第12話 幼馴染とお料理
真白に連絡を取ってみたところ、あっさりとオッケーをもらえた。
真白先生には本当に感謝しかない。
真白が来るまでの間、作る食材は少し多めに買っておいた。
今回のメニューは前回のリベンジとしてコロッケである。あとは味噌汁やその他もろもろ。
味噌汁に関しては失敗はしないが美味しい味噌汁の作り方を学ばさせてもらおう。
真白は夕方くらい来てくれるらしい。昼は用事があるので来れないそうだ。
そこまで無理してこなくてもいいとは思うのだが、ここは少し甘えさせてもらおう。
***
「それじゃあお邪魔しまーす......薫生の家久しぶりかも」
午後5時半ごろ、真白が家に来た。
......本当に感謝しかない。
「すまんな、わざわざ」
「いいよ全然、料理自体好きだし」
というわけで俺たちは食材に対面している。
キッチンが少し広くて助かった。2人でも十分動けるスペースはある。
まずは米を研ぎ、分量の水を入れて炊飯器に入れる。
これくらいは毎日やっているので全然余裕である。炊き込みご飯の時は......仕方ない。
「それじゃあ、ジャガイモ切ろっか」
米を研いでいる隙に、真白はジャガイモの皮をもうすでに剥いてくれたようである。
さて、ジャガイモを切りますか。
まだまだ準備であり、失敗する要素がないと思っていたのだが......。
俺は指から垂れた赤い液体を水で洗い流す。しかし止まらない。
ジャガイモを切っている時に、包丁で指を切ってしまったのだ。
「いてっ」
「あっ、指切っちゃった?」
真白はエプロンのポケットから絆創膏とガーゼのようなものを取り出した。
「随分と用意周到だな......」
「こうなるってわかってたからね」
「ぐふっ」
「まあ料理初心者なんだし、仕方ないよ、それに指の傷跡結構多いし」
料理初心者とは言われ、何も言い返せない。
今までも何回か指を切っていたので、切る練習をもう少しするべきだと思いつつ、面倒くさくてやっていない。
真白はガーゼで血を吸ってから、華奢な手で俺の指に絆創膏を貼った。
「はい、ひとまずこれでオッケーかな」
「......あっ、すまん、ありがとう」
どうしてだろうか、少し顔が熱い。料理をしていたんだし当然か。
それから俺は真白先生に指導してもらいながら、なんとか完成まで持っていくことができた。
コロッケに千切りキャベツを添える予定だったのだが、先ほどのこともあり、真白にやってもらった。
やはり手慣れた手つきで、ササっと切り終えていた。
真白が程遠い存在のようにも見えた。
なんというか料理の上手さの次元が違う。
そして、昨日とは打って変わって、きちんとした食欲をそそられる品が食卓に並べられた。
俺たちは席の座り、手を合わせた。
「いただきます」
「いただきまーす」
まずはコロッケから食べるか。
ソースをかけ、口へ運ぶ。
サクッとした衣と、クリーミーとホクホクのちょうど間のジャガイモがよくあっている。
病みつきの味である。
真白に教えてもらわなければここまで上手くできなかっただろう。
「うん、美味いじゃん」
「真白先生のおかげです」
そう言うと少し真白は照れくさそうにした。
「あはは、先生だなんてそんなー」
真白には色々と世話になっている。今回の件もそうだし、勉強の件もである。
そうして食べ進めていると、真白が夏祭りのことを口にした。
「そういえば来週の夏祭り、なんだけど、いつも通り一緒に行かない? 家近いんだし」
「ん、まあそうだな、じゃあ5時ごろ家に迎えに行く」
「ありがと」
***
「ねえ、薫生、久しぶりにあの高台行かない?」
夜に女子高生1人で帰るのはいささかどうかと思うので俺が送ろうとしたわけである。
そしてその道中、真白からそんな提案をされた。
あの高台というのは友達と遊んでいた秘密基地のような場所である。
景色が綺麗なのだ。当時、子供ながらによく発見したと思う。
あと2人ほど幼馴染とも呼べる友達はいるのだが、1人は中学へ上がると同時に、もう1人は中学の途中で抜けていった。
「あの2人は元気かな」
「元気だとは思う、久しぶりに会いたいな」
「だね」
そんな会話をしながら坂を登り、到着した。
そして上を見上げれば......。
「やっぱり綺麗ー」
満天の星である。夜空は明るい。キラキラと星が輝いている。
地面に座り、俺たちは上を見上げて夜空を見る。
「だな、夏祭りの時、晴れるといいな」
「そうだね、てるてる坊主でも作ってみる?」
「ありかもな」
そんなことを言いながら笑い合う。
他には誰もいない。2人だけの空間。
それが楽しくて、胸が満たされて......それにいつもより心臓の音が速く聞こえる気もする。
......前はこの感情が恋かは分からなかった。ここまで鼓動が波打つこともなかった。
これは恋というものなのだろうか。
薄々前から気づいていたのかもしれない。でも、俺が真白に対して今まで通りにいれなくなるのが怖かったのかもしれない。
「ねえ、薫生、ちょっとこうしてもいい?」
そう言って真白は俺の肩に頭を乗せた。
少しドキリとしてしまう。
「別にいいが......どうした?」
「ん、ちょっと甘えたい気分」
そして真白は少し間を置いてから言った。
「薫生、あの時はいないって言ってたけど、実際好きな人いるの?」
「......いるかもしれないし、いないかもしれない」
そう返すと彼女はいつも通りに笑った。