第8話 幼馴染とお勉強
高校に入ったら何をしなければならないのか。
友達と遊ぶ? ゲームをする? 1人ぼっち飯を食べる?
......勉強である。
そして大きな関門が立ち塞がろうとしていた。
「テストまで残り1週間、いや1週間もないな......間に合うかこれ?」
手のつけようがない膨大な課題の量。それに加えて苦手科目の勉強もしなければならない。
赤点は夏休みに補修がある。それは回避しなければ......。
そもそも日頃から勉強しておけばいい話なのである。ツケが回ってきたのだ。
休日の土曜日、俺は机に向かって、そのままぐだーっと倒れ込んだ。
「だっダメだ......拒否反応が!」
この環境が快適すぎる。このまま寝れてしまえる。
このままではいけないと思いもう一度ペンを動かすも、やはり10分程度で途切れてしまった。
誰かと勉強するという選択肢も取れるのだが、赤木と勉強したらその流れでゲームになるだろう。
真白は......流石にちょっと気まずい。
そしてそれに何より、真白はテストでは成績がよく、常に上位をキープしているため、俺がそんな真白の足を引っ張ってしまう可能性があるのである。
俺が悩んでいるとスマホにメッセージが来た。
「うん、メッセージ確認するだけだし、うん」
俺は少し罪悪感を感じながらもスマホを開いた。
送り主は真白だった。
『よかったら私の家で一緒に勉強しない? あっ私がそっち行ってもいいけど』
タイミングが良すぎる......!
ありがたやー、と思いながら俺はメッセージを返した。
『分かった、今から行っていいか?』
『いいよ!』
俺はささっと荷物をまとめて真白の家へ向かった。
***
『ピンポーン』
俺はインターホンを鳴らす。
こうして真白の家に遊びに来るのは久しぶりかもしれない。
しばらく待ち、扉が開いた。
出てきたのは真白......ではなく真白の母だった。
「はい、すいません、お待たせしました......って薫生ちゃん!?」
「どうもお久しぶりです」
真白の母はなんとも明るい中年の女性である。
「あらまあ、随分と大きくなって......今から真白と遊ぶの?」
「遊ぶと言うか勉強会です、お恥ずかしながら勉学は苦手なので真白に教えてもらおうと......」
「そうなのね、あっどうぞ中に入って、真白は上の部屋にいるから」
「お邪魔します」
中は前に来た時と変わっていなかった。俺は階段を登り、真白の部屋の扉をノックした。
「はーい」
その合図とともに俺はドアを開けた。
「いらっしゃい、外暑かった?」
「まあな、結構暑かった......って」
俺の視界にはメガネをかけて下のテーブルで勉強している真白の姿が飛び込んできた。
真白は普段学校ではメガネをかけていない。まあ他クラスなのでその姿を知らないのも当然だが。
一瞬胸がドキリとしてしまう。......あまり可愛いと思うことはないのだがこればかりは不覚にも可愛いと思ってしまった。
「どうしたの?」
「ああ、いや、メガネをかけてる真白を見たことがないからなんか新鮮だなって」
「これ? まあ伊達なんだけどね」
よく目を凝らしてみれば確かにレンズがない。
「モチベーションアップみたいな」
「なるほどな、そう言うのもありか」
真白はそのメガネを外して、背伸びをした。
さて、勉強を始めますか。
俺は真白と向かい合う形で座り、教材を開いた。
そして手を動かすこと5分、ペンを動かす手が止まった。
問題文が長すぎる。読むのが苦痛である。それに問題も十分難しい。
どこから手をつければいいのやら。
俺が手をしばらく止めていると、真白がそれを見て俺の横までやってきた。
「どこが分からないの?」
「えーっと、ここなんだが......」
そう言うと真白はノートを開きスラスラと解き始めた。
そしてものの数十秒で解いてしまった。
「えーっとここはね......」
そうして教え合いっこ、いや真白先生による授業が夕方まで続いた。
俺がきたのが2時ぐらいなので約3時間ぐらい勉強したことになる。
「あー疲れたー」
「ぶっ通してやると疲れるな」
「ね、あっそうだコンビニ行かない?」
「糖分補給か......そうだな、はい、真白先生に感謝の意を込めて奢らさせていただきます」
「ほんと!? やった! なんでも?」
「基本何でもだが、まあハーゲンダッツは......善意に任せる」
***
真白が選んだのは普通のチョコアイスだった。
俺はモナカアイスである。
俺らはコンビニ近くの公園に座って食べている。
「奢ってくれてありがとー、うーん美味い」
「俺のモナカ1口食べるか?」
「あっじゃあ貰います」
俺はモナカを少し割り、真白に渡した。
「えっと......わっ私のチョコアイスもいる?」
「ん、いいのか」
「うっうん」
と、俺にチョコアイスを渡した。
俺はそれを1口食べた。
「うん、美味い、暑い日はアイスに限るな......ってどうした」
真白の方に目をやると少しそわそわしている。
「はわわわ、えっと、なんでもない」
と、真白は笑って何かを誤魔化すのだった。
***
それから俺は課題もギリギリだったが無事期間内に終わり、中間テストが終了した。
夏休みまでもう何もない。このまま夏季休暇まっしぐらである。
「やっと解放されたー!」
と彩葉は背伸びをした。この開放感と言ったらとてつもないものである。
俺たちは各教科と総合のトップ10位までの順位表が張り出されていたので見に来ていた。
「今回私総合載ってるかな」
彩葉も彩葉で地味に賢い。前回は10位ぴったりだったとはいえ総合に載っていたのだ。
今回は俺も自信はある。なんせ真白先生に教えてもらったところがそのまま出たのである。
真白の順位はというと......やっぱり相変わらずだ。
総合順位は2位。各教科は全てトップ3に入っている。
俺は下へ下へと目線を下げていく。
しかし彩葉も俺も名前は出てこない。
流石にないか、と思ったその時だった。
俺は総合8位だった。
「......やったぜ」
「なっ負けた!?」
彩葉の順位は9位。結果は2点差で俺の勝ちだった。
「あの薫生に!?」
「あの、は余計だ」
彩葉は驚いたように手を頭の上に乗せて目をパチパチとさせている。
......真白先生には感謝しても仕切れない。
「おー、お前順位載ってるじゃん、すげえ」
赤木も俺の隣に来た。彩葉に気づいていないのだろうか。
「お主もやりおるの......げっ」
そして横を見て赤木は気づいた。
「人の顔見て、げっ、って何よ」
彩葉が鋭い視線を浴びせる。
「いやあ、なんでもないっすよ」
「ったく、レディに対して失礼な」
「......レディ?」
「なんか文句ある?」
「いえ! ありません!」
こいつらもう仲良いだろ。
俺はあいつらがそんなやり取りをしている間に、順位表を見ている真白に声をかけた。
「真白は......相変わらずすごいな」
「うん、まあね、こういうのは日頃の積み重ねみたいなもんだし」
その努力を平然とできるのが尊敬に値するんだよなあ。
「薫生も結構良かったんだ」
「あの真白先生に教えてもらいましたから」
「あはは、まあ上には上がいるんだけどね」
真白は照れを隠しながら少し笑った。