第9話 幼馴染と隠し事
「......よし、赤木、ちょっと良い?」
「げっ......」
「まあまあちょっと聞くだけで良いから」
薫生が真白と話している間、彩葉は立ち去ろうとしている赤木に耳打ちをした。
「......というわけなんだけど、乗る?」
今まで赤木は彩葉を毛嫌いしていたものの、同胞だったかと提案を聞いた時見る目が変わった。
「最高にその景色が見たいぜ......お主も同胞だったか、同胞に悪い奴はいない、分かった、良いだろう」
「そう言うと思った」
そして赤木と彩葉は手を取り合い握手した。
両者満面の笑みである。
「具体的な案はあるのか?」
「まだ特にはないけど、一個あるとしたらあれかなあ」
「夏祭りか?」
「うん、そう」
「まあ目的な同じなんだし臨機応変にやるしかないな」
薫生は何故か寒気がした。
***
『お前、今日暇?』
土曜の朝早く、赤木からメールが来た。
ちょうど起きたばかりだったので目を擦りながらメッセージを確認した。
内容は妹へのご褒美プレゼント選びに手伝ってくれということであった。
赤木には10歳ほど年下の妹がいる。そして赤木は重度のシスコンである。
赤木兄妹は見ていて微笑ましい。仲が良いのは良いことだ。
ただなんで俺が行かなければならないのだ。
まだ幼いとはいえ一応相手はレディ。女心なんて男の俺に聞かれてもという感じはある。
『熊のぬいぐるみとかで良いんじゃないか?』
『本当の目的はゲーセン行きたい』
......なるほど。随分と遠回しな言い方だなと思いつつ俺はメッセージを返す。
『分かった、午前部活だから午後からなら』
『おっけ、1時ぐらいお前の家凸るわ』
赤木は前科持ちだ。前回、俺の家でピンポンダッシュしてきやがった。
今回は外で待っておこう。
そして午後1時。
......案の定、赤木はピンポンダッシュをしてこようとしていたので待ち構えて捕まえた。
「確保」
「なあ!?」
***
「最近真白とはどうなんですか?」
「まあ、普通?」
「ふーん」
隣にいる赤木がニヤニヤしている。何故だろう。この笑みに少し腹が立つ。
「まあ傘を貸しましたしねえ」
「うっせ、あれはまあちょっと可哀想だったからってだけで......」
「はいはい、照れ隠しですね、分かります」
俺は無言でやつの脇腹に肘打ちをする。
ぐふっ、と言うなんとも情けない声を出して腹を押さえているが気にしない気にしない。
そうこうしている間にゲームセンターについた。
にしてもゲーセン久しぶりだな。
少し賑わっており、家族連れも多い。
「ゲーセンと言ったらあれだよな」
「......お金溶けるぞ」
「一発で取れた時の快感が半端ないんだぜ」
やけに赤木のテンションがノリノリである。中間テストも終わりもうすぐ夏休みなので少し浮かれているのだろう。
無論、俺もである。
俺たちは奥へ行き、クレーンゲームのある方へ行った。
そして赤木は熊のぬいぐるみが置いてある台を指す。
「......俺あれ取ろうかな、プレゼント用に」
いや、普通に買った方が安いと思うのだが。
「包装はどうする」
「あっ確かに、普通に買った方がいいか」
そんなことを話していると、横から見覚えのある声が聞こえてきた。
「......難しい、彩葉やってー」
「私こういうの得意なんだよね」
横を見れば真白と彩葉がいた。
最近よく会うな。
声をかけようとしたら先に赤木が声をかけていた。
「よお、お前ら、奇遇だな」
「あっ赤木じゃん、ヤッホー」
「赤木くんと......かっ薫生!? ぐっ偶然だね」
......あれ、赤木と彩葉の距離が縮まってる?
赤木の視線は主に彩葉に向いている。
前なら視線を逸らしていたというのに。
そして真白が俺に近づいて来る。
「薫生も来てたんだ」
真白は持っていた袋を後ろに回した。
真白が何やらいつもと違う。少し緊張しているというか......。まあ気にしないで良いか。
「最近よく会うな、まあ行く場所限られるし当然か」
「だね、あっそういえば明日......」
真白が何か言いかけたところで彩葉が真白の肩を叩いた。
「そろそろ行こっか」
「あっそうだね......じゃあまた連絡するね、バイバイ」
そして真白と彩葉は立ち去っていった。
まあ特に大した用事ではないだろう。
その後、赤木は結局、クレーンゲームで1000円を消費し、収穫0。
もう1000円やろうとしていたので沼にハマる前に俺が止めておいた。
というわけで店でぬいぐるみを買い、その日は終わった。