛にも、ちょっとは儲けてもらってもよいがの。」
兼定は、悪代官みたいな顔になる。迫真の演技、ではなく真顔だ・・・
「分かりました。算術の心得のある者を送り込むことといたしましょう。」
「後は武器弾薬の備えよのう。」
「はい。鉄砲は二千五百、大筒も間もなく百になります。各地の砲台や城にも設置を進めておりますし、鉄砲隊も中村だけでなく、伊予と朝倉にも組を編制しました。」
「そうよのう。三千を超えたら、外に売り出しても良いのう。」
「ついに、鉄砲を売りますか。」
「大友や織田に売れば、いくらでも買ってくれるじゃろう。」
「はい。既に堺や国友では大々的に作られておりますが、欲しい大名に行き渡っているとは思えません。」
「そうよ。ほとんど畿内の連中か織田が買い占めてしまっておるじゃろう?薩摩のものは余所で出回ることはないしのう。そこで、麿が相手を選びながら売るのじゃ。」
「それが大友と織田なのですな。」
「今の所はの。」
「確かに、東国まで手を広げれば、まだまだ売り先はございますな。」
「伊達や北条などは、金をたんまり持っておるそうではないか。」
「御所様、さすがに悪いお顔になってございまするぞ。」
「宗珊よ、そちもなかなかの顔をしておるぞよ。」
「またまた、御所様に比べれば、それがしなど・・・」
黄門様でも、上様でもいい。早く来てくれ。
「それはそうと、また新たな売り物も考えねばならんのう。」
「すでに銅、塩、紙、絣、茶、酒、鰹節、蜜柑、柚があり、莫大な富を産んでおります。さらに醤油も間もなくです。まだあるのでございましょうか。」
「一つは炭、もう一つは生糸じゃな。あと、漆喰を何とか売り出したいのう。」
「なるほど、山にはまだたくさんの宝が眠っておるのですな。」
「炭は紀州あたりから職人を呼べば良いであろう。生糸は山間の百姓や杣たちに奨励すればよいじゃろう。」
「畏まりました。そちらも進めておきます。」
「数年後は、もっと実りの多い秋にしたいもんじゃのう。」
「御所様なら、できまする。」