兼定、こんな所でプライドの高さを発揮する
さて、城まで帰って来て、人心地着いたはいいが、見渡してみると、まるで負け戦である。
『思わぬ所で初黒星を喫したな。』
『負けてなどおらぬ。人知を超えた鬼に勇敢に立ち向かい、これを退けたのじゃ。限りなく勝ちに近い引き分けじゃ。』
『別に強がらなくてもいいだろう。皆無事だったんだから。』
『これは武人としての矜持でおじゃるぞ。』
どんだけプライド高いんだよ・・・
『その割には、潰れたカエルみたいな鳴き声を出していたじゃないか。』
『はて?何のことやら?』
『まあ、その胴丸はもう、使い物にはならんが、それだけで済んで幸いだ。』
『常日頃、鍛錬を怠らない麿で無ければ、大変な事になる所でおじゃった。』
『そうだな。歴史上初の、総大将だけが死んだ戦になるとこだったな。』
『お主はさっきから無礼極まりないぞっ!』
『ところで、これからどうするつもりだ?』
『百で足りなければ千じゃ。』
プライド、どこに行った?
ということで、一条家直属に兵に加え、近隣の安並や加久見氏から兵を出してもらい、何と鉄砲隊を含む千百の兵を動員することになった。
「ほっほっほ、麿に逆ろうたこと、冥土で悔やむと良いぞよ。」
『まあ、それで良いが、兵を集める前に、同時にやるべきことがあるぞ。』
『何か他にあったかのう・・・』
『近隣の村に、身の丈六尺を超えるような者がおれば、至急宿毛の城に出向くよう、触れを出すのだ。』
『何故に、そのようなことをするのじゃ?』
『もしあれが鬼ではなく、人であった場合、家臣に取り立ててもいいじゃないか。』
『たわけたことを申すな。鬼など家臣にしたら、本家に何を言われるか知れたものではおじゃらぬぞ。』
『だから鬼では無いと言っているだろう。』
『何を証拠にそのような事を言うのじゃ?』
『夕べ見た鬼はせいぜい身長六尺ほどだったぞ。』
『そんなことはない。確かに一丈は優にあった。これは麿が見たのじゃから、間違いはないぞよ。』
『だが、一丈と言えば、単純に助左衛門の倍の背丈だぞ?いくら何でもそれはあり得んし、お主の刀を振っていただろう。一丈なら槍を捨てて刀で戦う理由がない。』
『う~む。納得はいかんが、あらゆる可能性は考えんといかぬかのう。』
『身の丈六尺と言えば、近隣の村にも知られるほどの者だろうし、そう何人もおらん。集めてみて、消息が掴めない者が怪しいし、まだ武士に取り立てていないなら、取り立ててしまえ。』
『そうじゃの。一石二鳥じゃのう。うん、やるぞよ。』
コイツが知力7で本当に良かったと思える瞬間である。
さて、兵も続々集結してくる中で、「六尺さん」も集まった。何と、宿毛周辺という比較的狭い区域の中に三人もいた。この時代なのに意外である。
しかし、実際は四名だが、一人は夏前から家を飛び出し、所在不明とのこと。
「その者の名は何という?」
「はい。松田村の重松弥三大夫の倅で重松弥八郎と言う者です。」
「何じゃ、この城下ではないか。」
「はい。我々が戦った橋上村もすぐ近くでございます。」
「それで助左衛門よ。鬼の角は見えたかの?」
「いえ、何分暗かったもので。それに鬼など初めてでございまして・・・」
「そ、そうよのう。では、体の大きさはどうじゃった。」
「それがしよりかなり体躯に恵まれておりましたな。」
「一丈はあったか?」
「いえ、それがしの目が、彼奴の胸辺りでございました。おそらくは、一丈までは無かったように思われます。」
「そうか・・・」
『どうした。何かやる気を無くしたか?』
『せっかく鬼退治で名が上がると思ったのじゃが・・・』
『そう言うな。あの人数を蹴散らす武勇を持つ男だ。家臣に加わるなら頼りになるだろう。』
『しかし、重松の倅なら、何で我が軍におらんのじゃろう。』
『入りたくなくて、逃げ出したのかもな。』
「まあ良い。鬼であれ人であれ、捕まえてみれば分かる。」
「畏まりました。では、兵が集まり次第、出陣ということで。」
「あい分かったぞよ。前回と同じく、橋上に本陣を構えるぞよ。」
三日後、一条軍本隊八百は山狩り要員として橋上に。約百名を松田川上流の坂本に派遣し、約百名を宿毛城にほど近い和田に配置。これに加えて弓を持たせた騎馬兵20騎を延光寺の南に面した平田に、同じく20騎を宿毛城に待機させた。いくら鬼でも馬なら追えるだろう。人ならなおさらだ。
こうして、二回戦が始まる。