第6話 彩葉の過去 ※少々シリアスです
彩葉は元々気弱な子だった。彩葉は元々根暗な子だった。
何をするにも1人だった。......それだけなら彩葉も苦ではなかった。
ある日、陽キャ的存在に絡まれた。最初は向こうも仲良くする気で話しかけてきたのだろう。
しかしいつまでもオドオドして会話にテンポにもついていけないことにイライラしたのか陰口を言われるようになった。
そして段々とそれがエスカレートしていった。
暴力はなかったが、陰口、無視、悪戯の域を遥かに超えている悪戯。
彩葉は耐えられなかった。そこで真白や薫生たちがいる学校に転校した。
「何かわからないことあったら教えてね」
みんな温かかった。でもそんな日常も変わるのかもしれない。
そう思い、できるだけ自分を取り繕って明るく振る舞った。
自分は陽キャラなんだって嘘をついてクラスの中心になろうとした。
結果、陽キャのリーダー的存在になることができた。取り巻きも増えた。
でも本来の自分とは違う。差を感じるごとに、自分の心が痛くなった。
でもいじめられるよりはマシだった。
そしてそんな日々も一旦はあと1日で終了という時だった。
「そういえばさ、なんか真白ウザくね」
「わかるわかる、いい子ちゃんぶってるって言うか」
卒業式の日の登校中、突然こんなことを言い出した。
朝から暗い話題はやめてほしいな、と思いつつ彩葉も便乗する。
「それなー、ちょっと見ててイラつくー」
思ってもないことを何事もないように口にする。
そしてそんな話題をしながら学校についた時だった。
薫生の下駄箱に手紙らしきものが置いてあった。
チラッと見ると、宛先を見てみると真白からだった。
あの子......ってまずい、これをあいつらが見たら。
彩葉は必死に隠そうとした。しかしもう遅かった。
「ん、彩葉何持ってんのそれ?」
そして1人が手紙を彩葉の手から取った。
「うわっラブレターってやつ!? しかも真白からじゃん、これ誰のところ置いてあったの?」
「かっ薫生のところ」
「うっわ、幼馴染の告るんだ、引くわー」
周りもみんなケラケラと笑う。彩葉もそれに合わせて笑った。
そしてその子は彩葉に手紙を戻した。
良かった、何事もなかった。
彩葉はホッと安心した。しかしそれも束の間。ある1人が提案をした。
「あっそうだ、いいこと思いついた、それさ、ゴミ箱に捨てておかない?」
「いいかも、ちょうどあいつうざいって思ってたし憂さ晴らしになるね」
「うっうん、めっ名案かも!」
止めなきゃ......こんなことダメだって言わなきゃ。
しかし足はすくんでいた。
もうすぐ卒業。だからここで反抗しても大きなダメージを負うことはない。
ただ、彩葉のトラウマがそうさせてくれなかった。
気づけば手紙をゴミ箱に捨てていた。
「あいつどんな顔するんだろ、ウケるー!」
終始いい気分ではなかった。そんなもので片付けられるものじゃない。
罪悪感で押しつぶされそうだった。
高校に入って、何事もなく話しかけてきた真白を見て胸が締め付けられる思いだった。
高校に入って、真白が薫生を嫌うようにしていたのを見て胸が締め付けられる思いだった。
絶対に謝らなきゃ、謝らなきゃなのに。
こういう時だけ素の臆病な性格が出てしまう。
......そんな人が薫生を好きになる資格なんてないんだよ。
だから彩葉は真白と彩葉が仲直りしたのを見てホッとした。でもなんだろう、この思いは。
複雑な感情だった。嫉妬と安堵と過去の自分への怒りと嫉妬していることに対する自分への怒り。
罪悪感はいつまで経っても消えないものなのだ。
真白が薫生にフラれたのを聞いた時は、非常に心苦しかった。
あのまま付き合ってでもくれたら過去にケジメをつけられる。
そんな他人任せな考えなのだ。
そんな人物が薫生に好きになる、薫生に関わるなどあってはならないことなのに。
でももう逃げない。ありのままを伝える。
これが唯一の選択肢。
「話って何? 彩葉」
「あっ来た? 呼び出しちゃってごめんね、真白」