-序章- 死後の世界12区
今までずっと書きたかった作品になります。
序章序盤ですが、序章の最後まではお付き合いしていただけたらと思います。
よろしくお願いします。
あなたが戻って来てくれるなら。
赤く染った土は、雪で白く覆い尽くしましょう。
私の手も、目も、声も。
届かなくなってしまっても。
わたしがあなたの隣にいることはできなくても。
あなたが愛したこの世界を残せるように。
だから、どうか。どうか。
あなたが、次に見るこの景色に雪があったなら。
どうか、私の名前をもう一度呼んでくれませんか。
「泣いているのか?」
三日月の夜。
木でほとんど月の光が入らない場所。
「お前、名前は?」
誰にも見つからないように隠れて泣いていた私に。
あなたは名前を付けてくれました。
その日から私は、終わりのこの世界が色づきました。
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人の一生はいつかは終わりを迎える。
それまでにいくつもの、選択をしないといけない。
死んでしまえば選ぶことはなくなるのだろうか。
楽になるのだろうか。
それともこの考えさえも。
すべて消えて無になるのだろうか。
【神は許さなかった】
ーーーーここは死後の世界。
大きい島のようなこの世界は、1区から15区までに分かれた地区で形成されている。
それぞれの理由で、死んだもの達が行き着く場所。
何故自分が死んだのかー…。
ここで生活するものは知らない。
全員が、この死後の世界に来る際に。
生前での記憶を奪われるからだ。
神はこの世界で生きるものに【2つ】の選択肢を与えた。
【自分を取り戻したものには、生まれ変わりを】
【この世界に居続けると決めたものには、自分の記憶を代償にこの世界を守るための力を】
神が決めたこの選択肢は、どちらも選ばないことはできない。
いや、選ばないことを選びたくないからだ。
選ばないことはこの世界での死を意味する。
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12区。
『おはようございます!』
この世界の中でも特に自然に恵まれているといわれているこの12区。
川や木々に囲まれているこの土地は、本当に死後の世界なのか疑うような穏やかな空気が流れている。
そこで私は今日も駆け回っていた。
「朝から元気だねぇ、肉子ちゃん」
そう言って私に声を掛けるのはハル婆さん。
昔からこの12区で生活する1人だ。
ハル婆さんは優しい人でいつも自分の植えた木から実る果物を分けてくれる。
『そうなんです!今日も朝から案内しないといけなくて…』
「肉子ちゃんのおかげで私たちはこうやって、この場所で静かに暮らせるよ。」
そう言って微笑むハル婆さんに少し安心した気持ちになる。
『それが私の仕事ですから。皆さんがここで、自分を取り戻して、生まれ変わってくれるように毎日頑張ってます!』
私の仕事は案内人。
この12区で生活する人達が、無事自分を取り戻して生まれ変わるためのサポートをする仕事だ。
この世界に来た人達は、最初は自分の死を受け入れられない。
生前の記憶を失くして来るのだから、突然自分が死んだと言われて納得なんか中々できない。
12区で暮らす人々が、選択を拒否しないように、
一人一人に寄り添って生活のサポートをするのが私の役目。
やりがいがあるこの仕事はとても気に入っている。
皆ありがたいことに穏やかに生活してくれているおかげか、私にもとても良くしてくれている。
【自分を取り戻したものには、生まれ変わりを】
基本的にほとんどの人がこの選択を目指す。
記憶を取り戻すために、それぞれ自分にできることをやりながら、周りと支え合って生活をする。
突然、記憶を取り戻して生まれ変わる人もいれば。
ハル婆さんのように長くこの世界で過ごす人もいる。
もう1つの選択をする人はごく稀だ。
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『遅くなってしまってすみません!』
12区の中でも少し端にあるこの場所は、高いフェンスで覆われている。
…理由は色々ある。
フェンスに囲まれたここの中でも異様に目立つのが、
《門》だ。
石膏でできたようなこの大きい門は、天使のような翼が埋められている。
この門から、新しい死後の世界の住人を迎え入れる。
「肉子さん…今日の奴はちょっと大変かもしれないです。」
そう言った若い男2人の門番は、1人の少年を押さえつけていた。
「離せ!!なんだよここは!!」
15歳くらい…だろうか?
少し目にかかりそうな前髪の中から、気の強そうな瞳の少年は、目が合った私を睨みつけながら。
押さえつけられた体をバタバタ暴れさせていた。
『あの…この子は?』
「今日門から来たやつ何ですが、ここが死後の世界っていうのを中々信じなくて。
暴れて逃げようとしているのを俺たちで押さえつけちまいました。」
自分よりも幼い少年を力でねじ伏せているのが、少し心苦しいのか申し訳なさそうに、門番の男が話す。
『…とりあえず、その子を離してあげてください。』
やっと解放された少年は、ムスッとした顔をしながら長いこと押さえられていた体をほぐす。
「…なに、あんた。コイツらよりも偉いやつ?」
『私はこの世界の案内人をしている、肉子と申します。突然のことでびっくりさせてしまったかもしれませんが、あなたのことを思ってこの2人も押さえつけてしまったので悪く思わないでくださいね…。』
なるべくこの少年に安心してもらいたく、私は少年に目線を合わせて微笑んだ。
「肉子?!変な名前!犬でもそんな名前つけねーだろ!!」
『…これは大事な人がつけてくれた名前なので、馬鹿にしないでください!』
名前のことを言われて大人気なくムッとしてしまった。
『…コホン。それで、あなたは何故ここに来たのかは覚えていますか?』
当然、覚えていないだろうが。
これはここに来た人間全員に、確認のため質問する。
これを聞くことで、皆自分の状況を受け入れやすくなるためだ。
「…わかんねぇ。気づいたらここにいた。」
『そうですか…。ここは、死後の世界というのは先程言われたかもしれませんが。
あなたは、何かしらの理由で死んでこの世界に来たのだと思います。
ここに来る人達は、生前の記憶を失くしているので…。』
「突然死んだとか言われても、それで納得できるわけねえだろ…。」
ーー当然だ。
ましてやこの少年の年齢くらいだと受け入れるのに時間がかかる。
自分が死んだ理由もわからないまま、こんなとこに来たのだから無理もないだろう。
『あなた、自分の名前は覚えていますか?』
「…夏彦」
ーーー記憶を失くすといっても、何もかもを忘れるわけではない。
自分の名前や、生前身につけた知識等は、そのまま残して来る人も中にはいる。
『夏彦ですか…。いい名前ですね。』
「…それしか覚えてない。」
もどかしそうに夏彦はうつむく。
『夏彦、まだ混乱しているかもしれませんが。
私たちは、あなたを困らせたいわけではないのです。
あなたがこの場所で記憶を戻せるように、協力しますから、どうか今は信じてはくれませんか?』
「…」
カンカンカンカン!!!
「死獣が出現しました!!」
夏彦の返事を待とうとしていると、大きなサイレンと共に、門番の叫び声が聞こえる。
「肉子さん!ここは俺たちで何とか時間を稼ぐんで逃げてください!!」
『…っこんな時に!夏彦!今はとりあえずフェンスから出ましょう!!』
私は夏彦の手を引いて、フェンスの外に出るために走り出す。
「は?!急になにー…」
ーーーこの世界で生きる私たちが、絶対に避けないといけない存在。【死獣】
全身が炎で覆われた人の形をしたそれは、元は私たちと同じ存在だったもの。
神からの選択を拒否したものの成り果て。
ーーもしくは、最初から選択すら与えらなかったものがなる存在。
「ーーー!!!あの化け物なんだよ!!こっち向かってくるぞ!!」
『今は説明してる場合じゃないです!あれに捕まると生まれ変わるどころじゃありません!!』
【死獣】に捕らわれた人間は【死獣】になる。
そうなると、生まれ変わることもできなくなり。
ただ、殺されるまでこの地を彷徨うことになる。
ーー本当の意味での死を意味する。
フェンスはこの【死獣】から私たちを守るためにある。
「あっ!足が…。」
思い切り走らせてしまったせいか、夏彦がつまづいて転んでしまったようだ。
『夏彦!立ってください!』
転んだ夏彦を起き上がらせようとした時、門番から逃げてきた【死獣】の一体がこちらに近づいてきた。
…炎に包まれた体の中から目玉だけがギョロギョロと、私たちを見据える。
元は人間だったのを疑うような、気味の悪さは名前に相応しい獣の目つきそのものだった。
あ、まずいかもしれないです…。
そう思った時。
1つの弾丸が、後ろから死獣の頭を突き抜けた。
「肉子さーん!!大丈夫ですかぁ〜??」
黒髪のポニーテールに、これでもかというような。
大きなリボンを付けた、愛くるしい顔の少女は。
自分の背丈に似合わない大きな銃を構えていた。
「今隊長達来たんで、もぉ大丈夫ですよぉ〜!」
『…みどりちゃん。助かりましたぁー…。』
ヘナヘナと腰が抜けた私は、地面に沈み込む。
大きな銃を構えたみどりちゃんの、背後から男2人が死獣に向かって突っ走っていく。
1人は、長髪に彫りの深い顔した男は、大きい槍を軽々と振り回し、死獣を蹴散らせていく。
もう1人、茶色い髪をひとつに括った爛々とした表情をした青年は、楽しそうに細い刀で次々と死獣の首をはねていく。
そしてーーー
「肉子、ごめんな。怖くなかったか。」
『ーーー太郎ちゃん。』
少しクセのある髪に、悪ガキみたいな表情のわりに整った顔立ちの青年。
右手には、大きな炎で包まれた刀ー…。
よく聞き慣れたその声に、私は心から安心する。
「おっ、そいつが新しい住人か?」
『そう…夏彦っていうの。』
状況が追いついていない、夏彦はただ、呆然と太郎ちゃんを見つめていた。
「夏彦ー。俺らが来たからにはもー問題ないぞー。
帰ったらお前の歓迎会しよーぜ。」
そう言いながら太郎ちゃんは腕をポキポキと鳴らした。
「…は?歓迎会…?」
夏彦はこの世界にそんな会存在するのかと、言わんばかりに怪訝な顔をする。
太郎ちゃんは、最後の一体の死獣に向かって。
炎に包まれた刀を、円を描くように奮った。
その刀の炎は、死獣の炎を奪うように吸い上げ。
死獣は、黒く焦げたような焼け跡だけが地面に残った。
【この世界に居続けると決めたものには、自分の記憶を代償にこの世界を守るための力を】
彼らは、その選択をして力を得たものーー…。
死獣を殲滅するために、この12区を守る仕事をする存在。
《閻魔隊》
《死獣殲滅隊》
《生まれ変われないぞ隊》
《12区治安維持隊》
《地獄戦線》
《鬼○隊》
ーーーーー……。
隊の名前が中々しっくりこないらしく、よく定期的に名前が変わるのですが…。
《死獣門番》
今現在の名前だと、こう呼ばれている。
なんで肉子なのか気になった方は、序章最後まで読んでいただけると嬉しいです。
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あと隊名募集中です!!