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0007 星紡の力

 あの後もエリーと一緒に学園の様々な場所を探したが、怪しい人影は見つけられなかった。

 なので見回ったあとの僕とエリーは学園に戻ってきたクゥとミハエルから話を聞くことにした。


「どっちから聞こうか…」


 僕がそう言うと、クゥが真っ直ぐに手を挙げた。そして僕が名指しをするよりも先に喋り始めた。


「はい!ではクゥの方から話しますねっ!

…この空間は地図のだいたいこの辺り、学園の校舎から約10kmを円形状に壁がありました。

 それと避難予定だった民間人なのですが、それらしい人は見つけられませんでした…たぶんですけど、学園だけがこの空間に入ってるんじゃないかなーって。

 そういえば道中に八百屋さんもあったのですが、店先に並んでいるお野菜はどうやら食品サンプルみたいになってるみたいです。ね、ミハちゃんっ」


「うん…シリコンの味だった……」


「…丁寧な食レポまでどうも。」


 いつの間にか仲良くなっているクゥとミハエルの姿にさっきのケンカは一体なんだったんだと僕は言いたくなったが、もしかしたらクゥが忘れてるだけかもしれないのでとりあえず今は藪を突かないでおくことにする。


「民間人の避難の必要が今の所必要なさそうなのは良い報告だね。学園には食堂以外にも非常食くらいはあるし、そこそこの期間はどうにか凌げ…」


「それじゃダメよシノ!一刻も早くこの状況は解決しなきゃ!!」


「…解ってる、今のは最悪の場合の話だよ。じゃあ次はミハエル」


 ミハエルは僕がそう言うとおずおずと…と言うよりは、言葉を考えながら話しているようで。ときどき彼女の視線が宙を泳いでいた。


「うーんと、ね…空の穴の外は…真っ暗…あんまり大丈夫じゃ無いと思う……。

 クゥちゃんと一緒に街を見たけど、家の中とかお店に人は居なかった…声もしないくらい静かだったから…本当にここだけが別の場所に取り込まれたと思う…」


「別の場所に…?」


「うん。うーんと…そういう星紡の力が確か…あった…ような……」


 ミハエルの言う星紡と言うのは、このソフォル=ルエルに住んでいる人達が持っている不思議な力の事だ。

 その力は人によって様々だが同じ力を持っている人は居ない、少なくとも僕は見たことが無い。そして一人につき星紡の力は一つしか持っていない。


 ここからはあくまでも僕の推測でしかないが、その理由は星紡の力がその人の人柄に寄るところが多いから…だと思う。

 例えばラスティナの所属する教会のベツヘレム大司教…七星(ナナセ)・ベツヘレムさんは、聖女であるラスティナと比べても信仰心の深い方で、それでいて学園に通う寮の管理もしているとても世話好きでお節介で…すごく綺麗な人だ。

 正直ラスティナよりも聖女らしいと僕は思うし、同年代には彼女の年上の落ち着いた雰囲気に恋焦がれ、中には彼女の手料理が食べたくて寮生活に入ろうとする人も居るとか。


…話が逸れたけど、そんな大司教様の持つ星紡はその信仰心を表したように何処でも『教会を繰り出す』ことが出来る…いやなんかおかしいんだよな。

 大司教様も『私たちは星の信徒なのですから、いついかなる時も祈りの心を忘れてはなりません』って、言ってること自体は悪くないと思うんだが、祈りの心を忘れない為の結果として出てきたものが『教会』なのは微妙に解決手段として成立してないと思う。そもそもあんな大きな建物を出せる平坦な敷地はそうそう無い。


 そしてあろう事か彼女は、寮の門限に遅れた生徒には『教会を落としますよ』と雷が落ちるよりも余程恐ろしいことを涼しい顔で口走っている姿が毎年のように噂となっている。

 もはや本当に信心深いのかすら僕は疑問を浮かべたが、彼女が冗談を言っているようにも見えないからあのクゥも含め大司教様には全員頭が上がらないんだ…。


……またまた話が逸れたけど、どのような過程であれ七星大司教のような力が教会の関係者以外に発現するとも考えにくい。

 それと同じように、他の人の星紡も何かしら関係はある傾向に見える…。


「ねぇシノ、また考え事?」


「あ、ああ…もし今の状況を作り出しているのが星紡の力によるものなら、相手は内向的な性格なんじゃないかって…」


「内向的、なんで?」


「星紡は多かれ少なかれその人の内面を映してるように見える。だから閉鎖空間を作れる力は他者との関わりを無くしたいんじゃって…」


「なるほど!シノの星紡もシノみたいにひねくれてるもんね!」


「ひと言どころか5言くらい多かったね今の…」


「そうですよエリちゃん! シノちゃんって意外とヒドイこと言われると気にする性格なんですからもうちょっと…ワレモノを扱うみたいにして下さいっ!」


「それはそれでどうかと思わなかったのかなクゥは…?」


「……大変だね、シノちゃん。」


 なんで僕は今日会ったばかりのミハエルに頭を撫でられながら憐れまれなきゃなんないんだ…なんか、すごく情けない感情が湧いてくる。


「し、シノ。そんな捨てられた仔犬みたいな顔しないで…?」


「してないけどぉっ!?」


「え、ええ…そうね、気の所為だったわ。ところでシノはこれ、見たくない?」


 そう言ってエリーが取り出したのは、何かが書かれた紙束…そういえばエリーは職員室に行った時なにかを頼んでたんだったか。


「それがエリーの職員室で頼んだ物?」


「そうっ!探偵と言えば…まずは聞き込みからでしょっ?」


 探偵と言えば、聞き込み。

 少なくともこの場に居る全員がグラウンドに居た時間かそれよりも前の時間の状態を知るには、これ以上ない手段だと思った…―――




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