表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
やぎのうた♪  作者: こゆき茜
起ノ壱 異な日常の幕開け
4/23

2

 紺のジャージに白衣を纏い、無精髭を生やした男性は、気だるそうにチョークを走らせる。

 彼は小野久美先生…俺らのクラスの担任だ。

 火は点いていないが咥え煙草。頭は整髪の『せ』の字も無く、知らなきゃ誰も教師とは思わないだろう。

 一際目立つように書きしたためた彼は、手にしたチョークを元の場所に戻し、背を丸めこちらに振り向く。彼独特の癖のある字で、黒板にこう書きなぐられていた。


 ──真柴勇、真柴いさみ。


 それは先程のとんでも宣言の際に、あの二人が名乗った名前であった。

 小野先生はボサボサの頭を掻きながら、やる気なさそうにこう呟いた。

「自己紹介…いる?」

「「「「「いる」」」」」

 今日はどうも皆して、声の揃う日だと苦笑してしまう。

 生徒のその言葉に「やっぱりね」と肩を竦め、彼は少し後ろへと下がる。空いた教壇にそっと手を差し、傍で控えていた二人に声をかけた。

「じゃ、適当にどうぞ」

「教諭のお言葉に甘えて」

 そう言い先ず教壇に立ったのは、男性の方。その服装は迷彩服から、学校指定のブレザーへと変わっていた。俺らと同じものの筈なのに、彼が着るとまったく印象が違う。何より野暮ったさが無い…何か悔しい。

 彼は教壇に両手をつき、軽く俺達の顔を見渡す。人前で臆す事無く、堂々としたものだ。

「私の名は真柴勇。本日より、この私立柏木高校に通う事となった。特技はこれといってないが…強いてあげるならば乗馬といったところか。至らぬ事は多いと思うが、皆と共に、明るい学園生活を送れるよう、精進しようと思う。よろしく頼む」

 当たり障りのないスピーチ。先程の奇天烈な登場が嘘のようだ。

 まぁ特技乗馬とか、少々突っ込みたいところはあるが。普段なら「何処のお貴族様だよ」と、誰と言わず軽口が飛んできそうなものだが…それは無かった。

 それもその筈。この情報社会において、『真柴』を知らない人間の方が稀だからだ。


 ──真柴グループ。


 その規模、資産は底を知らず、現在の日本において、彼の傘下に無い企業を上げる方が難しい。

 簡単に一言で言うならば、『日本征服完了』。

 第二とか真の日本政府…とまでは言わないが、その影響力は想像に難くない。それだけの力を持つ財閥…そして一族なのだ。

 先日、その真柴グループの総裁が、若き御曹司に代替わりしたのは、まだ記憶に新しいニュースである。小野先生が、自己紹介の必要を問うたのはその為だ。

 質問が無いようだと判断した彼は、横で待つ女性と替わる。彼女は折り目正しく頭を下げると、優しく微笑みこう述べた。

「わたくしは真柴いさみと申します。今までこのような場で、勉学に励むという経験が無く、皆様にご迷惑をかける事多々あると思いますが…どうぞよろしくお願いいたします」

 そして一礼。

 その動作ひとつひとつが、俺らと彼女とでは、生まれそのものが違うと思い知らされる。同年代らしいが、そうだとは到底思えないぐらいだ。

 自己紹介も終わったと判断した小野先生は、引っ張り出してきた椅子に腰掛けこう言った。

「んじゃ質問タイム…ってか今日、自習でいいや」

 丁度、一限目が自分の担当科目の物理である事を良い事に、先生はひとつ欠伸し船を漕ぎ出した。

 ……不良教師の鑑だよ、アンタって人は。

「しつも~ん! 真柴さんたちってスッゴク似てるけど、もしかして双子ですかぁ?」

 臆す事無く、最初にそう質問を投げかけたのは相庭だった。

 まったく…怖いもの知らずと言うか。

「お察しの通りです…えっと……」

「あ、私『相庭』。相庭焔ね♪」

「相庭さんですね?」

「焔でいいよ~」

「わかりました…では私の事も、いさみとお呼びください」

 そういって微笑む彼女。そのやり取りを横で聞いていた片割れが、先程の回答にこう補足を加えた。

「正直あまり意味を成さないが、47時間ほどの差で、兄と妹と言うことになっている」

 47時間って長っ!

 それって相当難産とか…そんなんだったんじゃないか?

「じゃあ、誕生日は別々なんだね~」

 そう言い相庭は驚いてみせる。俺もそうだが、双子だからといって、必ずしも同じ誕生日じゃないんだなと思ったのだろう。

 ……さて、そんな相庭の質問が呼び水となったのだろう。最初は双子の存在感に気圧されていたクラスメイト達も、次々と彼らに質問を投げかけ始めた。

 そんな中、俺は素知らぬ顔で窓の外を見ていた。

 正直、あの二人とは関りを持ちたくない。

 先にも述べたが、俺は普通の高校生、いたって平凡である事を好ましく思っている。

 だからこそ、この転校生の存在は、俺にとって歓迎しかねるものであった。

 大体、同じクラスになんで二人も転校生が入って来るんだ?

 しかもその登校の仕方が、両極端に奇抜で非常識。その上あのルックスで、更に双子だ。目立ち過ぎるにも程がある。

 そして止めと言わんかのように、あの告白と来たもんだ。

 洒落にならん。冗談じゃない!

 アレが何処まで本気かは知らないが、関れば一生受難に苛まれると、俺の本能が警鐘を鳴らし続けている。

 触らぬ神に祟り無しだ。

 今は7月…卒業まではまだまだあるが、俺は残り10ヶ月間、クラスにおいて空気でいようと心に誓う。

 何があっても奴らとは関らない。最優先事項だ。

「で~、二人はミッちゃんの彼氏? 彼女?」


 ガコンッ!


 相庭が二人に問いかけた質問…それを聞き、俺は思わず椅子から転げ落ちた。

「ミッちゃんとは?」

「ミッちゃんはミッちゃんだよ♪」

「相庭、それじゃ分からないって…こいつ変な愛称つける癖があってさ。因みに『ミッちゃん』ってのは、そこで派手にこけた奴の事ね」

 聞かぬ固有名詞に疑問を浮かべる双子兄。要領の得ぬ相庭の説明に、傍に居た茶髪の青年…小枝原和真(かずま)が助け舟を出した。

「ほぉ、ミッちゃんか…これからは私もそう呼ばせていただこうか」

「断固拒否する! 大体、これからもこれまでもねぇだろ!!」

 俺は生理的に嫌なものを感じ、思わずそう叫んで…失敗したと後悔。

 関らないと決めていたのに、思わず突っ込んでしまった。

「……ふむ。様子からある程度は察してはいたが、何も覚えていないのだな」

「覚えるも忘れるもない。初対面だってさっきも言っただろ?」

「現世ではな…だが、前世において、我々は……」

「恋仲だったと? ハッ! そんな寝言、寝てから言ってくれ!!」

「あぁそうだな…まさに夢心地といった気持ちだ。これが夢なら覚めないでおくれ……」

 俺が悪態をつけば、相手はそれを曲解し、恍惚とした表情で天を仰ぐ。

 こいつと会ってものの十数分だが、その脳みそが沸いてるのは理解した。

「よかったなぁ天城~。運命の人だなんて、何かドラマチックじゃね?」

「面白がるなや朋友! この状況楽しんでますね? そうですね!?」

「はっはっはっはっ!」

 その笑いは肯定と判断するぞ小枝原!!

「けどその運命の人が二人って、ミッちゃんの前世って、二股かけてたの~?」

「知るか! ってか受け入れるなよ、そんな話!!」

「気にするな天城…小枝原と相庭は、単にお前の反応を面白がっているだけだ」

 怒りで頭に血が上ってる俺を、背後に立つふち無し眼鏡をかけた細身の青年…吉村隆樹(たかき)が静かに諭す。そして、更にこう付け加えた。

「ムキになれば思う壺だぞ?」

 吉村、俺の味方はお前だけだよ…さっきは思いっきり裏切ってくれたけど。

「先程は判断材料が少なく、自分に危害があるかもしれなかったからな」

 人の心を読むなよ。

「……ん~何だ、質問終わったかぁ?」

 俺らの騒ぎに目が覚めたのか、『今まで寝てました』って顔で立ち上がる小野先生。

「終わったんなら二人とも、いつまでも立ってないで席に着け。…天城の両隣を空けてあるんだろ?」

 そう言い、先生はそこに座るように促した。

 ……って、ちょっと待ってくれ。

「先生、その席は坂本さんと山岡君の席ですよ?」

 俺が疑問を口にする前に、このクラスの委員長である岸辺(きしべ)初菜(はつな)が質問した。

「今日は二人とも、休んでるみたいですけど……」

「あぁ、あの二人ね。転校したから」

「「「「「はぁっ!?」」」」」

 先生の発言に、一同声を揃えて驚きを表す。

 転校だぁ? そんな話、二人から一言も聞いてないぞ!?

「そんな話、初耳ですよ!?」

「だから今言ってるっしょ。理由はまぁ…大人の事情ってやつ?」

「それを言うなら、家庭の事情じゃないですか!?」

「どっちでも一緒じゃない」

 岸辺の少しずれた突込みに対し、飄々(ひょうひょう)と応える先生。まぁ確かに先生の言うとおり、どっちでもって感じはするけど…言い回しがちょっと、生々しく感じるのは気のせいか?

「ま、そんなわけで席空いてんだから座れ。だべるならそこでいいだろ?」

「分かりました、小野教諭」

「はい、先生」

 そう言うと先生は、再び椅子につき惰眠を貪った。二人はそれぞれ右手に兄、左手に妹といった感じに、与えられた席に腰掛けると、俺に向かって微笑んだ。


   *


 昼休み。

 俺は何とかあの双子や、話を聞きつけた野次馬から逃れ、屋上にて寛いでいた。

 寝転がり空を見上げると、何処までも開けた青い空が、俺の悩みなど矮小だと、笑っているかのように広がっている。それが無性にムカついた。

 小さいって言われるのは嫌いだ。

「やはりそこに居たか、天城」

 声をかけられ、俺はそちらへと首を向ける。そこには吉村の姿があった。

 俺は大して驚きはせず、起き上がり彼に声をかける。

「オッス」

「疲れたって感じか…嫌な事があると、高い所に逃げる癖は抜けんな」

「ほっとけよ」

 俺の顔を見るなり、小言を言い出す友人に対し、俺はそう言い剥れて見せる。吉村はそんな俺に向かって、手にした菓子パンを投げよこした。

「どうせ昼はまだだろ? 差し入れだ」

「お? サンキュ」

 俺は受け取ったパンの封を開け、早速口に頬張る。甘い生地に濃厚なクリーム…実に美味かな。

「それにしても、そんな甘いだけの代物、よく喉を通るものだな」

「美味いものは美味い。それでいいじゃん」

「貴様とは長い付き合いだが、その舌だけは未だ理解できん」

 そう言いながら、彼はビニール袋を漁り、中に入っていた牛乳パックを俺に手渡す。俺はそれを受け取るや、中身を一気に飲み干した。

「──プハァッ! ご馳走さん」

「はいはい、お粗末様」

 俺の一言に無表情のまま答える吉村。こいつとは小学校からの付き合いだが、普段はこんな感じに仏頂面だ。こいつの感情が発露した顔を知る人間なんて…恐らく俺ぐらいだろう。そのおかげで、友達らしい友達なんて殆ど居らず、親友と呼べるのは、片手で納まる人数だったり。

「別に、それで苦労はしていない」

「だから人の心を読むなって!」

「バレバレなんだよ。お前の思考はな」

 竹馬の友ってのも難儀なもんだ。ま、助けられる事の方が断然多いから、何とも言えないが。

「……で、どうするつもりなんだ?」

 一息間を置いてから、吉村は俺にそう問いかける。

「どうするもこうするも……」

「どう扱えばいいか悩んでる…か。普段なら無難に立ち回るお前も、好意の剛速球には、対処しきれないと言ったところか?」

「そういうのじゃ…いや、そうかもな」

 再び寝そべりながら、俺はそう呟いた。

 正直、人に好意を抱かれる事自体には、全然悪い気はしない。

 ただ俺は、目立つ事はしたくないんだ。

 そう…目立ちたくない。人前に自分を晒すような真似はしたくない。

 今のまま、普通に暮らしていけたらと思ってる。

 ……多分、それは無理な話なんだろうけど。

「どうだろうな。案外、その糸口は目の前にあるかもしれないぞ?」

「だから人の心を……」

「はいはい」

 吉村は、拗ねた俺の姿に苦笑する。そういった表情を、もっと他所でもすれば、きっとモテるだろうになとは、口が裂けても言ってやらない。悟らせない。

 一瞬、思考が他所に行った。今は双子への対応を考えるのが先だ。

 ……けど、

「どうしたらいいもんかね……」

「それなんだがな。簡単に事を収める方法はあるんだが……」

「え、マジ?」

 思わず呟いた言葉に、意外な返答が返ってくる。俺は思わず飛び起きた。

「なあなぁ、それってどうすればいいんだ? 吉村!!」

「天城が怒らないと言うなら教えてやる」

「条件付了承!」

「また曖昧な」

「って言うか、俺が怒るような方法って何だよ?」

「わからんのか?」

 すまん朋友、ワカラン。

「拒絶せず、双子のどちらかと付き合えばいいんだよ」

 後頭部を殴られたような衝撃に、俺は思わず体制を崩す。

「まぁしばらくは騒がれるだろうが、相手があの真柴なら、周囲から要らぬちょっかいを出される事も無くなる」

「お、お前なぁ……」

「あぁ…お前がどんな奴かは重々理解している。その愛らしい容姿を四苦八苦しながら、如何に目立たないように努力しているかもな。正直、真柴兄の眼の付け所は、間違っていないと共感できなくはない」

「よ~し~む~ら──っ!!」

 いくら何でも、今のは酷いぞ!

 俺が食って掛かろうとすると、隆樹はその攻撃を難なくかわし、俺の頭にその手を乗せた。

「ははは、そう怒るな。今のは悪かったよ」

「ウッサイ、タカの馬鹿! 頭撫でて誤魔化すな!!」

「やれやれ…呼び名が昔に戻ってるぞ? 苗字で呼び合うんじゃなかったのか?」

「あぅ……」

 吉村に窘められ、俺は我に返った。

「これじゃお前の理想とする男性像へは、まだまだ到達できそうにないな」

「うっせぇ!!」

「……本当にすまん。からかい過ぎた」

 そう言って、吉村は頭を下げてはいるが…目はまだ笑ってる。

 絶対許してやらねぇ!!

「まったくどいつもこいつも…人の苦労も知らないで」

「そりゃそうだろ? 知られぬようにしているのは貴様だし、知ってる俺もこればっかりは、替わってやる事ができないからな」

 そう言い、吉村は俺の前髪を掻き揚げる。そして、覗き込むように俺の顔を見つめた。

「瞳の色…前よりも濃くなってきたな。ここまで朱色に変わっては、そろそろカラーコンタクトでも必要なんじゃないか?」

「……そんなに酷い?」

 彼の真剣な眼差しに戸惑いながら、俺は小声で問いかける。不安な気持ちが声に伝わってしまったのか、彼は俺を気遣うように微笑みこう応えた。

「今はまだ大丈夫だと思うけどな。誕生日も近いことだし、何なら買ってやるよ」

「それは悪いって…それに、欲しいものは他にあるし」

「たかる気は満々か…まぁいいけどな」

 肩を竦め、彼は俺から離れる。それと同時に、屋上の扉が開けられた。

「ミッちゃん発見! こんな所にいたんだ~♪」

 勢いよく飛び込んできた相庭。大きく手を振りながら、俺に声をかける。

「よう」

「……相庭か」

「あ、タッちゃんも一緒だったんだ~♪ ホント、二人はラブラブだねぇ」

「語弊のある言い回しはやめてもらおう」

 相庭の軽口に、突っぱねるようにそう返す吉村。鉄面皮を被ったその姿は、先程までのが嘘かように感じさせる。

 こういうのって、ツンデレっていうのかなぁ?

 そう思いながらふと見ると、相庭の後を続くように、屋上へ上がって来る人影に気が付く。俺はその人物に声をかけた。

「委員長に…真柴さん?」

 俺の前に姿を現したのは、岸辺と真柴妹だった。

「何でここに?」

「校内を案内しているの。…因みにお兄さんの方は、小枝原君に頼んでおいたから」

 俺の質問に、岸辺は笑みをこぼしそう答える。俺が落ち着きなくしていたので、そう言葉を付け加えたんだろう。俺ってそんなに分かりやすいのかな?

 まぁいいや。

 俺は話題を一旦切り、真柴妹の方を向く。

「で、何か面白いものでもありました? 真柴さん」

「名前でお呼びください。苗字ですと、兄と混同いたしますし」

「いや、確かにそうだけど……」

「……駄目でしょうか?」

 上目遣いで俺を見つめる真柴妹。不安そうに佇む姿が、凄く可愛らしい。

 破壊力あるな…これは断れん。

「……わかった、以後そうする」

「ありがとうございます」

 そういって微笑む彼女は、本当に嬉しそうで直視できなかった。

「妹の方はまんざらではないか」

「……ウッセェ」

 背後から俺にそう囁く吉村に、俺は肘打ちを放つ。もっとも、奴は難なく、それを片手で受け止め防いだが。

「で、まだ途中だろうけど…見てまわってどうだった? もっとも、何かあるってわけじゃない、ごく普通の学校だけど……」

「いえ、そんな事は…わたくし、このような場に来るのは初めてですので、見るもの全てが新鮮です」

 そう言って、彼女は屋上の手すりに手をやり、グラウンドの方を見下ろす。この時間、グラウンドで過ごす生徒も少なくはなく、楽しそうに遊ぶ姿があった。

「何より、同世代の方々と交流する場など、殆ど持ち合わせていませんでしたので…これからの生活を考えると、胸が躍るばかりです」

「そっか」

 そういえば自己紹介の時にも、そんな事言ってたような気がする。超が付く金持ちの御令嬢なんだ。その箱入りっぷりも、並ならぬものだったのだろう。

「楽しみか~。そうだよね♪ これから色々とよろしくね!」

 そう言って真柴妹に抱きつく相庭。こいつは誰に対してもこんな感じだ。ある意味得な性格ではあるよな。馴れ馴れしいというか…ま、彼女もまんざらではないって感じだから、放置するけど。

「ってわけで、いさみんも私達『仲良しクラブ』の一員になったから、ミッちゃんもタッちゃんも、意地悪しちゃ駄目だからね!」

「仲良しクラブってなぁ……」

「その名称は、断固拒否すると言っただろう」

 相庭の言葉に呆れる俺達。吉村はよっぽど嫌なんだろうな…ポーカーフェイスが崩れかけている。

「因みにお兄さんの方は?」

「アレは放置。その方が面白そうだから♪」

 委員長が問いかけると、相庭はサラリとそう答えた。面白いってどういう意味かと、聞くのも嫌だ…人事だと思って。

「さて…寛ぐのもいいが、そろそろ時間がないぞ?」

 騒いでいる俺達に対し、時計を見るように促す吉村。彼が言うとおり、時間はかなり押していた。

「そうね、それじゃ戻りましょう。いさみさん、案内はまた放課後にでも」

 委員長の号令に合わせ、俺達は屋上から立ち去る。

 教室へと向かう中、俺は真柴妹に声をかけた。

「……その…なんだ。よろしくな…いさみさん」

 望まれている事とは言え、やっぱり下の名で呼ぶのには抵抗を感じる。

 彼女は俺の言葉に、満面の笑みを浮かべこう返した。

「こちらこそ、よろしくお願いいたします。羊一…さん」

 当然のように、名で返されてしまった。

 まぁ初対面の時のような呼び捨てでない辺り、彼女なりに俺との距離を考慮したものなのだろう。

 恋愛どうこうは別として、彼女とは付き合っていけそうな気がした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ